テクノロジーで、社会や働く個人の課題を「素早く、シンプルに」解決するには――第3回 MVP Awardレポート:IoTやbot活用型のアイデアが躍進
「テクノロジーで社会の課題を解決する」をテーマにしたビジネスアイデアコンテスト「第3回 MVP Award」が開催され、2点のアイデアが入賞を果たした。
2017年10月12日、ギルドワークスとSBメディアホールディングス共催のビジネスアイデアコンテスト「第3回 MVP Award」最終プレゼンテーション発表会が開催され、企業のマネジャー向けにタスク管理支援を行う「KaizenNote」が優秀賞を受賞した。特別賞には、ロボット栽培で地元消費向けの野菜を生産する「自産地消Bot」が選ばれた。
社会の課題を解決し、即事業化可能なアイデアを
MVP Awardは、賞の名前でもある「実用可能な最小限の範囲でのプロダクト(Minimum Viable Product、MVP)」に相当するビジネスアイデアを募集するコンテストイベント。
応募者は、アイデアの概要をエントリー後、インタビューやプロトタイプ制作などを交えたアイデアのブラッシュアップや検証を行い、MVPおよび検証結果を提出する。ギルドワークスおよびSBメディアホールディングスは、「解決できる課題の大きさ」「活用するテクノロジーの先進性」「事業としてのスケーラビリティ」を審査の軸として、一次審査後、最終候補者を選出する。候補者による最終プレゼンテーションを経て、最優秀賞、優秀賞、特別賞を決定。それぞれに100万円、50万円、30万円の賞金を授与する。受賞したアイデアの事業化支援やサービス化、商品化の検討も行う。
3回目となる今回は、「テクノロジーで『社会の課題』を解決する」をテーマに、2017年5〜7月に、アイデアを募集。最終プレゼンテーションでは、123件の応募から選出された5件のアイデアについて、5人の応募者がスライドを交えてアピールし、ギルドワークスとSBメディアホールディングス両社の審査員が、各アイデアの社会貢献性や事業としての有効性を審査した。
【優秀賞】マネジャーのタスク管理を支援“最適なタイミングでbotが声掛け”「KaizenNote」
今回、優秀賞に選ばれたのは、フリーランスエンジニアの石田勝信氏による「KaizenNote」。管理職向けに、タスクの優先度を判断して作業スケジュールを最適化し、生産性の向上を図るツールで、自身のビジネススキル向上に投資する管理職をターゲットにする。「優秀な管理職ほど、やりたいことが多くなる。マネジメントを行う若手起業家のタスクやアイデアを、重要性や緊急性によって整理し、分類できるツールを作りたかった」(石田氏)
KaizenNoteの特徴は、「緊急性は低いが、長期的に見れば重要な」タスクの管理に着目した点だ。石田氏は、「全てのタスクを実行できるようになれば、生産性は何倍にも上がる」と強調する。
KaizenNoteは、チャットサービスのAPIを活用し、「LINE」や「Messenger」などのメッセージングアプリを通して、チャットbotを使った「声掛け」「結果の振り返り質問」を繰り返す。「有能な秘書や、スクラムの個人版のようなイメージで作った」(石田氏)
石田氏は、ユーザーに向けた問い掛けのパラメーターデータを蓄積し、今後、各ユーザーに最適な声掛けのタイミングを見極める機械学習エンジンを開発したい考えだ。
SBメディアホールディングスの土橋康成代表取締役やギルドワークスの市谷聡啓代表を含む審査員は、管理職を務める人々に実際に使ってもらい、改善を続けた同製品の機能や実用性、ニーズの大きさを高く評価した。
【特別賞】ロボットファームで野菜の地産地消を支援「自産地消Bot」
特別賞には、岡山県で市民向けの実験工房「FabLab Setouchiβ」を率いる三木裕紀氏による「自産地消Bot」が選出された。
