運用保守契約は永遠です:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(70)(2/3 ページ)
契約が更新されなかったからとブチ切れる運用保守業者 vs. 大きな案件があるかもしれないと口走ってしまった発注者。正しいのはどっちだ!
法的な保護には値しない
まずは、「大きな案件」という発言についての部分だ。
東京地方裁判所 平成25年7月10日 判決から(続き)
(発注者から運用保守業者に対しては、品質の問題が指摘されていた)発注者が本件更新拒絶をしたことが信義則に違反し、不法行為を構成する原因となるような発注者側の言動であると評価することはできない。
後出しジャンケンで恐縮だが、実は発注者から運用保守業者に対して、以前から作業品質の問題について指摘があったようだ。
ただ運用保守をしていれば、多少なりとも顧客からの不満や改善依頼はあるものなので、契約の更新を拒絶するほどの大きな問題と運用保守業者は考えてはいなかった。しかし裁判所は、その一つ一つが重大な問題であったかについては言及せず、ただ、運用保守業者は、発注者の言動から更新の拒絶を予測できたと述べている。
続いて、「サービス期間の長さ」に対しての部分だ。
東京地方裁判所 平成25年7月10日 判決から(続き)
2年4カ月、又は3年7カ月という期間は、継続的契約としてみた場合、必ずしも長期であるとはいうことはできない。
また、少なくとも本件基本契約が締結された後の個別契約については、それぞれ運用業務委託期間を1カ月又は3カ月と定めて個別に契約書が作成され、各個別契約にかかる契約書には業務委託期間を自動的に更新する旨の条項はなく(中略)運用保守業者において本件各個別契約が期間満了後に当然に継続されることを事実上期待していたとしても、もともと本件各個別契約は期間の定めのある契約であるから、約定期間満了により終了するのが原則であり、当事者の言動や両者の関係などに照らし本件の更新拒絶を不当とするような特別な事情が認められない限り、契約継続についての運用保守業者の期待は法的な保護に値するものではない。
裁判所はそれぞれにおいて運用保守業者の主張を認めず、請求は却下された
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 契約もしていないし働いてもいませんが、お金は払ってください。売り上げ期待していたんですから
東京高等裁判所 IT専門委員の細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は多段階契約の落とし穴を解説する - プロジェクトが頓挫したので、18億円請求します
T紛争解決の専門家 細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は「基本契約」と「フェーズごとの個別契約」を結んでいたプロジェクトが頓挫した場合の支払いについて、判例を基に解説する - 契約はまだできません。でも作業は続けてください
「やっぱり、安くしてください」と作業着手後に発注者に言われたら、ベンダーはどうすればいいのだろうか――IT訴訟事例を例にとり、システム開発にまつわるトラブルの予防と対策法を解説する人気連載。今回は、正式契約前に作業に着手し、6カ月もただ働きをさせられたベンダーの事例を解説する - キックオフ? やってませんよ。あれは単なる“お打ち合わせ”です
キックオフもしたし、メンバーも調達したし、作業も着手している。なのにプロジェクト延期だなんて、許せない!――IT訴訟事例を例にとり、システム開発にまつわるトラブルの予防と対策法を解説する人気連載。今回のテーマは「契約前作業」だ - 500台のサーバ集約と運用アウトソースを10カ月で完了 日鉄ソリューションズ
みらかホールディングスは、日鉄ソリューションズのITアウトソーシングサービス「NSFITOS」を導入した。同社の「クラウドサービス」「データセンター」と組み合わせることで、管理要員を約30人から5人に削減した