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製造業がアジャイル開発を実践するには? デンソー デジタルイノベーション室長に聞く「イノベーションの前提条件」DX全盛時代、求められる企業、頼られるエンジニアとは?(2)(3/3 ページ)

ITでビジネスに寄与する「攻めのIT」という言葉が叫ばれるようになって久しい。だが多くの企業において、成果に結び付かない単なる掛け声に終始してきた傾向が強い。では、この言葉の真意とは何か――デンソーで「攻めのIT」を実践、リードしているデジタルイノベーション室長 成迫剛志氏に、今、企業とエンジニアが持つべきスタンスを聞いた。

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“フローズンミドル”(=抵抗勢力)を溶かすためには

編集部 貴社の場合、DXに対する経営層の理解があり、その実行部隊としてデジタルイノベーション室があります。他社でも同様の取り組みはありますが、そうした企業では「新しいことをやろうとすると必ず抵抗勢力が出てくる」と聞かれます。それが多くの場合、現場から離れた管理層であるそうです。貴社ではそうしたことはあるのでしょうか?

成迫氏 いわゆる“フローズンミドル”と呼ばれる保守的な中間〜上級管理層のことですね。当社では抵抗勢力は今のところありません。これには経営層のリードが強いこともありますが、デジタルイノベーション室の取り組みについて、積極的に啓蒙活動を行っていることも大きいと考えます。

 デンソー単体、もしくはグループ会社も含めた情報部門の連絡会議があり、そうした場で普段の活動内容や、アジャイル開発の進め方、具体的効用などを説明しているのです。情報システム部門に限らず、興味を持った事業部門の方から質問を受けることもよくあります。デジタルイノベーション室のアジャイル開発チームを見学に来られる方もかなり多いです。

 全社課題としてDXに取り組んでいるわけですから、DX実行部隊の活動が見えない状況にしてしまうのは望ましくありません。関係部署、無関係の部署も含めて、社内外に活動を認知いただくことは非常に重要だと考えています。

 また、IT部門の中間層の方々は、ITの発展の歴史とともに生きてきた人たちです。特に中堅以上の人たちは、前述のように「厳格な開発・運用」という課題に応え続けてきた経験、スキルに自信を持っている方が多い。しかし今は経営環境が変わり、新しい技術をどんどん取り入れ、トライ&エラーを繰り返しながらビジネスを創出・発展させていかなければならない時代です。従来のやり方ではこれに対応できません。

 よって、今後のビジネスやIT活用の在り方について、フローズンミドルを通り越して、DXのトレンドを肌で感じているIT部門の現場の人たちと経営層がディスカッションする場を設けるのもいいかもしれません。あるいは、経営層やCIOが、生まれたときからスマホがある世代の人たちに「新たなビジネスの可能性」について調査・提言させるのもいいですね。会社全体でDXに取り組む姿勢を作れば、フローズンミドルもリアリティーを持って“現実”を受け止められるようになるのではないでしょうか。

「ビジネスに直接携わる」というやりがいを求めよ

編集部 現体制がスタートして半年ほどですが、今後の展望をお聞かせいただけますか?

成迫氏 デジタルイノベーション室ではAmazon Web Services、Microsoft Azure、Google Cloud Platformを利用し、必要なときに、最適なインフラでITサービスを開発・実行できるクラウドネイティブを実現していますが、デンソー全社で使っているプライベートクラウドとのハイブリッドとすることが前提です。また、デンソーはグローバル企業であり、売り上げの半分以上は海外ですから、ITサービスもグローバルに展開するためには、グローバルで“ハイブリッドクラウドネイティブ”を実現していく必要があります。

 アジャイル開発チームが必要なのも日本だけではありません。「ITと経営は車の両輪」と話しましたが、両輪とするためにはビジネスの人間に最も近い場所に攻めのITのメンバーがいるべきです。現在、その実現に向けて海外の関連部署と議論を進めているところです。

 一方で、アジャイル開発チームは“力”をつけていかなければなりません。「クラウドを活用してアジャイル開発すること」の効用は社内に浸透していますし、サービス開発に対する社内ニーズはどんどん増えていくと思います。それに備えて、業界知識、業務知識、クラウドやOSSの知識などを着実に強化していきます。

 併せてチームの規模を拡大していく予定です。2017年9月現在、チームは1つですが、2017年度内に第4のチームまで作ることを計画しており、現在、人材を募集しています。

編集部 今はまだ、開発を外部に依頼する形が一般的ですが、内製化を見直す動きは着実に高まっていると思います。こうした流れは今後加速していくと思いますか?

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「ITエンジニアがユーザー企業でやりがいを感じられる時代になってきた。新しいものを創出したいというモチベーションがあるなら、IT企業からユーザー企業へどんどん転職すべきです。日本もいずれはエンジニアを直接雇用する米国企業のようになっていくのではないかと思います」

成迫氏 DXが急速に進んでいる以上、いずれは日本企業もエンジニアを自社で雇用する米国企業のようになっていくのかもしれないと思います。個人的にも「ビジネスに直接関わるエンジニア」が増えていってほしいですし、増えていかないと、日本だけDXのトレンドから取り残されてしまうのではないでしょうか。

 これまでIT人材がやりがいを感じられる場はIT企業でしたが、ビジネスにITが不可欠になった今、ユーザー企業でやりがいを感じられる時代になってきたと思うのです。「新しいものを創出したい」というモチベーションがあるなら、IT企業からユーザー企業へどんどん転職すべきですね。IT企業に身を置いて、顧客企業のビジネスに間接的に貢献するのと、自社のビジネスを肌で感じながら、テクノロジーを使って主体的に価値を提案し、生み出していくのとでは感覚もやりがいも全く異なります。たとえ一時でもそうした環境に身を置くことは、エンジニアにとってとても大事なことだと思います。

特集:DX全盛時代、求められる企業、頼られるエンジニアとは?

市場環境変化のスピードと人々の価値観の変容が、今、企業にDX(デジタルトランスフォーメーション)の実践を強く促している。では、これからの時代を生き残れる企業の具体像とはどのようなものなのか?

“今のビジネス”を支える「仕組み」や、「仕組み」を実現できるスキルとはどのようなものなのか?――本特集では今持つべき「ビジネス/システム」の仕組みと、エンジニアが持つべきスキル・役割を明確化。デジタル時代を勝ち残る、企業と人の在り方を事例を通じて深掘りする。



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