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「SAP HANA Cloud Platform」はPaaSのスタンダードになるか松岡功の「ITニュースの真相、キーワードの裏側」(2/2 ページ)

SAPがPaaSのスタンダードを目指して「SAP HANA Cloud Platform」の普及展開に注力している。先頃、日本でも同サービスの事業強化を打ち出した。果たして、同社の野望は実現するか。

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オープンスタンダードに基づいて開発されたHCP

 あらためて、HCPとはどんなものか。HCPは「SAP HANA(以下、HANA)」をベースに、アプリケーションの開発/統合やデータベース、データ分析などの機能を装備したPaaSである。

 SAPが2010年に市場投入したHANAは「インメモリデータベース」と呼ばれることが多いが、同社では企業システムにおけるOLTP(オンライントランザクション処理)を行う基幹系と、OLAP(オンライン分析処理)を行う情報系の業務アプリケーションを単一基盤でリアルタイムに実行できる「次世代プラットフォーム」と位置付けている。そのクラウド版として2013年5月に発表され、改良されてきたのがHCPである。

 HCPの特長を、同社は次のように説明している。

 「デジタル時代に求められる次世代ビジネスアプリケーションの開発/拡張/運用には、非常に多くの機能が必要となる。HCPではデータ分析エンジンや統計解析ライブラリをはじめとする多くの構築用ツールを備えているため、例えば、在庫や課金、商品や顧客情報など、基幹系と連携したIoT(Internet of Things)アプリケーションやビッグデータ向けのアプリケーション、既存SaaSの拡張などをクラウド上でスピーディに構築・運用することができる」(図2)

SAPが提供するソリューションの全体像 図2 SAPが提供するソリューションの全体像(出典:SAPジャパンの資料)

 さらに最新の機能拡充について、「“SAP S/4HANA”や“SAP SuccessFactors”などのSAPソリューションとの統合機能が拡張され、外部のビジネスアプリケーションとの連携を可能にするAPI統合機能も強化されたことにより、イノベーティブなビジネスアプリケーションの開発を加速する」ことや、「オープンソースのPaaS機能であるCloud Foundryにも対応しているため、開発者は自由に開発言語を選択できるようになった」ことなどを挙げた(図3)。

「SAP HANA Cloud Platform」の概念図 図3 「SAP HANA Cloud Platform」の概念図(出典:SAPジャパンの資料)

 特に、HANAについては独創的な技術革新だという評価のある一方で、オープン性に懐疑的な見方もあったが、鈴木氏は「HCPはHANAの技術革新を継承しながらもオープンスタンダードを採り入れて開発されており、PaaSとして柔軟に活用できるのが大きな特長だ」と強調した。

 ちなみに2016年6月の会見では、2016年5月末時点でHCPは全世界で2610社、50万人のユーザーに利用され、400社以上のパートナーがHCP上でアプリケーションの開発に取り組んでいることを明らかにした。

注目されるモダナイゼーションとIoTへの対応

 では、SAPは今後、HCPをどのようにPaaSのスタンダードに押し上げていこうとしているのか。鈴木氏は特に日本独特のIT事情を踏まえて次のように語った。

 「日本企業の基幹業務システムは、まだまだスクラッチで開発されたものが多く、今のままでは新しい技術を採り入れたアプリケーションに対応できなくなってしまう。これを打開するには、まずアプリケーションの開発環境を整備し、システム全体を柔軟かつシンプルなものに再構築していく必要がある。その点で、さまざまな業務アプリケーションとの連携機能をきめ細かく装備し、オープンな技術を活用しながらクラウドも有効利用できるHCPは、うってつけの開発環境だと自負している」

 同氏が言う「システム全体を柔軟かつシンプルなものに再構築していく必要がある」とは、すなわち、システムの“モダナイゼーション”に取り組むことである。

 昨今、日本企業の基幹業務システムの多くにモダナイゼーションが求めれているのは周知の事実だ。そこで、例えばオンプレミス環境でHANAを適用し、HCPとの連携を図ってモダナイゼーションを実施することで、個々の企業にとって最適なハイブリッドクラウドの利用形態を目指すというアプローチも考えられる。

 このように、HCPが「モダナイゼーションの道具」として広く使われるようになれば、PaaSのスタンダードへの道は大きく開けるかもしれない。

 さらに注目しておきたいのは、図2に示されているように、HCPがIoTプラットフォームの基盤として位置付けられていることである。IoTの世界、そしてビジネスがこれから大きく広がっていく中で、HCPがその基盤として広く使われるようになれば、これもまたPaaSのスタンダードへの道が大きく開けるだろう。

 モダナイゼーションIoT、特にこの2つの分野において、HCPがどれだけ使われるようになるか、注視しておきたい。



 最後に、HANAおよびHCPの事業の陣頭指揮を執る鈴木氏に、ユーザー企業のIT担当者や開発者へのメッセージをお願いしたところ、次のように語ってくれた。

 「企業でITに携わっている方々には、ぜひともSAPの技術革新がどのようなものかをご理解いただきたい。特にHANAおよびHCPは、必ず興味を持っていただけると思う。当社では今後も“SAP Tech Jam”をはじめとして技術に関するイベントやセミナーに注力していくので、ぜひ活用いただきたい」

 筆者の印象でも、SAPのHANAおよびHCPに対する企業の注目度は非常に高い。ただ、HANAが世に出て6年、HCPはまだ3年にすぎない。時代の変化を象徴するような新技術も、まずはどれだけのエンジニアに担いでもらえるかが普及の大きなカギを握る。その点で、SAPがどのようなエコシステムを作っていくのかも重要なポイントである。

筆者

松岡功(まつおか いさお)

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ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。Facebook


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