あなたのスマホに「アイトラッキング」機能が備わる可能性:GPGPUとディープラーニングで開発が加速
NVIDIAが、GPUコンピューティングを利用したディープラーニングにより、視線の軌跡を検知する研究用スマートフォンアプリの開発が進められている事例を紹介した。
米NVIDIAは2016年8月30日、GPUコンピューティングを用いたディープラーニングを通じ、スマートフォンによるアイトラッキング(視線の軌跡検知)を実現しようとする研究の進展についてブログ記事で公開した。
人間が周囲から得る情報の多く(一部文献によると約8割)は視覚情報といわれている。この情報を得るために人間が行う視線の軌跡を検知し、データ化するのがアイトラッキング技術である。AI(Artificial Intelligence:人工知能)研究においても、人間がどこを、どのように、なぜ見るのかといった行動を把握することで、ユーザーインタフェース(UI)の最適化から、交通案内などの社会基盤、精神疾患の診断などまで、マーケティング、デザイン、広告、自動車、社会、行動心理学、医学といったさまざまな分野で役立つとされている。
これまでアイトラッキングは複雑な設備が必要だったことから、どこでも、誰でも容易に行えることではなかったが、ディープラーニングとNVIDIAのGPU(Graphics Processing Unit)コンピューティングの技術が、その状況を変えようとしているとNVIDIAは述べている。以下、ブログ記事を抄訳する。
スマートフォンで動作するアイトラッキングソフトウェアを開発
アイトラッキングは大きな可能性を秘めている。しかし、簡単に実行できず、サンプルも得にくいことが研究者の悩みの種だった。そこで米マサチューセッツ工科大学(MIT)の大学院、米ジョージア大学の大学院、ドイツのマックスプランク情報科学研究所に在籍する7人の研究者のチームが、カメラ付き携帯電話で動作するアイトラッキングソフトウェアを開発する研究に乗り出した。開発の狙いは、「既にあるモバイルデバイス/ネットワークの技術を利用」して、「膨大なユーザー」を対象にアイトラッキングを行うことにあった。
このアイトラッキングソフトウェアの開発では、同チームが「iTracker」と命名したニューラルネットワークの訓練と推論の両方において、NVIDIAのGPU「GeForce GTX TITAN X」によるGPUコンピューティング環境とディープラーニングフレームワーク「Caffe」が使われた。
ジョージア大学の大学院在籍時にこのプロジェクトに参加し、現在は米グーグルのソフトウェアエンジニアであるカイル・クラフカ氏は、こう述べている。「NVIDIAからこのプロジェクトに寄付されたGPUコンピューティング環境により、並列処理を利用して数百に上るモデルを実行できた。これは従来のCPUコンピューティング環境だけでは不可能だっただろう。迅速に実験したり、新しいアイデアをすぐ試したり、何がうまくいって、何がそうではないのかを迅速に見つけることができた」
大量のデータの活用
しかし、ニューラルネットワークの訓練には膨大な量のデータも必要だ。そこで同チームは新しいアプローチでデータを取得した。それは、AIのクラウドソーシングマーケットプレースである「Amazon Mechanical Turk」を利用することだった。これにより、同チームはアイトラッキングのデータセットを、約1500人のAmazon Mechanical Turk参加者から収集できた。過去の研究と比べて30倍の量に上ったという。
この大規模データセットを使ってiTrackerの訓練が行われた。この訓練を通じて、モバイルデバイスでリアルタイムにiTrackerを実行できることを実証でき、従来のアプローチよりもニューラルネットワークの精度が大幅に向上した。
研究チームは2016年現在、アイトラッキングアプリの開発に取り組んでいる。しかし、この技術を商用化するかどうかは未定だ。まずは開発成果をオープンソースとして開発者コミュニティーに公開し、反響を確認することを計画しているという。
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