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「たった一つのことだけするから誰にも負けない」――16歳で起業家になったエンジニアが大切にする体験とはGo AbekawaのGo Global!〜Dean Drako編(前)(2/2 ページ)

クラウド型ビデオ監視システムを提供する「Eagle Eye Network」の社長兼CEO(最高経営責任者)であるDean Drako(ディーン・ドレイコ)氏。幾つもの特許を取得し、幾つもの企業を設立した同氏の行動力の源とは何なのか?

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「人」ではなく「顧客サービス向上」のためのクラウド映像監視システム

阿部川 Eagle Eye Networksは、オフィスの映像をクラウドで管理するシステム(Cloud Video Surveillance:クラウド映像監視システム)の会社です。なぜ映像管理システムの会社を設立しようとお考えになったのですか。

ドレイコ氏 良いご質問です。私は会社を経営する上で、常に顧客サービスに重点を置いています。皆さんが思っている以上に「顧客サービスが高い品質で実現できているかどうかが、会社がより成功していくかどうかを左右する」と私は思っています。そういう意味で日本市場と私の経営は、重点の置き方が似ているかもしれません。

 高い品質とは何か、といいますと例えば「顧客からの電話に必ず応える」などです。購買であれ、製品サポートであれ、顧客がオフィスに電話してきてくださったときは、誰かが会社にいてしっかり応答する。品質の高い顧客サポートは、必ず良いセールスにつながります。

 米国では残念ながら、不規則な時間で仕事をする企業があり、そういった企業は顧客からの電話にしっかり対応できていません。このままではどんどん顧客が離れていってしまう。そんな不安を抱いていたとき、このビジネスを思い付きました。世界中のオフィスにカメラを設置して会社が時間通りに運営されているかを確認しようと思いました。それがしっかりできれば高い顧客サービスが提供できると考えたわけです。従業員の働きを見たかったわけではなく、顧客の電話などの問い合わせにしっかり対応できる体制になっているかを確認したかったのです。

阿部川 なるほど。従業員を監視するのではなく「顧客サービスが維持されているか」を監視する仕組みなのですね。

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阿部川“Go”久広

ドレイコ氏 そうです。Eagle Eye Networksを起業した当時はクラウド型の映像監視システムといったものは存在していませんでした。これにはある意味驚きました。業界では、セールスフォースのようなクラウド型サービスが既に利用されているのに、映像監視システムに関してはクラウドに対応したものがなかったのです。これは大きなビジネスチャンスだと気付きました。

阿部川 つまり純粋にドレイコさんの体験から、設立に思い至ったわけですね。

ドレイコ氏 はい。そういった意味で申しますと私は幾つかの会社を設立していますが、それらの会社はほぼ全て自分の体験からアイデアを得て生まれています。

一つに集中するから誰にも負けない

阿部川 映像監視システムとなれば、カメラやシステム、ネットワークなどの設計や構築が必要だと思いますが、それはどうされたのですか?

ドレイコ氏 カメラとクラウドを連結する「ブリッジ」と呼ばれる小さなデバイスなどは製造していますが、それ以外のほとんどのものは製造しません。その代わりパナソニック、東芝、キヤノン、アクシス、ハイクビジョンなど、市場に流通している多くのカメラにEagle Eye Networksは対応しています。

 顧客は自身の持つカメラに愛着を持っています。それは機能だったり、デザインだったり、とても多様で複雑です。ほぼ全てのメーカーが100種類以上のカメラを製造していますし、ネットにいけばもっとたくさんの種類から選ぶことができます。市場全体で見れば、それはそれは多くのバリエーションを持ったカメラがひしめきあっています。

 私たちはカメラのビジネスをしているわけではありません。私たちのビジネスは、映像データを安全に収集し、それを保存し、AI(人工知能)やビッグデータの技術を用いて、顧客にとってより豊富な情報を提供できるようにすることです。ですから私は、いわばこのビジネス全体を設計したといった方がいいでしょう。

阿部川 システムの構成(この例ではカメラ)ではなく、情報(映像データ)で差別化しているということですね。

ドレイコ氏 カメラは顧客が持っているものを使いますが、その代わりその映像データをしっかりと暗号化して、セキュリティの問題がないようにします。データは消失に備えて3つ以上保存し、クラウドに上げてから暗号化もします。この全てのビジネスフローを設計しました。そして、このアイデアをエンジニアの皆が実現してくれたのです。

阿部川 セキュリティのお話が出てきましたが、Eagle Eye Networksではどのような対策をしていますか。

ドレイコ氏 たくさん手を打っていますよ。クラウドでもオンプレミスでも、HDDにある全てのデータを暗号化しているのは当社くらいじゃないでしょうか。それ以外にも社内にサイバーセキュリティの専門チームがあり、侵入テストや解析などを毎日しています。

 企業には必ずITチームがいると思いますが、彼らは多くの仕事を抱えています。データの安全はもちろん、「メールは大丈夫か」「ファイアウォールは破られていないか」「ネットワークは正常に動作しているか」など、心配しなければならないことが山ほどあります。そんな状況ではどこかが中途半端になり、「完全」にはできません。それに比べてわが社はたった一つのこと、つまり映像データを安全に保持することしかしません。ですから誰にも負けないサービスを提供できるのです。


 品質の高い顧客サポートが良いセールスを生む。ドレイコ氏はただ一つのことに専念するからこそ得られる「安全」を誇りとしていた。それは日本企業にも通ずることだろう。後編では数多くの企業を設立したドレイコ氏に経営者として従業員に求めるもの、そして未来のエンジニアに向けたメッセージを紹介する。

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