PCを使わない“アンプラグド”なプログラミング教育は入り口であり、目指すところではない:小学生の「プログラミング教育」その前に(7)(2/2 ページ)
2017年8月に開催された「プログラミング教育明日会議 in 東京」レポート後編である本稿では、プログラミング教材を使った模擬授業の様子や、展示ブースの模様を紹介する。
模擬授業【2】 絵本を使って“PCを使わない”プログラミング
もう1つの模擬授業では、PCやICT機器を使わずに、プログラミングに必要な論理的思考を学べる教材『「ルビィのぼうけん」ワークショップ・スターターキット』が使われた。講師を務めたのは、千葉県柏市立田中北小学校の西川真吾教諭だ。
同キットは、人気のプログラミング学習向け絵本『ルビィのぼうけん』をモチーフに、授業事例や教材データ、ワークシート、スタート動画などをセットで提供するもの。模擬授業では、同キットを使った“アンプラグド(※2)”の形で、参加者がプログラミングの考え方を学んだ。
※2:CS(Computer Science)アンプラグドのこと。コンピュータでプログラミングをするのではなく、カードなどを用いたゲームやグループ活動を通して、コンピュータの基本的な仕組みを学ぶ。詳細は、こちら
授業の冒頭では、同キットの中に収録された教材の1つ「ダンス・ダンス・ダンス」を使って、ループ(くり返し)の概念を扱った。
講師は、「手をたたく」「ジャンプ」「まわる」など、それぞれの動きが書かれたマグネットシートをホワイトボードに並べてダンスのプログラムを組み立て、参加者がその通りに体を動かす。
参加した教員は、「始め!」の号令で一斉に指示通りに動き、途中で特定の動きに「三度くり返す」などの指示が加われば、その通りの動作をくり返した。
こうした学習の狙いは、参加者にプログラミングの要素の1つである“くり返し”の概念を学ばせると同時に、「コンピュータと人間の違い」について気付かせること。重要な点は、「指示された動きを何度も正確にくり返すのが得意なコンピュータ」「ダンスの動きを考えるのが得意な人間」という具合に、コンピュータと人間それぞれの強みを知ることだという。
模擬授業では、スターターキット収録の他の教材を使ったマス目移動のプログラミングに加え、コンピュータに見立てた相手に英語で指示を与える活動にも取り組んだ。アンプラグド形式の授業は、現在一般的な授業の形や進行を変えずに取り入れられる。教員側も、授業展開のイメージを持ちやすいようだ。
PCを使わないアンプラグドに教員の注目が集まるが……
文部科学省がプログラミングを必修化した一方、多くの小学校は、PCの台数不足やネットワークの不備など、ICT環境に課題を抱えている。そうした背景を受け、PCを使わないアンプラグド方式の教材は、多くの教育関係者の関心を集めているようだ。実際、同イベントでは、『ルビィのぼうけん』を、模擬授業以外にプログラミング教材の展示ブースでも紹介しており、多くの教員が見学に訪れていた。
実際にブースに訪れた教員の1人は、「プログラミング授業のために、コンピュータ教室にある40台のPCを全校で使い回すのは難しい。低学年向けの授業にはアンプラグド方式を取り入れるなど、考慮が必要だ」と話した。
一方で別の教員は、「自分はPC操作が得意ではなく、プログラミングもやったことがない。アンプラグド方式であれば、自分でもプログラミングの授業ができそう」と、本音を吐露した。
『ルビィのぼうけん』など、アンプラグド方式の教材を使った授業は、PCを使わなくても済む。ただし、コンピュータを使わないまま、プログラミング教育を“やったこと”にしてしまう授業内容は、プログラミング教育が目指すところではない。プログラミングは、実際にコンピュータに触るのと触らないのとでは大きな違いがあり、コンピュータに触れて「楽しい、面白い」と思える体験は重要だ。
『ルビィのぼうけん』のブースにいた担当者も、次のように教員に強く訴えていた。「『PCが整備されていないから』『プログラミングが苦手だから』という理由でアンプラグドに取り組まないでほしい。たとえ、授業ではアンプラグドしか取り入れなかったとしても、教員が自らPCを使ってビジュアルプログラミングツールやプログラミング言語によるコーディングを体験してほしい」
