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日本企業がDXにつまずく理由と、経営・管理・現場層、それぞれの役割特集:日本型デジタルトランスフォーメーション成功への道(8)(3/3 ページ)

DX(デジタルトランスフォーメーション)のトレンドが高まり、多くの企業が取り組みに乗り出している。だが「具体的に何をすればいいのか分からない」、取り組みを進めてみても「なかなか成果につながらない」など、プロジェクトを推進できていない例が多い。その真因は何なのか?――既存資産を持たないスタートアップや新興企業ではなく、一般的な企業が既存資産を守りながらDXを推進するためのポイントを聞いた。

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日本企業はタレントに頼らず、プロセス改善でDXを推進していくべきだ

編集部 バリューストリームマッピングによるプロセス改善は、どのような立場の人がリードすべきなのでしょうか。

鈴木氏 企業によって異なると思いますが、現場をたきつけるのは中間管理層や、CTO(最高技術責任者)ポジションの方が多いという印象です。目の前の現実に対して具体的な悩みを持っている方ですね。「具体的な悩みに対して、具体的に応える」という以外に進めようがないという事情もあります。

 個人的には、バリューストリームマッピングを主導するのは、現場層の少し上ぐらいの人がいいと考えています。経営層では「遠過ぎてよく分からない。部長同士で話し合え」といった具合になりがちです。現場のやや上ぐらいの方が、まず現場を少し変え、それを部長なり経営層なりに「このようにして変えていきたいです」とプレゼンしていく形がいいと思います。

編集部 ただ、DXの取り組みがうまくいっている企業では、優秀なプロダクトオーナーがリードしているケースも目立ちますね。

鈴木氏 そうですね。ただ、そういう優秀な方やタレントに頼り過ぎてしまうのも問題です。良いタレントを連れてきて、うまくいっている他社の真似をしようと思ってもうまくはいきません。見方を変えれば、主にベンチャーでタレントの活躍が目立つのは、タレントが活躍できるぐらいのガバナンスしか効いていないから、とも言えるのではないでしょうか。

 その点、日本企業のDXの取り組みでは、むしろタレントに頼らず、プロセスで改善していくことが求められていると思います。エンタープライズには、「ガバナンスが強く効いている中でいかに変革を成し遂げていくか」という難しさがある。プロセスの側面から取り組む以外にやりようがない

 例えば、SoRとSoEという領域の話がありますが、まずコアビジネスではないSoEの新規領域にタレントを招聘(しょうへい)し、自由にやってもらって先鞭(せんべん)をつける、というやり方が有効になる場合が多い。しかし、SoRのような基幹業務、コアな領域を同じようにはできないでしょう。やはり「プロセス改善の中でどうスピードを出すか」というテーマに地道に取り組んでいくしかないと思います。

編集部 エンタープライズにとっては、DXで新しい価値を創出する以前に、自社が長年立脚してきた基幹業務をしっかりと守ることが前提となります。その点、SoEとSoRで、取り組む組織を明確に分けるケースが目立ちます。しかし、「DXに向けた企業全体のプロセス改善」が求められている今、既存システムを守っているIT部門のスタンスも、変えていかざるを得ないのでしょうね。

鈴木氏 そうですね。例えば、多くの経営者が頭を悩ませている「既存システムにコストがかかり過ぎているため、そこをいかに下げてDXのための予算を捻出していくか」という課題の解決も、本来はIT部門の仕事なのかもしれません。しかし、IT部門はITのことのみ担当してきたという事情があります。IT部門側も事業のことには口出しせず、事業企画が要請してきた機能は、たとえ客観的に見て不要と思うものでも作ってしまう。言い換えると、「事業に興味がなくても仕事ができてしまう環境」だった。

編集部 Webサービス系やベンチャーなどの場合は考えられないことですが、大企業の中のIT部門だとそうした環境にあるケースは今も多いですね。

鈴木氏 だからこそ、「ITが事業にとってどういう意味があるか」を常に考えることが重要なんです。そこで生まれたアイデアを企画に提案し、初期段階から一緒に作っていくように、少しずつ変えていくことが大切だと思います。

編集部 そうなると、エンタープライズにとって、やはり内製化が重要なポイントになりますね。

鈴木氏 そうですね。できない場合は、外のパートナーと中のリソースを、いかに近い距離に置くかが重要になってきます。エンタープライズで優秀なエンジニアを社員として雇うためには、課長、部長クラスが良いエンジニアであることが必要です。正しいマネジメントの中に、エンジニアリングをきちんと位置付けない限り、エンジニアは自分が正しく評価されているとは思わない。そのためには、エンジニア出身の課長、部長が欠かせないのです。とはいえ、そうした中間管理層を作るには時間がかかります。従って、短期的には「外部の企業から上司付きでチームを雇う」ことが現実論になってくると思います。

編集部 最後に、企業の経営層に向けてメッセージを頂けますか。

鈴木氏 ソフトウェア開発をビジネス活動の一環として捉えるというDXの基本はとても大事です。それができなかった背景には、システムを外注することが多いという構造的な問題もあったのかもしれません。しかし、今重要なことは、「SIerなどとの付き合いの中でシステムを構築する」という従来の常識を見直し、「内製化したりパートナーの力を借りたりしながら、自社のプロセスを変えていく」という取り組みを推進することです。

 企業やSIer、パートナーが変わろうとする中で、新しい業種、新しいITサービスもどんどん出てきています。それぞれがビジネスを変革できる世界になっていってほしいと思っています。

特集:日本型デジタルトランスフォーメーション成功への道 〜“他人事”ではないDXの現実解〜

テクノロジーの力を使って新たな価値を創造するデジタルトランスフォーメーション(DX)が各業種で進展している。だが中には単なる業務改善をDXと呼ぶ風潮もあるなど、一般的な日本企業は海外に比べると大幅に後れを取っているのが現実だ。では企業がDXを推進し、差別化の源泉としていくためには、変革に向けて何をそろえ、どのようなステップを踏んでいけばよいのだろうか。本特集ではDXへのロードマップを今あらためて明確化。“他人事”に終始してきたDX実現の方法を、現実的な観点から伝授する。




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