映像解析技術で世界をより良くする――エンジニア出身社長を突き動かすたった1つの想い:Go AbekawaのGo Global!〜Abhijit Shanbhag編(2/3 ページ)
イメージや動画の解析技術を提供し、シンガポールの犯罪減少に寄与するソフトウェアを開発しているテクノロジー企業の代表が常に持ち続けている“純情”な想いとは――。 ※日本のエンジニアへのアドバイス動画付き
ビデオの時代が来ると予測して起業
阿部川 そろそろ、このサービスをいつごろ、どうやって思いつかれたのか、秘密を教えてください。
アビジットさん 私はムンバイで生まれ、ボンベイのインド工科大学(Indian Institute of Technology:IIT)に入学しました。アーパネット(ARPANET:世界で初めて運用されたパケット通信ネットワーク。インターネットの起源)の時代で、インターネットはありましたが、ごく限られた人しか使っていませんでした。もちろんブラウザもまだありません。私は、今でいうディープラーニングの前身について研究していました。
指導教授の専門が「イメージリコグニッション(画像認識)」で、卒業論文のために映像に関する基本的な調査をしました。これが私と画像や映像との最初の関わりです。
しかし、今と違って調査対象となる画像を手に入れるのはとても難しいことでした。映像を送ってくれた数少ない大学の1つが南カリフォルニア大学で、とても協力的にイメージプロセッシング(画像処理)のリサーチなども手伝ってくれました。そういうこともあり、その後南カリフォルニア大学に行き、博士号を修得しました。
卒業後、クアルコムで数年働き、2001年に半導体関連の会社「Scintera Networks」を起業しました。2008年にYouTubeなどがブームになったことに鑑み、ビデオで得た体験を的確に利用できるように変換するテクノロジー、プラットフォームが必要になると思い、2011年にGraymaticsを創業しました。
最初に思い描いたのは「映像情報を人々が的確に利用する方法を提供すること」でした。
YouTubeの映像はタイトルだけでは内容が分かりませんし、自分の求める映像を探し出すのは至難の技です。しかし、コンテンツ(内容)やコンテキスト(文脈)に基づいて検索できれば容易になるし、逆により視聴される映像をどのように作るかも制作側にアドバイスできます。
阿部川 会社設立当初は、何に苦労しましたか?
アビジットさん 情報量の膨大さ、バリエーションの豊富さですね。ネット上の情報の95%は、ユーザージェネレイテッドコンテンツ(user generated contents:ブログやコメントなどの利用者が作成するコンテンツ)であり、本当に多様です。それをどうやって、またどのような切り口でサーチするかが本当に大変でした。
阿部川 どれほど多くの組み合せと情報量があるか計りしれませんものね。しかしGraymaticsは、アイデアとコンピュータパワーで、それを実現した。
アビジットさん その通りです。私の学生時代は処理するのに1週間以上かかった処理が、今は70マイクロ秒でできるようになりました。
社会の問題を解決して、世の中を良くしていきたい
阿部川 クアルコムではエンジニアとして働いていたのですか?
アビジットさん はい。エンジニアとして日々の問題解決や製品開発に関わっていました。さらに、クアルコムが当時パテントを取得した3Gの規格化の交渉の場に駆り出された他、製品規格やポジショニング、マーケティングなどをする機会にも恵まれました。
阿部川 そのころはキャリアをどのように考えていましたか?
アビジットさん さまざまな仕事に自分のスキルを拡げていくことを意識していました。
クアルコムでの経験は、エンジニア業務にプラスαの視点を与えてくれました。同時に、大企業では自分の望むエンジニアの方向性を突き詰めるのは難しいとも思いました。そこで退職を決意して、2001年の終わりにScintera Networksを友人と2人で起業したのです。
2002年から10年ほどこの企業を成長させ、2011年にGraymaticsを創業しました。今、たまたまマネジメントの立場にいますが、私の根底にあるのは「社会で問題になっていることに解決策を示して、社会や世界をより良い方向に変えていきたい」という思いです。問題を解決すれば、新たな資産が自分の中に蓄積されます。
阿部川 「問題を解決したい、それによって人々の役に立ちたい」という、エンジニア的な発想がお仕事の核、原点にあるからか、キャリアの全てが1つの方向に向かっているという印象を受けます。大企業の一員であっても、起業してもそれは変わらない。
アビジットさん おっしゃる通りです。問題解決が、私の“芯”にあります。社会の問題を解決して世の中を変える、と言ってもいいでしょうか。
阿部川 それはご家族の影響でしょうか?
アビジットさん 人として自然な感情ではないでしょうか。もちろん両親や家族、起業家として活躍していた親戚からの影響もあると思いますが。
近親者には、私が生まれた地域に最初にスーパーマーケットを開いた人がいます。当時このようなビジネスをインドで立ち上げるのはとても珍しいことでした。私にも起業家の血が流れているのでしょう。
私が大学生のころも、起業する人は大変めずらしく、大企業――いわゆるエスタブリッシュメントの仲間入りすることが多くの人の憧れでした。しかし私はたとえ小さな組織であっても、何かを創り出し、それをエスタブリッシュメントにしていくことの方に魅力を感じていました。
さらに私には、チャレンジする自由があり、多くのメンターや先輩たちが私の夢を常に励ましてくれました。私はとてもラッキーだったと思います。
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