このシステム、使えないんでお金返してください:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(29)(1/3 ページ)
東京高等裁判所 IT専門委員の細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回も多段階契約に関連する裁判例を解説する。中断したプロジェクトの既払い金を、ベンダーは返却しなければならないのか?
IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。前々回、前回と、「多段階契約」プロジェクトにまつわる争いを紹介し、契約のポイントを解説した。
多段階契約は、個別契約の都度、プロジェクトの状況に応じて、成果物や納期、費用を調整しながら進められるので、ユーザーにとってもベンダーにとってもリスクテイクできる手段である。さらにベンダーにとっては、「プロジェクトが途中で終わっても、仕事をしたと認められる部分の支払いを受けられる」というメリットがある、
しかし、前々回の「分割検収後に既払い金の返還をユーザーがベンダーに求めた裁判例」や、前回の「発注されなかった後期工程の支払いを求めたベンダーの裁判例」のように、原理原則から外れた事案で争われることもある。
今回も多段階契約の意味合いを考えさせられる裁判例を取り上げる。そもそも多段階契約が認められるのはどのようなときか、ベンダーが多段階契約のメリットを享受するためにはどのようなことが必要なのか、を考える。
プロジェクトが中断し、ユーザーが全額返還を求めた裁判例
東京地裁 平成25年7月19日判決より抜粋して要約
米国デラウェア州の法人(以下 ユーザー)が、システム開発業者(以下 ベンダーA)に対し、SNSサービスサイトの構築を委託した。契約は、第1段階から第3段階までに分けられ、段階が完了するごとに検収と支払いが行われることとされた。
開発は順次行われ、着手金と第1段階分、第2段階分までの支払いが行われたが、第3段階の実施中にプロジェクトが計画通りに進まず、結局中止となった。
ユーザーはベンダーAとの契約を解除して、別のベンダー(以下 ベンダーB)にシステム開発を依頼し、これを完成させた。ベンダーAに対しては、既払いの第1段階、第2段階分費用の全額返還を求めて提訴した。
第1段階と第2段階の検収が終わり支払いまでしているにもかかわらず、ユーザーは契約全体を解除し、費用の全額返還を求めて提訴している。前回も書いたが、こうした訴訟が起こること自体「IT紛争では検収書が絶対のものではない」ことを物語っている。
対立点は、「本契約は、そもそも分割して考えられるのか」だ。
ユーザーは、「多段階契約であっても、結局は1つのシステムを開発する契約である。それが完成しなかった以上、ベンダーに費用を払ういわれはない」との主張だ。
一方のベンダーは、「多段階契約は複数の契約である。全体が完成しなくても、検収した分は支払いを受けられる」との考えだ。多段階契約をする目的そのものと言ってもよいだろう。
では、裁判所はどのように判断したのだろうか。次ページで判決文の続きを見ていこう。
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