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欧米の金融業界は今、どうHadoopを活用しているか金融業界とHadoop(1)

Hadoopは、欧米の金融関連サービス業界でどう活用されているか。米Hortonworksの金融サービス業界担当ゼネラルマネージャーへのインタビューで得た情報を、2回に分けてお届けする。今回は金融業界におけるHadoopのユースケースを概観する。

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 Hadoopは、欧米の金融関連サービス業界でどう活用されているか。米Hortonworksの金融サービス業界担当ゼネラルマネージャー、Vamsi Chemitiganti(バムシ・ケミティガンティ)氏へのインタビューで得た情報を、2回に分けてお届けする。今回は金融業界におけるHadoopのユースケースを概観し、次回は金融業界における事業環境の変化がHadoop活用にどのような影響を与えているかについて掘り下げる。

守りの活動でもソーシャル分析が重要に

 金融関連サービス業界といってもさまざまで、消費者・法人向け金融機関、クレジットカード会社、ヘッジファンドなどの金融取引会社、資本市場などがある。だが、これら全てにほぼ共通するHadoopの利用目的があるとChemitiganti氏は指摘する。

 コンプライアンス、トレーディングにおけるリスク管理/サイバーセキュリティ、予測分析/不正検知、個別の顧客に関する多角的な情報把握とこれに基づくマーケティング/顧客サービスだ。これらは相互に連関し合い、Hadoopの利用を促しているという。

 金融の多様な分野で、コンプライアンス、トレーディングにおけるリスク管理/サイバーセキュリティ、予測分析/不正検知、個別の顧客に関する多角的な情報把握とこれに基づくマーケティング/顧客サービスといった共通の利用目的がある

コンプライアンスおよび不正検知

 「コンプライアンスの確保は、日本ではそれほどでもないのかもしれないが、欧州や北米では大問題だ」

 自社および顧客が不正を働いていることを承知しながら有効な対策を取らないと、米国などでは多額の罰金を支払わされる可能性がある。こうした背景から、投資銀行などでは、インサイダー取引や不正な取引が行われないよう監視する目的で、取引履歴情報を蓄積し、取引の状況を常時追跡、不正の発生を検知しようとしている。

 関連して、欧米で特に大きな問題となっているのはマネーロンダリング。マフィアや麻薬カルテル、テロリストなどの活動に関する情報を入手し、これを取引情報と照らし合わせるなどして、防ぐ努力をする必要がある。

 「ニューヨークなど、不動産価格が高止まりしている都市では、ロンダリングマネーを使った不動産購入が頻繁に行われている。銀行はこうした購入に使われる金がどこから来ているのか、合法な金なのか、把握に努める必要がある。LexisNexisなどの企業が提供しているウォッチリストデータベースを、銀行の過去5、6年にわたるデータと統合的に分析することで、不正にかかわる何らかのトレンドを見いだそうとしている。こうした分析では、多様なデータを1カ所に集めるのが有利だ。そこでHadoopが活用されている」

 Chemitiganti氏は、銀行の不正対策において、ソーシャルネットワーク分析が重要性を増していると指摘する。

 「金銭詐欺は、金融機関の対応能力を超えるべく、進化を続けている。悪者は毎年、詐欺の新しいやり方を生み出してくる。特にソーシャルネットワークは金銭詐欺の舞台ともなっている。このため銀行は、コンタクト/取引履歴やソーシャルネットワークの情報から、通常では考えられないような動きを見出さなければならないと考えるようになった」

 クレジットカードの世界でも、(不正利用の検知に)画一的な手法を適用するのでなく、文脈に基づく対応を進めるようになってきた。そのため、ユーザーをプロファイル化し、各人のライフスタイルとのつじつまが合わないような兆候を見出すようになっている、という。

ビッグデータによるサイバーセキュリティ

 金融業界では、社内、オンラインサービス、ATMなどの接続端末のいずれの分野でも、セキュリティに対して敏感にならざるを得ない。

 Hortonworksでは、Hadoopをベースとしたセキュリティ分析ソリューションを提供しており、金融業界での利用が拡大しているという。これはHadoopに、シスコシステムズから取得した技術を組み合わせたもの。Hortonworksはこの技術をオープンソース化し、「Metron」という開発プロジェクトとして運営している。

 「これまでも、サーバをはじめとする各種機器からイベントやログを収集し、セキュリティ分析を適用する製品は存在していた。これらに対するHadoopの利点は、どんな種類の情報でも低コストで扱えることにある」

 Metronはデータ入力フレームワークとして、多様なデータを取り込める。これに同社では約30の機械学習パッケージを追加し、セキュリティ分析の自動化を実現している。ダッシュボードで状況が視覚化され、異常が発見された際にはアラートで通知される。

 ある企業は、Microsoft Exchangeの電子メールを全てHadoopに取り込み、Metronでマルウエア検出を行っているという。

リスク管理と収益の最大化

 では、金融業界における、ビジネスの推進に貢献するHadoopの使い方には、どのようなものがあるか。

 流通業などにも共通するが、顧客の属性情報に基づくセグメンテーション分析は一般的に行われている。

 「これは資産管理ビジネスにもつながっている。各顧客のプロフィールや金融関連活動を多角的に分析し、これに基づいて適切なアドバイザーをマッチングしたり、自動トレーディングシステムを提案したりできる。Hadoopに多様な情報を統合して各顧客に関するリッチな分析を実現し、カスタマージャーニーを全面的に支援できる」

 「金融機関では、さまざまな目的での予測分析が広がってきた」とChemitiganti氏は話す。クオンツファンドはビジネスそのものが予測分析に基づいている。また、「銀行では、商品、地域、顧客別のリスク分析と機械学習の適用が広がっている。顧客支援のために予測分析行うケースが増えている」。取引所も、取引の場としての機能を果たすだけでなく、データ商品を開発し、分析サービスも提供するようになっている。

 予測分析では、アナリストがモデルを作り、これを過去1、2年といった取引データで検証、その結果に基づいて投入する。

 「こうした活動には、ビッグデータに基づくアーキテクチャが欠かせなない。Hadoopではまず、取引に関する何百もの属性を活用し、きめ細かな予測モデルを構築できる。これは従来のEDW(データウエアハウス)やリレーショナルデータベースでは非常に難しかった。また、分析の豊かさを向上できるだけでなく、並列処理によってスピードを改善できる。ある金融機関では、為替トレーディングの予測分析でこれまで既存型のEDW(エンタープライズデータウェアハウス)を用い、モデルの検証プロセスに2日をかけていた。これをHadoopベースの仕組みに切り替えたことで、所要時間を2時間に短縮できた」

 予測分析では、ソーシャルネットワーク情報の活用が進んできたという。例えば石油などの商品市場の動向を予測するため、Twitterフィードの分析に力を入れるケースが増えているという。大量のデータをHadoopnに集約、独特のノウハウを生かして分析を進めているという。

これまでのビッグデータ活動がFinTechにつながる

 上記のような不正検出への取り組みや予測分析の広がりで、欧米の金融機関では、各顧客や市場における多様な情報が蓄積され、あるいは機動的に外部のデータを取り込んで活用できる環境が整備されつつある。

 話題のFinTechも、「データを非常に洗練された形で活用するものが多い。ビッグデータとデータサイエンスをベースとし、その上に多様なサービスが載ってくる」。豊富な情報を集約した共通情報蓄積・分析基盤が整備されることで、先進的なサービスの開発スピードが高められる。つまり、欧米の金融機関では、これまでの活動がFinTechへの準備につながっているとも解釈できると、Chemitiganti氏はいう。

Apache Hadoopのグローバルイベントが東京で開催

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