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多重下請け構造であえいでいるエンジニアが知っておきたいIT業界の仕組みSESや下請け構造自体に問題はない。では何が?(1/3 ページ)

わが社は、なぜ頂点を、せめて少しでも上のポジションを目指さないのだろうか――IT業界解説シリーズ、第2弾は「多重下請け構造」の闇に迫ります。

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 就活時に業界研究をせずにIT業界に就職してしまったITエンジニアの中には、キャリアアップしたくても、なかなか実現できずに苦しんでいる人も多い。

 その理由の一つとして、業界の多重下請け構造がある。

 多重下請け構造と偽装請負については、米村歩氏の「IT業界の仕組みと偽装請負の闇を分かりやすく解説しよう」に詳しいので、一読することをお勧めする。

 では、自分が勤めている会社が、多重下請け構造の三次請け以降の位置にあるのだとしたら、そこから元請け企業や二次請け企業にステップアップする方法はあるのだろうか。「情報戦略テクノロジー」の代表取締役である高井淳氏に伺った。

 情報戦略テクノロジーは、エンドユーザー企業の中にエンジニアを送り込み、ユーザー目線で業務課題の解決やシステム開発を行う「ゼロ次請け」を実践する中堅SI企業。確かな技術力でエンドユーザー企業からの信頼も厚い。


ピラミッドのような多重下請け構造(「IT業界の仕組みと偽装請負の闇を分かりやすく解説しよう」より再掲)
※IT業界にはさまざまな業種、職種があるが、本稿では、ITシステムの受託開発を行う企業、SES(System Engineering Service)を行う企業について解説する。また、本稿で解説する事例は一部であって、全てに当てはまるわけではないことをご了承いただきたい(編集部)

安定した雇用に貢献する「下請け構造」と「SES」

 三次請け以降の位置にある企業に勤務しているエンジニアの悩みは、どのようなものだろうか。

 人それぞれではあるが、典型的なものは「手掛けるフェーズが限られていてキャリアアップを図りづらい」「上の商流のエンジニアと同じ業務を手掛けていながら給与が低い」といったところではないだろうか。

 例えば、システム開発における上流工程である方式設計、要件定義、基本設計といったフェーズは元請けが行い、詳細設計以降のフェーズ(詳細設計〜コーディング〜テスト)は下請けに発注するのが一般的だ。すなわち、三次請け以降にいる限り、要件定義はおろか、基本設計すら手掛けるチャンスは巡ってこない可能性があるのだ。

 また、企業は自社に委託された業務を自社のエンジニアだけで賄えればいいが、足りない分はさらに下請けの企業から調達する。そうなると、同じ現場で同じ仕事をしているにもかかわらず、中間マージンが抜かれている分、会社が受注する単価が安くなる。必然的に、そこで働くエンジニアの給与も低くなってしまう。


商流下位に位置する企業で働くエンジニアが抱える問題

 高井氏は「あらかじめ誤解のないように言っておくと、SESやピラミッド(下請け)構造自体は『悪』ではありません。同様の業界構造は、建設業や製造業にも存在します」と強調する。その理由として、同氏は「日本の雇用」の制度面を指摘する。

 「ユーザー企業(発注主)や元請け企業が全ての開発を自社で行うには、相当な開発リソースを常に自社で保有しておかねばなりません。しかし、これは企業にとって大きなリスクでもあります。米国のようにプロジェクトで必要になれば雇用し、プロジェクト終了と共に解雇することができれば話は別ですが、日本は法律で労働者が守られています。簡単に解雇できないから簡単に雇用できない。ピラミッド構造はそうした問題を解決する仕組みとしても機能しているのです」

 そうなると元請け企業は、雇用のリスクを取ることなく、何らかの形で動的にヒューマンリソースを調達する方法を必要とする。その一つが下請け構造であり、それを支えるのが開発力をサービスとして提供するSESなのだ。

 こうして話を聞けば、SESは必要なサービス形態といえる。需給の調整を、雇用ではなく会社間の契約で行っているおかげで、会社員エンジニアたちは“いらなくなったら即クビ”という憂き目に遭わずに済んでいるのだ。

 だが、クビにならないからといって、商流の下の方でくすぶっていていいのだろうか。


情報戦略テクノロジー 代表取締役 高井淳氏

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