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「プログラミング教育」はICTを活用した新たな“学び”のシンボル――小学校で成功させるためのポイントと実践事例特集:小学生の「プログラミング教育」その前に(4)(3/3 ページ)

政府の新たな成長戦略の中で小学校の「プログラミング教育」を必修化し2020年度に開始することが発表され多くの議論を生んでいる。本特集では、さまざまな有識者にその要点について聞いていく。今回は小金井市立 前原小学校 校長の松田孝氏。

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「小学校の先生」は、データサイエンティストでありファシリテーターであれ

 このように具体的な施策を提示する中で、松田氏は教員に対して「マインドセットを変革する必要がある」と指摘する。

 「『従来の授業はクソゲーだという危機意識を持ちませんか』と挑発的なメッセージを出しても、ぴんと来ない教員が多い。先にお話しした通り、従来の国語・算数・理科・社会など教科学習の完結性と完成度が極めて高いことが原因でしょう。プログラミング教育という、新しいものが入ってくることに対する違和感や抵抗感が強いように思います」


松田氏「文科省の『議論の取りまとめ』は、いわば『もろ刃の剣』です。私みたいな人はドンドン自由にやってしまうが、やらない人はやらないまま、なあなあで終わってしまう」

 では、松田氏が考える今後あるべき「小学校の先生」とは、どのような人材なのだろうか。

 「教員は、モビリティやソーシャル、ビッグデータ、クラウドといった第3のプラットフォームを意識してICTを使いこなし、データサイエンティストになるべきです。どこにでも持ち運べて、情報の共有もしやすいタブレット端末を使えば、テストの成績や学習履歴などがビッグデータとしてクラウドに蓄積されやすくなる。そうすれば、子ども1人1人の得意・苦手科目や学習傾向を分析・把握しやすくなります。

 そして極論をいえば、教員は教科の内容を教えなくてもいいと思っています。データ分析に加え、授業ではテレビの教育番組や動画教材、タブレットアプリなどを活用し、教員は子どもたちが学習している様子を“観察”しながら、クラス全体で学び合う大きなテーマを作っていく。これは、まさにソーシャルであり、アクティブラーニングです。教員に求められる役割は、ファシリテーターなのです。

 従来までの“先生”の姿はそこにはありません。そもそも教員には、『自分が教えなければならない』という強迫観念がありますが、ファシリテーターに徹した方が、教員にとっても楽しい授業になるはずです」

 よく「プログラミングを必修化したら授業の準備に時間がかかり小学校の先生が大変だ」といわれるが、そもそもITの力で従来の授業の仕方を大きく変えることで、教員の労力を削減できるというわけだ。子どもたちに知識を理解させるために、プリントを作って、印刷して、配って、やらせて、回収して、円付けして、採点する。これらはタブレットを導入するだけでも、大きな労力削減となる。

 「例えば、漢字の書き取りプリントや都道府県フラッシュカードなどは作成が大変ですが、その代わりができるタブレット端末やアプリはもうあるわけです」

 端末の導入に関しては初期コストが掛かるが、松田氏は、「もうBYOD(Bring Your Own Device)で、生徒に端末を持ち込んでもらうのでいいのではないでしょうか。行政には、セキュリティや負荷分散など含めて無線LANなどの通信インフラを整えてほしい」と提案する。

 ソフトウェア面でも教育システムの導入にはコストが掛かりそうだが、これについては「がっちりと固められたシステムよりも、各学校や教員が自由に選べた方が面白い。IT技術の変化は速いので、ツールもより良いものがすぐに現われるでしょう。行政がクラウド上に教育ツールのアプリやコンテンツのプラットフォームを作って、自由に追加・選択できるようになることを期待しています」と話した。

 こういったプラットフォームの整備や、アプリの拡充には、今後ITエンジニアの力が必要となっていくことが予想される。松田氏からITエンジニアにもメッセージをもらった。「学校のプログラミング授業を助けてほしいですね。自宅の近くにある小学校の先生とプログラミング授業や学校のITインフラについて話したり、働き掛けたりするなど、専門家として貢献できることがあるはずです。『チームティーチング』を行う場合も、授業を展開するのは主に学校の教員が行い、ITエンジニアの方にはテクニカルサポートに入っていただくのが理想の姿だと思います」

 松田氏は、インタビューの最後に、これからプログラミング授業に取り組む教員たちに向けてもメッセージを送ってくれた。

 「小学校の教育は、子どもたちの未来に責任を持っています。しかしその未来は、遠い先ではなく“今”にあります。『プログラミング教育』は、2020年の必修化が検討されていますが、教員はそれを待つのではなく、今から積極的に取り組んでほしい。現代社会は変化するスピードがものすごく速いため、2020年には『プログラミング』に代わる新しい課題が生まれているでしょう。既に多くの学校に『パソコン教室』があるので、タブレットみたいに自由度が高くはなくても、やれることがあるはずです。やれるところから徐々に試してみてはいかがでしょうか。

 テクノロジーを積極的に活用した教育実践を推進していくことで、小学校教育は大きく変わることができると確信しています。その象徴こそが、プログラミングの授業なのです」

次回は、「プログラミング教育必修化の本質を考えるシンポジウム」

 今回お話を伺った松田氏の取り組みは、学校現場ではとても先進的なIT活用事例といえるだろう。松田氏も「完全に異端ですよね」と自認している通り、ICT活用が進まない学校の教員から見れば、なかなか自分事化するのは難しいかもしれない。

 とはいえ、プログラミング教育を既に実践しているのは、前原小学校だけではない。まだ時間数は少ないが、実験的に取り組み始め、課題も含めて今後のプログラミング教育を現実のものとして検討している小学校もある。2016年8月27日に開催された「プログラミング教育必修化の本質を考えるシンポジウム」では、4校の取り組みが紹介されたので、次回は、この模様をお届けしよう。

特集:小学生の「プログラミング教育」その前に

政府の成長戦略の中で小学校の「プログラミング教育」を必修化し2020年度に開始することが発表され、さまざまな議論を生んでいる。そもそも「プログラミング」とは何か、小学生に「プログラミング教育」を必修化する意味はあるのか、「プログラミング的思考」とは何なのか、親はどのように準備しておけばいいのか、小学生の教員は各教科にどのように取り入れればいいのか――本特集では、有識者へのインタビューなどで、これらの疑問を解きほぐしていく。



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