このシステム、使えないんでお金返してください:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(29)(2/3 ページ)
東京高等裁判所 IT専門委員の細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回も多段階契約に関連する裁判例を解説する。中断したプロジェクトの既払い金を、ベンダーは返却しなければならないのか?
多段階契約は複数の契約である。ただし……
東京地裁 平成25年7月19日判決より抜粋して要約(続き)
ベンダーAは、第3段階の不履行を理由とする本件契約の全部解除は許されない旨主張するところ、仮に、契約が可分であり、かつ、分割された給付につき相手方が利益を得ていると認められる場合には、未履行部分についての一部解除しかすることができないと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、本件契約は、第1段階から第3段階までの段階ごとに進捗(しんちょく)管理がされ、分割金も各段階が「完了した後」に支払われるものとされていることからすると、本件契約は、上記段階ごとに可分なものと解する余地はあると解される。
裁判所は、このプロジェクトは3つの段階に明確に分けて管理されており、費用も各段階の完了後に支払われていることから、契約は分けて考える余地があるとしている。つまり、原則としては、多段階契約なのだから、システムが完成していないことを理由に既払い金の返還は求められないとしている。
ただし、これはあくまで原則の話であり、多段階契約さえ結んでおけば安心という意味ではない。
引用した判決文の2行目を見ていただきたい。「分割された給付につき相手方が利益を得ていると認められる場合には〜」とある。つまり、「途中までの費用をもらうには、そこまでに作ったものが、ユーザーに利益をもたらしているかがポイント」ということだ。
例えば、ウオーターフォール型の開発を「要件定義」「設計」「実装」「テスト」と区切って契約し、「実装」途中でプロジェクトが頓挫した場合なら、「それまでに作った要件定義書や設計書が、他人でも理解できるものであり、仮に別のベンダーが作業を引き継いだ場合でも役立つものであれば、費用はもらえる」との考え方だ。
アジャイル開発であれば、「先行してリリースした機能が問題なく動作し、後続の作業はそれ以外の機能だけを補えばよい、という状態であれば、リリースした部分を包含する契約に基づいて費用はもらえる」ということだ。
では、ベンダーAが作ったものは、ユーザーに利益をもたらすものであったのだろうか。
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