納期が遅れているので契約解除します。既払い金も返してください:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(27)(1/4 ページ)
東京高等裁判所 IT専門委員の細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は頓挫した開発プロジェクトの既払い金をめぐる裁判例を解説する。
IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。前回は、パッケージソフトをカスタマイズして開発するプロジェクト頓挫の裁判例を解説した。
今回は、分割検収後に既払い金の返還をユーザーがベンダーに求めた裁判を紹介する。
分割検収のススメ
読者の皆さんは、「分割検収(多段階契約)」をご存じだろうか。
経済産業省が勧める、「システム開発プロジェクトの工程ごとに契約を区切る契約プロセス」で、私も自著や講演でシステム開発にかかわる方々に何度もお勧めしてきた。
長期間にわたって実施するITプロジェクトを1つの契約で実施すると、最後の最後までユーザーが成果物を検収しなかったり、最終のテスト段階でさまざまな欠陥が噴出したり、スケジュールの遅延が発覚したりした場合、開発に掛かった費用をまったく支払ってもらえなくなる可能性がある。
しかし、プロジェクトを「要件定義工程」「設計工程」「制作とテスト工程」と分け、おのおのが終了するたびに中間の検収を受け、その都度支払いを受けられるようにしておけば、制作工程途中でプロジェクトが頓挫しても、前の2工程分の支払いは受けられるので、ベンダーは損失を抑えられる。
ユーザーにとっても分割検収はメリットがある。検収が中間チェックポイントになり、その都度プロジェクトの健全性を総合的に判断できるので、問題を早期に発見しやすいからだ。
ただし、分割検収を受けても、最終的にシステムが完成せず、「当初の契約目的を果たさない」場合は、ユーザーが既払い金の返還を求めることがある。私はそうした紛争の調停を行ったことが何度もある。
こうした場合、裁判官は「紙の上で検収されているから」というだけの理由でユーザーの返還請求をしりぞけることはせず、実際のプロジェクトの中身を精査して判断するようだ。もちろん、検収は検収であり、その意味合いは軽くない。しかし「検収印さえもらえれば絶対に安全」というものでもない。
今回は、ユーザーが分割検収後の既払い金返還を求めた裁判事例を紹介しよう。
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