アジャイルだか何だか知らないけれど、ドキュメントがないのでシステムは未完成ね:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(39)(1/3 ページ)
IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は「システム開発におけるドキュメントは、何のために必要か?」を解説する。
アジャイル開発だからドキュメントはいらない?
最近はアジャイル開発が一般的になり、ユーザーと一緒になって話し合いながらモノづくりをしていく現場では、「ドキュメントは必要ない」と考える技術者も増えていると思う。実際、最近の開発では、「要件定義書」や「設計書」、あるいは「テスト仕様書」や、その「結果報告書」も作成せず、簡単なメモを残すだけで、後はプログラム本体を納品すれば完了してしまうようなものもある。
この考え方は、ある意味合理的だ。システムを細かい機能に分けて、ユーザーヒアリングやワークショップを行いながら、実装、テストする開発方式では、正式なドキュメントを作り、レビューや修正を行った後にプログラミングに入るより、できかけのプログラムをユーザーに見せて指摘をもらい、すぐに直してテストまで行ってしまう方が、効率的で生産性も高いともいえる。実際、余計なドキュメントの作成を後回しにするか、場合によっては「作らない」とするプロジェクトも増加しているのではないだろうか。
ドキュメントがない納品
そんなドキュメントより実物重視の時代に警鐘を鳴らすような判決が、平成26年に出た。「どこまで」のドキュメントを「いつまで」に残すべきか、そんなことを疑問に思うベンダー、あるいはユーザーは、ぜひ参考にしていただきたい。
東京地方裁判所 平成26年9月10日判決より
商品先物取引受託業務を行うユーザー企業が、業務システムの開発をITベンダーに依頼し、ベンダーはこれを行ったが、ユーザー企業は、請負代金などをベンダーに支払わなかった。理由は、ベンダーが期限までにシステムを完成させなかったとのことだったが、ベンダーは、システムは完成させたとして、未払の代金と開発中に使用したデータセンターの利用料の支払いを求めて裁判所に訴え出た。
一方ユーザー企業は、システムは完成しておらず、既払い代金の相当額を損賠として、その賠償を求めて、反訴を提起した。
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