裏切りの情シス:コンサルは見た! 情シスの逆襲(1)(2/2 ページ)
小塚と羽生――同期入社の2人を引き裂いたのは、大手高級スーパーのIT化を巡る政治と陰謀だった。「コンサルは見た!」シリーズ、Season4(全12回)のスタートです。
足をひっぱらないでくれないか
(俺だって、あんなベンダーに捕まりさえしなければ……)
苦労してやっと通した企画。これが成功すればラ・マルシェは息を吹き返すし、自分もさらに高みを目指せる。
希望に胸を膨らませてプロジェクトをスタートさせたのは9カ月前のことだった。まさかその先に待っていたのが、このいつ抜け出せるとも分からない苦境だったとは。小塚の指はいつしか赤く腫れあがっていた。
「おい、返事をしないか」
うつむく小塚の頭を副社長の宇野の大きな声が襲った。
「はい?」
われに返った小塚は、出席者たちの視線が自分に集まっていることに初めて気づいた。
「何をぼうっとしている。どうなんだ? 『スマホ・デ・マルシェ』の方は」
宇野の声はさらに大きくなった。遠くから小塚を見つめる高橋も小塚の言葉を待っている。小塚は急いで立ち上がり、乾いたのどに口の中の唾を押し込んでから答えた。
「申し訳ありません。ま、まだ相手との交渉が……いえ……何度となくこちらからも出向いて妥協点を探っておるのですが、相手は一歩も引く様子がなく……」
「相変わらず、『開発費を払え』の一点張りですか?」
高橋の問いに小塚はうつむいた。
「一体、いつまで交渉してるんだ?」
厳しい言葉を投げ付けてきたのは、高橋の隣に座る浅田専務だ。
「そもそも、ウチは契約してないんだろう? 相手が勝手に作り始めて、勝手に辞めて、それで金をよこせなんて、どう考えたって無理筋じゃないか。契約がなければ債権も債務もない。そんな常識以前のことを、なぜ相手に納得させられないんだ?」
その言葉に村上が続いた。
「まったく。これ以上、うちの羽生君の足を引っ張らないでもらえないか?」
何だって?――小塚は息を飲んだ。
他の取締役ならともかく、この村上が勝ち誇ったように自分を糾弾することだけは納得がいかない。そもそもこの苦境は自分にITベンダーを紹介した羽生と、その上司でありながらベンダーとの取引手続きを遅らせた村上にあるのだ。
言い訳と反論が入り交じる小塚の脳裏に、ここ数カ月の不幸な出来事がよみがえってきた――。
つづく
書籍
細川義洋著 ダイヤモンド社 2138円(税込み)
システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」が、大小70以上のトラブルプロジェクトを解決に導いた経験を総動員し、失敗の本質と原因を網羅した7つのストーリーから成功のポイントを導き出す。
※「コンサルは見た!」は、本書のWeb限定スピンアウトストーリーです
細川義洋
政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員
NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる
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