「インターネット」で勝てなかった日本が、「深層学習」で勝つには 東大・松尾豊氏:「深層学習の現状は、1998年のインターネットに近い」(1/2 ページ)
NVIDIAが開催した「GTC Japan 2018」で、東京大学 特任准教授、日本ディープラーニング協会 理事長の松尾豊氏が登壇。深層学習の原理や、深層学習に関する研究の現状について説明し、今後、実社会で深層学習がどう扱われていくのか、持論を展開した。
NVIDIAは2018年9月13、14日に「GTC Japan 2018」を開催した。本稿では、東京大学の松尾豊氏の講演「人工知能をビジネスに実装するとき、今やるべきこと」の内容を要約してお伝えする。
あらためて学ぶ、深層学習の原理とは
東京大学 特任准教授で、日本ディープラーニング協会理事長の松尾豊氏は、深層学習をビジネスで活用する際、「深層学習がどのような仕組みなのか理解しないと、深層学習を利用したビジネスを前に進めるのは難しい」と述べ、深層学習の原理を「深い関数を利用した最小二乗法だ」と説明する。
最小二乗法は、統計学で用いられる「回帰分析」などにおいて、係数を推定する方法だ。「例えばMicrosoft Excelでは、xを気温、yを冷たい飲料の売り上げとしたときの散布図に近似直線(y=ax+b)を引ける。近似直線を引くための位置(係数a,b)を決定付けるアプローチが、最小二乗法だ」
松尾氏は、「深層学習とは、最小二乗法の巨大なお化けのようなものだ」と紹介し、画像の各画素xから「猫(y=1)」か「猫でないか(y=0)」を出力する猫関数を例として取り上げた。「100x100の画像で猫関数を作成する場合は、1万個もの変数が必要になる。深層学習の場合は、中間的な関数を介して、これを3層、4層と深くする。こうすることで、少ないパラメーターで表現力を高め、効率的に学習できる」
この深さが重要な理由については、料理に例えて説明する。「料理の素材が一層だとして、1回しか手を加えない場合は、単純な料理しかできない。しかし、複数の階層で手を加えることができれば、料理にバリエーションが生まれる。深層学習にも同じことがいえる」
深層学習の原理を説明した松尾氏は、深層学習をビジネスに活用しようとする際には、「散布図のように、xとyを定義する必要がある」と考察する。
「最近、『人工知能で政治を』という話を耳にしたが、『xとyが定義できますか』と問いたい。xとyが定義できなければ、データを集めてもプロジェクトはうまくいかない。画像をxとしてyを犬や猫にすれば画像認識、xを英語の文としてyを日本語の文とすれば翻訳、というように、xとyを何にするかを考えるべきだ」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「AI」「機械学習」「ディープラーニング」は、それぞれ何が違うのか
「AI」「機械学習」「ディープラーニング」は、それぞれ何が違うのか。GPUコンピューティングを推進するNVIDIAが、これらの違いを背景および技術的要素で解説した。 - イーロン・マスク氏、Y-Combinatorのサム・アルトマン氏らが設立したOpenAIとは
米テスラモーターズやSpaceXのイーロン・マスク氏、著名なベンチャーキャピタル企業であるY Combinatorのサム・アルトマン氏などが、2015年12月11日(米国時間)、人工知能(AI)関連技術の開発を行う非営利企業、OpenAIを設立したと明らかにした。最終的な目的は、人工知能関連技術が特定の企業あるいは組織に独占されることで、悪用される危険性を減らすことにあるようだ。 - AIは「単なる関数」、数学は「言語の一つ」、「文系出身」でも問題ない――Pythonで高校数学の範囲から学び始めよう
AIに欠かせない数学を、プログラミング言語Pythonを使って高校生の学習範囲から学び直す連載。初回は、「AIエンジニア」になるために数学を学び直す意義や心構え、連載で学ぶ範囲について。 - 人工知能とは何か――強いAIと弱いAI、チューリングテストとチャットボット、中国語の部屋
Pepperや自動運転車などの登場で、エンジニアではない一般の人にも身近になりつつある「ロボット」。ロボットには「人工知能/AI」を中心にさまざまなソフトウェア技術が使われている。本連載では、ソフトウェアとしてのロボットについて、基本的な用語からビジネスへの応用までを解説していく。初回は、人工知能/AIという言葉について、あらためて整理する。