データベースをパクられたので、著作権侵害で9億円請求します!:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(36)(1/3 ページ)
IT紛争解決の専門家 細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は「データベースの著作権」について、判例を基に解説する。
IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は、データベースの著作権について解説する。
著作権については過去に、プログラムや画面設計について何度か取り上げてきたが、データベースについては、分かりやすい裁判の例がなかった。しかし、2016年1月に知財高等裁判所でかなり具体的な判例が出たので紹介する。
データベースも著作権保護の対象?
「データサイエンティスト」という職種が、プログラマーや設計者と同じか、それ以上に評価されるようになったことからも分かるように、昨今は「データ」がはやりである。
データの重要性が増すにつれ、それを格納する「データベース」もまた、重要度を増してくる。多数のデータを格納し、迅速かつ容易に高度な検索や分析を行えるデータベースは、それそのものが貴重なソフトウェア資産であり、自らが創意工夫して作ったデータベースの設計や定義を、他人が勝手に使ってしまうようなことがあれば、黙って看過することはできないだろう。
著作権法でも、データベースが保護の対象になり得ることは明確にうたわれている。
著作権法 第十二条の二
データベースでその情報の選択又は体系的な構成によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。
どのようなデータベースに著作権が認められるのか
法律にはこのように定められているが、もちろん全てのデータベースが著作権保護の対象、つまり著作物として認められるわけではない。
例えば、ある団体が会員の情報を管理するデータベースを作り、「氏名」「住所」「電話番号」「メールアドレス」と言った項目が並んだテーブルを作ったとしても、これが著作物と認められる可能性は低い。
こうした項目定義や並びは、誰もが簡単に思い付くし、これに著作権を認めてしまったら、日本中のデータベースが著作物となってしまう。
一方で、数百万件のレコードから瞬時に必要なデータを抽出するためには、「データベースの構造」「インデックスの張り方」「キー項目」など数々の工夫が必要だ。Web上に散在するデータを組み合わせて「主語」「述語」「目的語」を作り出す「RDF(リソースディスクリプションフレームワーク)」などは、その構造がプログラムに匹敵するほどの複雑さを持っており、その構築には高いスキルや自由な発想が必要だ。こうしたものに、きちんと著作権を認めてほしいと考えるのは当然だろう。
データベースに著作権が認められるか否か、その境界線はどこにあるのか、その考え方を明確にした判例を紹介しよう。
関連記事
- 業務で作成したソフトウェアの著作権は誰にあるのか?――退職社員プログラム持ち出し事件
東京高等裁判所 IT専門委員として数々のIT訴訟に携わってきた細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は、自分が作成したソフトウェアを持ち出して起業したエンジニアが、元職場に横領罪で訴えられた裁判を解説する - 頭の中も著作権の対象?――もう一つの「ソフトウェア パクリ」裁判解説
今回は、資料やデータを一切持ち出さなかったのに、かつての勤め先から盗用で訴えられた判例を解説する - プログラムの「盗用」は阻止できるか?
今回は、プログラムを「パクられた」ゲームソフトメーカーが起こした裁判を解説する。果たしてプログラムに著作権は認められたのか――? - 個性的ならOK?――著作権法で守られるソフトウェアの条件
今回から数回にわたって、ソフトウェアの著作権について解説する - 5分で分かる著作権〜まずは基本を押さえよう
著作権法は、コンテンツやプログラムの作成者のみならず、利用者にとっても知らないでは済まされない法律です。本稿で基本的な知識を身に付けましょう
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.