SAP、アナリティクス機能を一元化したSaaS製品 「そのBIツールは、IT音痴の経営層でも使えるか?」:クラウド/オンプレ、一元化した分析機能を提供
SAPジャパンが、クラウドベースの分析製品群「SAP Cloud for Analytics」を発表。SAP HANA Cloud Platformでネイティブに構築され、迅速な経営判断を支援するデジタルダッシュボード、計画、予測、セルフサービスBIの機能を統合して提供する。
SAPジャパンは2015年12月1日、分析機能を一つにまとめたSaaS(Software as a Service)型のクラウド分析ソリューション「SAP Cloud for Analytics」を発表、同日より提供を開始した。
SAP Cloud for Analyticsは、インメモリデータベース「SAP HANA(以下、HANA)」を活用したPaaS(Platform as a Service)である「SAP HANA Cloud Platform(以下、HCP)」上で動作するリアルタイム分析ソリューション。分析のためのデータは、クラウドではHCP上に構築したクラウドアプリケーションやSaleforceなどの他社クラウド環境から、オンプレミスではSAP HANAおよびERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)「SAP S4/HANA」や情報分析系ツール「SAP BW(Business Information Warehouse)」、HANAベースの各種アプリケーション、既存のSAP分析ソリューションなどから透過的に集められる。迅速な経営判断を支援するデジタルダッシュボード、計画、予測、ビジネスインテリジェンス(BI)の機能など、クラウド/オンプレミスを意識することなく連携できるよう一元化した分析機能を提供する。
格納形式を問わず各種データベースも扱え、例えば、CSVファイルを取り込んで、Microsoft Excelより簡単とSAPがうたうデータ分析や視覚化も可能とする。経営層や業務部門のユーザー自身が成果や状況をリアルタイムに把握し、ビジネスの傾向を予測・分析することで、確かな情報に基づく意思決定を支援できるという。
SAP Cloud for Analyticsは、業務部門主体で分析できる「Cloud for Analytics for BI」、事前準備なしに計画モデルと計算ロジックを作成できるという「Cloud for Analytics for Plannning」と、企業グループ全体の経営状況をリアルタイムに把握し、視認できる経営会議向けダッシュボード「SAP Digital Boardroom」のコンポーネントをまず用意する。月額単位で支払うサブスクリプションモデルで、コンポーネント個別の契約も可能。予測モデルを立てる「Cloud for Analytics for Predictive」とガバナンス対応やリスクを分析する「Cloud for Analytics for GRC」も2016年内を目標にリリースする。
「徹底して、“ITに詳しくない人向け”を意識した。例えば現在、役員は経営会議のその場で示される資料のみで経営判断できているか。“追って調べて次回の会議で──”といった意思決定プロセスではもう遅い。担当者も、もちろん役員自身も、経営の意思決定に必要な情報をその場で即座に確認できるようにする。出てきた課題も画面タッチのみでどんどんドリルダウンして詳細を追い込める。全てのアナリティクスを、すべてのユーザーに、一つの製品で。とにかく、この意思決定のスピードを速める支援をしていきたい」(SAPジャパン バイスプレジデント プラットフォーム事業本部長の鈴木正敏氏)
他社クラウドやオンプレミスソリューションとの連携も想定する。連携対象は、まずSalesforce.comから。この他、パートナーによる組み合わせ型サービスとして提供される連携方法を中心に、今後、他社クラウドとの連携も拡充させていく考えも示した。
これまでの分析ツール製品の課題、「Cloud for Analytics」の狙い
これまでの分析ソリューション市場は、サイロ型アプローチで個別に機能を提供しており、業務アプリケーションと分断されていたのが課題だったと鈴木氏は述べる。業務部門への部分最適観点ならば、これでも業務効率化として効果を果たすが、他に販売システム、購買システム、生産管理システム、人事システムなど多岐に渡る業務アプリケーションもある中で、経営層が全社を見渡して意思決定するための仕組みや視点が欠けていたという。
また、IT部門を通さず業務部門自らが分析ツールを導入した場合の課題も挙がる。定期的なリポートではなく、そのとき、その状況に応じて適切なリポートに作り替えていくような「アジャイル型のBI能力」が伴わず、結果として迅速な意思決定に結び付かなかった。あるいは、オンプレミスに偏った分析基盤を構築したことで拡張性がなかった、といった課題だ。Nucleus Researchの「2014 Analytics Market Servey」によると、結果としてアナリティクス利用者の75%は「構築や維持コストばかりが肥大化しており、これでは効果が薄い」と感じている。
SAPジャパンの鈴木氏は「客に対して価値を届けるまでの時間、つまり、リアルタイム性が急速に増している。それが普通に求められる時代になった。そして、蓄積されるデータをいかに経営へ生かすか。リアルタイムなビジネス、そしてデータドリブンな経営を支援できなければ、企業全体のデジタル変革は支えられないと考える。データをクラウドへ全て移行させずとも既存のオンプレミス環境はそのまま使える。それを横断的に提供できるのがSAPの強みであり、SAP Cloud for Analyticsを用意する最大の理由。SAPはオンプレミスでのBIソリューションで一定の地位を築いているが、クラウドでもトップを狙う。今後、この領域を積極的に推進していく」と製品戦略の狙いを述べた。
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