自産地消Botは、各地域のコミュニティーで野菜を自動栽培し、地元で販売することで、地産地消を支援するサービス。「日本の野菜の自給率を上げたい」という三木氏の思いから開発が始まった同製品は、米国のスタートアップFarmbotによる同名の農業用自動制御マシンを活用し、木製の輸送用パレットに土を敷いた上で野菜を自動栽培。栽培の状況管理や水やりなどの作業を、パレット単位で一元管理する。栽培の対象としては、品種改良を重ね、1回栽培したら種を買い直さなければならない「F1種」の野菜ではなく、各地域でもともと育っていた「固定種」にフォーカス。各地域によって異なる消費者のニーズに即した野菜生産を進める。
三木氏は今後の展望について、「自産地消Botを活用して、地域農業の人手不足や経験の浅い個人による農業参入の難しさといった課題も解消したい。IoTにより、野菜生産の過程であらゆる情報を記録できるので、消費者の求める食の安全性や透明性も確保できるはず」と話す。審査では、実用化や事業化に向けた課題を指摘された一方、農業や地産地消など、規模の大きな課題を解決し得る点が評価された。
「IoTで飲食店の在庫管理自動化」「社内チームの状況をゲームのようにマッピング」「Webセミナーで人材交流」
受賞には至らなかったが、他に3つのアイデアが最終プレゼンテーションで披露された。
IoTで飲食店の在庫管理自動化「TANAORO」
IoTを活用した事業開発サービス会社IoTrialの代表を務め、技術者として飲食店向けIoTの開発に関わった経験を持つ荻原裕氏は、IoTを活用し、飲食店の在庫管理負担をゼロにする「TANAORO」を発表した。
TANAOROは、レストランで提供する飲料や料理に使う食材、調味料などを、容器に貼り付けたラベル型のセンサーや電子式の重量計を使ってリアルタイムで計量し、自動でユーザーのデバイスに表示する。従来手動で行うしかなかった在庫確認を自動化し、飲食店の業務や人件費を効率化する狙いだ。
社内チームの状況をゲームのようにマッピング「pickupon」
デザイナーとエンジニア両方の経歴を持つ、小幡洋一氏とメキシコ出身のカンパーニャ・ロハス・ホセマリア氏による「pickupon(ピックポン)」は、チャットbotを使って企業内の各チームの状況を自動マッピングするサービス。
プロジェクト管理の際、異なるチーム同士では共有がしにくく、互いの部署に行って聞くなど“足を使って”得ていた仕事の進捗(しんちょく)状況などを、botを使ってそれぞれのユーザーから収集し、リアルタイムでマッピング。自動でサマリーを作成し、共有する。
Webセミナーで人材交流「Webセミナー@シェア」
長野県を拠点にビデオ会議システムなどを提供するウェブシェアの山崎邦夫氏は、参加者同士で連絡先や企業情報などをシェア可能なWebセミナーサービス「Webセミナー@シェア」を発表した。
介護や医療などを含む専門技術やスキルについて、参加者がどこからでも互いに交流可能な環境を提供し、遠隔地同士の協業を活性化すると同時に、さまざまな地域で高齢者のさらなる増加が見込まれる「2025年問題」の解決を目指すという。
テクノロジー活用のスタートアップ支援を
受賞者を発表した土橋氏は、「前回や前々回と比べてややインパクトに欠けた」との理由で、最優秀賞を選出しないことを発表した。土橋氏は、それぞれのアイデアについて、面白さや複数のユーザーを通した検証過程などを評価。実際、選考の過程では、アイデアの革新性や社会への貢献度合いに加え、実際に複数のユーザーに使ってもらって改良を重ねるなど、「すぐにでも実用化や事業化が可能かどうか」という点が評価の対象になった。土橋氏は、MVP Awardの今後について、「形は変わるかもしれないが、スタートアップ企業の支援や評価は続けていきたい」と話した。
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