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力学原理を活用して都市浸水をリアルタイムで予測 早稲田大学らの研究チーム「全ての情報を省略しない」で精度向上

早稲田大学理工学術院らの研究グループは、都市浸水をリアルタイムで予測するシステムを開発した。都市内の雨水の流れを力学原理に基づいて計算する。30分先までの降雨予報を利用して、リアルタイム浸水予測の実現を目指した。

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 早稲田大学理工学術院らの研究グループは2019年5月20日、東京23区で発生する都市浸水をリアルタイム予測するシステムを開発したと発表した。今回の研究成果の一部は、文部科学省委託事業「地球環境情報プラットフォーム構築推進プログラム」の支援を受けて、データ統合・解析システム(DIAS)を利用して得られたもの。同研究グループのメンバーは、早稲田大学理工学術院の教授である関根正人氏、東京大学地球観測データ統融合連携研究機構の教授である喜連川優氏と同特任准教授である生駒栄司氏、同特任助教である山本昭夫氏、一般財団法人リモート・センシング技術センター。

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S-uiPSにより計算された東京23区の浸水深マップ(出典:早稲田大学)《クリックで拡大》

 同研究チームの研究テーマは、東京23区がこれまでにない規模の豪雨に襲われたときの、工学的に十分に信頼がおける答えを提示すること。例えば「どのような規模の浸水が発生するのか」「浸水が深刻化するプロセスとはどのようなものか」「事前にどのような対策を講じておけばどの程度まで被害軽減が図れるのか」などだ。

概略値による計算ではなく、力学原理に基づいて計算

 同研究チームによると、最近取り組まれている都市浸水のシミュレーションは、簡便に概略値を捉える計算手法にとどまっていることが多く、現実とは異なる雨水の取り扱い方をしていたり、モデルと割り切って厳密性を考慮せずに導入したパラメーターでチューニングしたりする例があるという。

 これに対して同研究チームでは、東京23区の地上、下水道、都市河川といった都市内の雨水の流れを力学原理に基づいて計算し、その結果として浸水を予測しようというアプローチを採る。具体的には「S-uiPS」(Sekine's urban inundation Prediction System:スイプス)と呼ばれる、東京などの高度に都市化されたエリアを対象に、都市浸水の発生とこれが深刻化するプロセスを水の流れを支配する力学原理のみに基づいて精緻に予測する手法を開発した。

 この手法では、対象エリア内に既に整備されている全ての情報を省略せずに考慮する。例えば、道路や下水道、都市河川のネットワーク、貯水施設や下水道のポンプ場、水再生センターといった関連付帯施設、都市の土地利用状況、都市街区に建てられている建物などに関する情報だ。予測に必要な降雨データには、国土交通省が提供する1分ごとに得られた観測雨量情報「XRAIN」と、気象庁の30分先までの降雨予報「高解像降水ナウキャスト」を利用し、リアルタイム浸水予測の実現を目指した。

 こうした手法を開発した上で、S-uiPSの計算処理を高速化し、リアルタイムで浸水を予測できるようにした。そのために計算処理を並列化し、これには東京大学の山本氏が中心となって取り組んだ。予測結果を動画情報として表示、配信するためには、早稲田大学の関根研究室が開発した画像化技術を利用した。この処理には東京大学の生駒氏が中心となって取り組み、このシステムを文部科学省のデータ統合・解析システムDIAS(Data Integration & Analysis System)のリアルタイム・データ利活用プラットフォームに実装した。

 同システムは、東京23区を対象に、2019年6月末までに試行運用を開始する予定。2020年夏までには十分な精度で浸水情報を継続的に提供できるよう、安定した運用を目指すという。

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