「AIで使うそのデータ信頼してもいいの?」、ブロックチェーンが導く未来の生活とは:「AI×ブロックチェーン」の重要性(1/2 ページ)
金融分野以外での活用が注目されている「ブロックチェーン」。今後、重要なインフラになる可能性もある。AIやロボティックス分野を中心にどのような使われ方が考えられるのだろうか。
さまざまな分野で活用が広がる“ブロックチェーン”
仮想通貨の中核技術として注目され金融分野を中心に研究開発が進んでいた「ブロックチェーン」。現在、金融分野以外でも注目されており、それはAIやロボティクス分野も例外ではないという。では、「AI×ブロックチェーン」「ロボティクス×ブロックチェーン」には、どのような活用法があるのだろうか。
人工知能(AI)関連の技術開発に取り組むクーガー 代表取締役 CEOの石井敦氏は、ブロックチェーン技術と、AIやロボティクスを連携させるアイデアを提案している。AIとブロックチェーンはどう結び付くのか。そもそもブロックチェーンは何の役に立つ技術なのか。基本的なところから石井氏の考えを聞いた。
──なぜAI×ブロックチェーンに注目したのですか?
石井氏 私たちの会社は、AIとロボティクスにフォーカスして事業を展開しています。例えば、「Amazon Robotics Challenge」(ARC、Amazonが主催するロボットコンテスト)の上位にランクインしているチームへの技術支援や、自動車メーカーに対するAI学習シミュレーターの提供などを行っています。
私はAIとロボティクスの将来の姿から逆算した場合、「ブロックチェーン」が重要な技術になると考えています。なぜならAIにとってデータが非常に重要だからです。
その背景には、ここ数年盛り上がっているAIを支える技術である「機械学習」の新しい手法「深層学習」で、画像認識したときに非常に高い認識精度が出たことがあります。機械学習は、学習に使うデータが非常に重要です。この学習データは、一般に使われるテキストデータや画像データの他、工場や倉庫の中に配置された多数のセンサーや、自動車に取り付けたLIDAR(レーザーを応用した測距センサー)など、さまざまな方法で収集できます。しかし、この集めたデータは本当に安全なのでしょうか。
もし集めたデータに偽造や改ざんがあった場合、機械学習で正確な分析ができなくなり、全てが水の泡になる可能性があります。そこでデータの活用と並行して、データの信頼性を担保する技術がないと、AIが今後立ちゆかなくなると考えました。その問題を現状で解決できる可能性がある最も有力な技術がブロックチェーンでした。
──学習用のデータセットをブロックチェーンで監査可能にする。データにハンコが押されると認証可能となる、そんなイメージですね。
石井氏 そうです。ただし、今のブロックチェーン技術はリアルタイム性が強くありません。従って自動運転車や工場のロボットが動いているさなかにデータ検証を行う方法は限られます。しかし、停止していたロボットを動かすときに、データの改ざんがないかをチェックできるだけでも、大きなメリットになるでしょう。
ブロックチェーンの重要な性質は、「改ざん不可能な履歴」
──石井さんが立ち上げたブロックチェーン技術コミュニティー「Blockchain EXE」のミートアップで、「ブロックチェーンには『物理的な制約』のようなイメージがある」という説明をしていたのが印象的でした。物理的な制約という言葉の意味を教えてください。
石井氏 硬貨やお札のような物理的なお金は、手渡せば手元からなくなるので2重支払いが避けられます。これは物理的な制約だといえます。一方、デジタルデータは、複製が容易なので今までお金として扱うことは困難でした。しかしブロックチェーン技術を使う仮想通貨は、2重支払いも、偽造もできない仕組みになっています。その理由は、ブロックチェーンに物理法則のような制約をあえて入れているからです。
ブロックチェーンでは、取引データを「ブロック」に格納します。新しいブロックを承認するたびに、多数の参加者のマシン(ノード)が参加する「コンセンサス」のアルゴリズムにより偽造を防止します。しかもブロック同士は、ハッシュ値を使ってチェーンのように連結され、連結された全ブロックが全てのノードにコピーされます。
ブロックチェーンの過去のデータを改ざんするには、ハッシュで連結された全ノードにコピーされたデータのうち、半分以上を書き換える必要があります。これは現実的に不可能です。
