下請けが現場をトンズラ。取り残された元請けの運命は?:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(16)(1/2 ページ)
東京高等裁判所 IT専門委員として数々のIT訴訟に携わってきた細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は、現場から「トンズラ」してプロジェクトを混乱させた下請けが、さらに2500万円を元請けに要求した裁判を解説する。
IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。前回は、仕事は丸投げするが支払いをしぶる元請けに下請けがブチ切れた裁判例を紹介した。
元請けvs.下請け裁判解説第2弾。前回は下請けが勝利して同じ立場の読者たちが留飲を下げたが、果たして今回はどうだろうか?
前回に続き、元請けのITベンダー(以下 元請け)と下請けITベンダー(以下 下請け)間の争いを紹介しよう。
前回も書いたが、一般的に、元請けは下請けに対して強い力を持っている。エンドユーザーと元請けの間であれば、かなり粘り強い交渉が持たれる要件変更や納期短縮要望も、元請けと下請けの間では、元請けの要望通りとなる場合が多い。
誤解をしないでほしいが、私は元請けは横暴なものだと言いたいのではない。下請けの中には、元請けのワガママに柔軟に対応できることを「売り」としているところも多いし、そもそも、ITベンダーである元請けの作業指示は、エンドユーザーの要望に比べれば、妥当で的を射たものが多い。下請けが元請けの指示や要望を丸飲みするのも、ある程度は仕方のないことでもある。
しかし中には、元請けが下請けとの距離感を誤って、下請けが不満をため込み、最終的にはプロジェクトを危機に陥れるケースもある。今回は、元請けが下請けとうまく協力してプロジェクトを完遂させるための方策について考える。まずは、以下の判例を読んでいただきたい。
下請けのメンバーが突然引き揚げてしまったプロジェクトの裁判例
【事件の概要】(東京地裁 平成22年7月13日判決)より抜粋して要約
原告:下請けソフトウエア開発ベンダー(以下 下請け)
被告:元請けソフトウエア開発ベンダー(以下 元請け)
ある大学のシステムの開発を請け負った元請けが、作業の一部を下請けに委託した。下請けが作業を進めていくうちに、さまざまな想定外作業が発生し、その費用が当初の予定を大幅に超えることとなった。
下請けは元請けに対して、約1000万円の追加費用の検討を求めた。これに対し元請けは「金額の妥当性を評価し、正当と判断できれば追加費用の支払いを検討する」として、資料の提出を求めた。しかし下請けは、新たな資料を提出しなかった。
その後、追加費用について合意のないまま下請けは作業を継続していたが、ある時、費用の確約がないことを理由に、作業担当者が引き揚げてしまった。さらに、導入直前のサーバーに発生した不具合についても下請けは対応せず、プロジェクトは混乱した。
こうしたことを受け、元請けは下請けとの契約を解除したが、下請けは「自身が作業を完遂できなかったのは、元請けがプロジェクト管理責任を果たさなかったからだ」として、報酬相当額と損害賠償合わせて2500万円の支払いを求めた。
自分から逃げ出しトラブルに対応しなかったにもかかわらず2500万円を請求するとは、随分身勝手な下請けだ。元請けが下請けの追加費用について相談に乗ると言っていた部分を見ても、なぜ下請けが突然メンバーを引き揚げてしまったのか不思議にさえ感じる。
下請けにも言い分はあるのかもしれない。エンドユーザーからの要望に抗しきれず、追加作業を唯々諾々と受ける元請けに対して腹に据えかねた上での「元請けはプロジェクト管理責任を果たしていない」発言だったのかもしれないし、下請け側からは追加費用について言い出しにくい雰囲気があったのかもしれない。
しかしどんな事情があったにせよ、作業の途中でメンバーを引き揚げ、成果物も納入していないにもかかわらず、それが元で契約解除を通告されたら報酬相当額と損害賠償を請求するというのは強弁に過ぎる感を否めない。
この連載では、いつも裁判所の意外とも思える判例を紹介してきた。今回もそうした判例を期待されていた読者がいるなら申し訳ないが、本件の判決は大方の予想通りのものとなった。
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