なぜ米国防総省はWindows 10を採用したのか:松岡功の「ITニュースの真相、キーワードの裏側」(2/2 ページ)
「勝手にアップグレードされた」「なぜ強行するのか」などと、最近、Windows 10へのアップグレードについて大きな関心が寄せられている。そんな中、米国防総省が省内で使用している約400万台のPCのOSを、2016年内にWindows 10へ移行することを決めた。アップグレードをネガティブな目で見る風潮がある中で、なぜ米国防総省はWindows 10への移行を決定したのか。
新たな段階に入ったサイバーセキュリティに対する企業の戦い
以上のことから、米国防総省が「脅威を多層防御するセキュリティ体制を高く評価した」ことが伺える。
三上氏は、「サイバーセキュリティの脅威は今や国家レベルの問題となっており、“境界防御”ではもはや限界が生じている状況だ。これに対し、Windows 10では多層防御による対策を講じており、さらにクラウドを活用することで、最新の情報を基に、新たな脅威へも素早く対処できる体制を整えている。万が一、攻撃によって侵入されたとしても、多層防御の手段でさまざまな手だてを講じることができるようにしている」と強調した。
また、注目したいのは、米国防総省の規模に対する、移行計画のスピードの驚異的な速さである。同省では、まず既存のPC上での移行を進める構えだが、それでも全世界に点在し、あらゆる役職・職種のための役割が与えられたPCについて、動作環境やアプリケーションの互換性などを検証し、場合によっては調整する必要がある。
一般的な企業における数百、数千台規模のリプレース計画とは規模が桁違いであり、しかも、機密情報を扱うこともあるだろう国防業務に使われるPCである。それを約1年という移行期間で済ませる計画だとは。なぜ、これほどまでに急ぐのか。それもまさしく、「米国防総省のセキュリティ対策への強い危機意識」の表れに他ならない。ユーザーインタフェース(UI)が気に入らないといった次元の話ではないのだ。
そんな米国防総省のセキュリティ意識に刺激を受ける形で、「全面的な移行へ向けて本格的に検討する企業もかなり増えてきた」という。
IT担当者はどう向き合うべきか:“新しいものを使わないリスク”の方が大きい
業務PCの選定や移行計画に携わるIT担当者とトップ層は、Windows 10への移行についてどう考えるべきか。
浅田氏は、「Windows 10はこれまでのWindowsの設計を根本的に見直し、企業のお客さまにとって必要なセキュリティ機能や利便性を徹底的に追求してきたOSだ。OSの移行が煩わしいのは当社も重々承知している。しかしそれに見合う、従業員へのメリットとなる環境を提供できる。ぜひとも使っていただきたい」コメントする。
そして三上氏も、「Windows環境に関してはもう、“新しいものを使わないリスクの方が大きく”なってくる。Windows 10を活用することで実現する生産性とセキュリティの向上は、企業の経営およびビジネスにおける競争力に直結すると確信している。Windows 10によって、多くの企業のお客さまに競争力を高めていただきたい」と語った。
それにしても、Windowsは利用者が多いだけにサイバー攻撃の標的にされやすく、長らくセキュリティが最大の課題になっていたが、クラウド時代のWindows 10は逆に、「セキュリティ対策が最大の特長」になっているとは。Windowsの誕生から見てきた筆者としては隔世の感がある。
それもさることながら、今回の米国防総省の事例はWindows 10をめぐる話題だけでなく、サイバーセキュリティに対する企業や組織の戦いが新たな段階に入ったことを象徴する動きとも見て取れそうだ。キーワードは「強い危機意識を持つ」「企業として、何が最重要なのか」である。
筆者
松岡功(まつおか いさお)
ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。Facebook
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