丸投げしたんだから、頑張ってくださいよ(作業量は増えたけどね):「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(67)(2/3 ページ)
下請けに丸投げした作業の工数が当初見積もりの6.4倍にまで増えてしまった。下請けの追加費用支払い要請に応じるか、契約を結び直すか――どうする、元請け!
46機能でよろしく→やっぱり296機能にして
事件の概要から見ていこう。
東京地方裁判所 平成23年4月27日判決から(要約)
元請けベンダーがユーザー企業から医療材料の物品管理システムの再開発を約4300万円で受託した。元請けベンダーは、実際の開発を下請けベンダーに46機能を約3300万円で発注することとして、両者は開発する契約を締結した。
ところが、開発中に機能数の見直しを行ったところ、機能数が296まで増大することとなり、下請けベンダーは元請けベンダーに対して、追加費用約1億6000万円の見積もりを提示したが合意に至らず、数カ月後に下請けベンダーは作業を中止した。元請けベンダーは、これを債務不履行であるとして、契約を解除する通知を発した。
下請けベンダーは、増額の合意および解約の際の出来高支払請求権として5億6700万円を請求し、一方、元請けベンダーは開発作業の履行拒絶が債務不履行にあたるとして、約1億5100万円の損害賠償を請求して裁判となった。
「3300万円」で受託した作業に「1億6000万円」の追加見積もりがあり、裁判では「5億6700万円」を請求するという金額の推移は、驚きを通り超えて奇異にすら見える。こうなると、当初の3300万円と実際の作業内容は、別の契約だ。
ここまで極端な例は珍しいかもしれないが、私も当初依頼された作業内容と実際の作業が大きく懸け離れてしまった経験が多々ある。
「財務会計の機能を実装する」話だったはずが「管理会計用の分析まで」やってほしいと言われる、「顧客管理」システムだったはずが、いつの間にか「営業支援の機能まで付ける」ことになる――結果、工数が当初の2倍3倍になり、追加費用を巡って顧客と一触即発の状態になったこともある。
下請けに拒否権はあるのか
こうした場合に難しいのは、「下請け側が自分の意思で契約を解除できるのか」という点だ。
追加機能について別の契約を結ぶ前提であれば、見積もりに元請けが合意しなければ、契約をしなければ済むことだ。下請けは粛々と当初の3300万円分の作業をすればいい。
しかし多くのシステム開発がそうであるように、この事件の場合も、契約はそのまま残し、その条件(金額や期間)を変更することで対応しようとした。
こうなると、追加の作業を行わない場合、あるいは行ったが完成しなかった場合、「契約全てが債務不履行」となり、下請けは一銭ももらえないどころか、損害賠償まで請求されかねない(事実、本件では元請けが1億5100万円を請求している)。
元請けからすれば、元の3300万円分の作業のみを下請けにしてもらったところで、ユーザー企業の最終的な要望に応えられない。
下請けが機能追加を行ってくれないことには、ユーザー企業/元請け間の契約も意味を成さなくなり、元請け自身がユーザー企業からお金をもらえないかもしれない。
だが、下請けが主張する追加の1億6000万円という金額に元請けは納得がいかなかった。交渉してもラチが明かず、契約を解除せざるを得なかった。
そしてモノは完成していないわけだから、「これは債務不履行に当たる」という論だ。
一方の下請けの主張は、「大幅な機能追加について見積もりを出したのに、元請けがこれに同意しないまま契約の解除を通知してきた」のだから、これは「元請けの意思に基づく解約」だ。
「自分たちの債務不履行ではなく、元請けが一方的に解除してきたのだから、行った作業の分だけは払ってもらう」という論になる(それが5億円以上の価値があったかどうかはともかく)。
追加見積もりに合意しないまま、空中分解してしまったプロジェクトは「債務不履行」なのか「一方的な契約解除」なのか――裁判所は、どのような判断をしたのだろうか。
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