というのも、アンプラグド方式の授業を行う教員は、コンピュータの特性を知らなければならず、教える側としての力量も問われるからだ。アンプラグド方式の授業は、あくまでプログラミングの“入り口”であり、いずれはコンピュータを使ったプログラミングへ移行するイメージを持って行うことが重要だといえるだろう。
教員が手にとって試せる教材展示、3つ紹介
「プログラミング教育明日会議 in 東京」では、最新のプログラミング教材も豊富に展示されていた。どのブースにも、多くの教員が詰めかけ、教材を実際に手にとって試したり、担当者から熱心に話を聞いたりする姿が多く見られた。実際に展示された教材の一部を紹介しよう。
STEM教育用ロボット「mBot」
「mBot」は、パーツを組み立ててロボットを作り、「mBlock」というソフトウェアを使ったプログラムでロボットを制御する。「mBlock」は、Scratchと同様、ビジュアルプログラミングツールをベースにしており、タブレットなどで操作可能。普通の教室でも使いやすいのが特長だ。
同教材では、上部の写真奥にある六角形型のドローン「Airblock」も制御可能。重量わずか150gのAirblockは、発泡ポリプロピレンで作られており、落下にも強い。ドローンは、子どもの興味や関心を多く集めるため、ワークショップなどに取り入れる事例も増えている。
今後、ドローンはプログラミング教材として、ますます広がりを見せるだろう。
お菓子で学習する無料アプリ「GLICODE(グリコード)」
「GLICODE」は、お菓子の「ポッキー」で知られる江崎グリコが開発した小学校低学年向けのプログラミング教材。ポッキーをルールに従って並べることでキャラクターを動かし、ゴールを目指す。同教材はドリル型で、子どもが自分のペースで進めることが可能な仕組みだ。江崎グリコは、学校向けの教材キットとして、「がくしゅうようポッキーセット」を提供している。
なお以前は、ポッキー以外のお菓子も使ってプログラミングするものだったが(参考)、バージョンアップに伴い、ポッキーのみを使うようになっている。
人気ゲームMinecraftの“教育版”「Minecraft: Education Edition」
Microsoftの「Minecraft: Education Edition(以下、Education Edition)」は、同社の子ども向けゲーム「Minecraft」を教育機関向けにカスタマイズしたものだ。同社は、教育機関に対してのみ、Education Editionのアカウントを発行している。
Minecraftは、3Dブロックで構成された仮想空間の中を冒険し、ブロックを積み重ねて遊ぶことも可能なゲーム。Education Editionは、Minecraftの内容を、プログラミング学習や課題解決型学習などに活用したもの。教員用の授業進行コンソール、カメラによる記録機能、ブロックの一斉配布や制限機能も備える。
プログラミング教育に対する“アレルギー”解消を
2回にわたり、「プログラミング教育明日会議 in 東京」の様子をレポートしたが、いかがだっただろうか。
同イベントは、多くの来場者を迎え、盛況に終わった。参加した教員の1人は、「そもそもプログラミングがどんなものか分からず、難しいイメージばかりが先行していたが、実際にイベントに来てみて、子どもが楽しめるような教材があり、授業に取り入れていきたいと思った」と話していた。
いまだにプログラミング教育に取り組めていない教員の中には、自分たちにとって未知の領域であるプログラミング教育に対してアレルギーを持つ人も多いはずだ。2020年までに、プログラミング教育はどこまで前進できるのか。関係者には、今後の動きを加速すべく、さらなる取り組みに期待したい。
特集:小学生の「プログラミング教育」その前に
政府の成長戦略の中で小学校の「プログラミング教育」を必修化し2020年度に開始することが発表され、さまざまな議論を生んでいる。そもそも「プログラミング」とは何か、小学生に「プログラミング教育」を必修化する意味はあるのか、「プログラミング的思考」とは何なのか、親はどのように準備しておけばいいのか、小学生の教員は各教科にどのように取り入れればいいのか――本特集では、有識者へのインタビューなどで、これらの疑問を解きほぐしていく。
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