バグが多い――主語と述語を適切に組み合わせる:エンジニアのための文章力養成講座(1)
「バグが多い」「納期がキツイ」「メンバーが足りない」などの「主語+述語」の組み合わせがしっかりした文は、意味が明瞭なので読みやすくなります。
連載「エンジニアのための文章力養成講座」は、書籍「文章力を伸ばす 書くことが、これでとても楽になる81のポイント」(阿部紘久著 日本実業出版社)を基に、出版社と筆者の許可を得て、@IT読者向けに再構成したものです
「要件定義書」「提案依頼書」「テスト仕様書」――エンジニアは業務でさまざまな文章を書きます。しかし、文章力が足りないと、無駄なことをたくさん書いてしまったり、考えているのとは違うことを書いてしまったり、頭の中にあった大事なことを書きもらしてしまったりしがちです。
文章力は、「着想力」「連想力」「優勢順位の判断力」「構造的に把握する力」「創造性、独自性」「人間理解力」「言語表現力」の七つの要素からなる、基礎的、かつ総合的な力です。
書く力は、考える力そのもの。文章力を身に付けてより良いエンジニアライフを送りましょう。
「新たな歴史が変わりました」
東京都に初めて女性知事が誕生した時、テレビから次のような興奮したアナウンスが聞こえました。
新たな歴史が変わりました。
落ち着いて考えれば、次のいずれかが適切であることが分かると思います。
新たな歴史が生まれました。
歴史が変わりました。
分かりやすい文章を書くためには、誰もが知っている易しい言葉を適切に組み合わせる力が必要です。文章が書ける、書けないの1つの別れ道は、案外こんな所にあります。
「有効期限は、来年3月末までご利用いただけます」
間違い
このセキュリティソフトの有効期限は、来年3月末までご利用いただけます。
正しい
このセキュリティソフトの有効期限は、来年3月末までです。
このセキュリティソフトは、来年3月末までご利用いただけます。
「(主語)有効期限は、(述語)ご利用いただけます」という組み合わせは適切ではありません。
「(主語)有効期限は、(述語)3月末までです」、あるいは「(主語)このセキュリティソフトは、(述語)3月末までご利用いただけます」ならば、主語と述語がしっかりかみ合って、しかも簡潔です。
「点灯は、注意義務がある」
間違い
夜間のライトの点灯は、自転車が近づいていることを知らせる注意義務がある。
正しい
夜間のライトの点灯は、自転車が近づいていることを知らせるために義務付けられている。
(われわれは、)自転車が近づいていることを知らせるために、夜間はライトを点灯する義務がある。
原文は、テレビのテロップで表示されたものです。「(主語)点灯は、(述語)注意義務がある」は、文になっていません。
「(主語)点灯は、(述語)義務付けられている」「(述語)点灯する義務がある」のいずれかならば、しっくり来ます。
文を書き終えたら、「何が(誰が)、どうした」という組み合わせがきちんとできているか確認しましょう。
連載「エンジニアのための文章力養成講座」は毎週木曜日掲載です。次回(6月22日掲載)は、「目的語」をピタリと決める文章力を鍛えます。
書籍
文章力を伸ばす
書くことが、これでとても楽になる81のポイント
阿部紘久著 日本実業出版社 1404円(税込み)
文章力を磨くとは、考える力を磨くこと。「書く力は、考える力そのもの」「受け手発想で書く」「意味の狭い言葉を使う」「長文を書くポイント」など、文章を書くときに大事なことだけれど、なかなか教わることがない81のポイントを、多くの文例と共に分かりやすく解説する。
筆者
阿部紘久
エッセイスト(元国際ビジネスマン)
帝人、米国系企業CEOを経て、2005年から昭和女子大学ライティング・サポートセンターで文章指導を行う。社会人も指導している。
主な著書に『文章力の基本』(日本実業出版社)、『文章力の基本100題』(光文社)、『シンプルに書く! 伝わる文章術』(飛鳥新社)などがある。
関連記事
- ビジネスマナー研修<メール編:本文>:「取り急ぎ、お礼まで」は失礼か?
「お客さまからお歳暮を戴いた! 早速お礼のメールを送らなくちゃ」というときのメール、末尾に何と書く? - メールの返信は何時間以内に送るべき?
ビジネスメールで「既読スルー」は問題外。では添付資料を受け取ったら、何時間以内に返信したらよいのでしょう? - 正しい「議事録」の書き方
「要件定義書」や「提案依頼書」などのIT業界で作成するビジネス文書の書き方を、分かりやすく伝授する連載「エンジニアのためのビジネス文書作成術」。今回のテーマは「議事録」です。ミスなくモレなく誤解もされない記述方法を学びましょう - ミスなくモレなく見やすい「要件定義書」の書き方
システム開発プロジェクトの成否を決めるといっても過言ではない「要件定義」。連載「エンジニアのためのビジネス文書作成術」、第2回目は「要件の洗い出し方」と、Wordの機能を駆使して「要件定義書」を見やすくするテクニックを伝授します - 誠意を見せつつ相手に納得してもらう「謝罪報告書」の書き方
トラブル発生時に提出する「謝罪報告書」。書き方一つでさらに相手を怒らせてしまったり、今後の対策を建設的に相談できるようになったりします。連載「エンジニアのためのビジネス文書作成術」、第4回目は「謝罪報告書」の書き方と、Wordの「表スタイル」を使って経緯や対策を見やすくするコツを伝授します
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.