──改ざん不可能という特性が大事になるということですね。先ほどは学習データの監査の例を挙げていましたが、他にブロックチェーンが有効な分野はどんなものが考えられますか。
石井氏 ブロックチェーン技術の「改ざん不可能」という特徴が有効となる分野は、データを追跡、監査するニーズがあり、あまりスピードが求められない分野です。
サプライチェーン分野は最適な分野の1つでしょう。原材料や加工途中の段階などをトレース(追跡)可能なように記録して、透明性を持たせる使い方が考えられます。例えばアパレル業界で素材を作っている側はなるべく欠陥を少なく見せたい一方で、素材を仕入れる側は欠陥品を見つけて排除したい。こうした利益相反があるときブロックチェーンは、記録に改ざんがされていないことを証明できるので、双方にとって素材の透明性を確保することができます。
Bitcoin、Ethereum、Hyperledger Fabricに注目
──ブロックチェーン技術は、最近は乱立気味ですが、どのように考えていますか。
石井氏 多くのブロックチェーン技術が登場していますが、それぞれ立場が違います。技術の黎明(れいめい)期なのでバージョンが変わると動作が変わることもありますので、よく調べないといけません。
大枠として「Bitcoin Core」「Ethereum」「Hyperledger Fabric」という3つのグループが代表的です。
Bitcoin Coreは「パーミッションレス型」という誰でもノードとして参加可能なブロックチェーンで、仮想通貨に特化しています。
Hyperledger Fabricは「パーミッション型」という、許可されたノードだけが参加可能なブロックチェーンです。許可されたノードのみが参加するので、悪意があるノードが入る可能性が低く、安全性が確保できるため、エンタープライズ分野での活用が期待されています。
Ethereumはパーミッションレス型のブロックチェーンで、ブロックチェーン上で動く「コントラクト」というプログラムの開発がしやすいことが特徴です。取引に伴うルールをコントラクトに記述できるため、Ethereumを使ったさまざまなアプリケーションが登場しています。
最近、EEA(Enterprise Ethereum Alliance)という組織が立ち上がり、私たちもメンバーになりました。Ethereumをベースに、データのプライバシーといったエンタープライズ向けの要素を取り入れたブロックチェーン技術「Enterprise Ethereum」の開発を進めています。EEAの成果が出てくれば、エンタープライズ向けのパーミッション型ブロックチェーンと、仮想通貨を伴うパーミッションレス型ブロックチェーンの両方のいい部分を組み合わせることができる可能性があり、期待しています。
──Bitcoinも、依然として重要な一派ということですね。
石井氏 Bitcoin Coreが使われているBitcoinが登場してから何年もたっています。Bitcoinは、みんなが欲しいと思っている「お金」を扱っているので、ハッキングの試みも無数にあるはずです。仮想通貨取引所へのハッキングはよくありますが、Bitcoinのブロックチェーンへの直接的なハッキングの成功例は報告されていません。Bitcoinが機能していることが、ブロックチェーン技術が信頼できることの間接的な証明になっているのです。
──5月に米ニューヨーク市で開催されたブロックチェーンのイベント「Consensus 2017」と「Token Summit 2017」に参加したとお聞きしました。この3つのブロックチェーンの動きは何かありましたか。感想をお聞かせください。
石井氏 3大ブロックチェーンのBitcoin Core、Ethereum、Hyperledger Fabricそれぞれの存在感がありました。例えば、Ethereumを使った「Etherisc」は、Ethereumの応用分野である「DAO(Decentralized Autonomous Organization)」(※)を使った保険ソリューションです。その他にコンテンツ配信系の試みもありました。全体にFinTech系の人が目立っていて、私のようにAI/ロボティクス分野に取り組んでいる人は少ない印象でしたが、話題は出ていました。
※分散自律型組織。運営管理主体となる組織がなく、プログラムに組み込まれたインセンティブ設計に従って、参加者が行動することで全体として自律的に機能する組織のこと。
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