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デイビッドは「カンパニーニューロンシステム」の夢を見るかGo AbekawaのGo Global!〜David Malkin編(後)(1/2 ページ)

AIがもたらすのは「価値あるビジネスを作り出すための時間」だというDavid Malkin(デイビッド・マルキン)氏。同氏が語る「全てが統合し、連携し合うカンパニーニューロンシステム」の夢。それが実現したとき、人々の暮らしはどう変わるのか。

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 世界で活躍するエンジニアの先輩たちにお話を伺う「Go Global!」シリーズ。前回に引き続き、「Cogent Labs」のDavid Malkin(デイビッド・マルキン)氏にご登場いただく。AI(人工知能)の存在が当たり前の世の中になったとき、人は何をすべきか。

開発者が考える「Tegaki」のクールなところ

阿部川“Go”久広(以降、阿部川) 現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか。

マルキン氏 何といえば一番分かりやすいかな……。ビジネスやテクノロジー全体のトレンドや動向をリサーチして、両者の少し未来の動向を考える。それらを基にしてクライアントに提案する。もしくは、そのアイデアをチームに提示して「Cogent Labsは、今何をすべきか、リサーチやエンジニアリングをどう進めればいいか」といった方向性を決める、といったことをしています。

 もちろん方向性の話だけでなく、プロダクトマネジャーと一緒に製品や市場に対する理解を深めることもしています。ただ、現状の理解だけでは新しい技術や知識に対処できなくなります。そのために先手を打つ必要があります。

阿部川 その意味では、新製品開発も担っているといえますね。

マルキン氏 おっしゃる通りです。

阿部川 「Tegaki」(テガキ)の利点や、それを使ったクライアントの利便性のようなものを教えていただけますか。日本人同士であっても、互いの手書きを読み解くのは難しいと思います。ずっと以前、Appleは「Newton」という個人用携帯情報端末(PDA)を販売しました。今のiPhoneやiPadの前身のような製品です。日本語の手書き入力には大変苦労しました。当時Tegakiがあれば本当に良かったんですが(笑)。

マルキン氏 間に合わずに残念です(笑)。

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阿部川“Go”久広(左)、「Cogent Labs」のDavid Malkin(デイビッド・マルキン)氏(右)

マルキン氏 Tegakiは、大きく2つの利点があります。1番目はコスト削減です。データ入力の要員を他の生産的な仕事に振り分けることができます。ただ多くの顧客を見て分かったのは、Tegakiによってこれまでの仕事に付加価値を付けられるようになることです。これが2番目の利点で、具体的にいえば時間の確保です。

 顧客はこの時間で、意思決定を早くしたり、業務フローをより最適なものに変更したりできます。今まで1週間かからないと分からなかったことが1分で分かるのですから、意思決定の質も変わってきます。そしてそれまでのビジネスのやり方全体を見直すこともできるようになるのです。

 つまりTegakiは、単に顧客にコストに関する利点を与えるだけではなくて、ビジネス全体を効率化する機会を提供できるのです。情報の流れを変えることでさまざまな革新を起こす、これこそクールなことだと思います。

阿部川 「AIが進めば自分の仕事がなくなるのではないか」と恐れる人もいますが、AIにはAIができることを任せればよく、私たちは私たちしかできないこと、よりクリエイティブなことをすればいい。そしてそれがビジネスそのものやそのプロセスを変えてしまう可能性をもたらしてくれる。このような全体の変化こそ、AIがもたらす未来の可能性ですね。

マルキン氏 そうです。AIはどのようなプロセスであっても効率化できる点が素晴らしいです。しかし、それよりも大切なことは、以前決めたプロセスそのものを変えなければならないような、第2ステージとでもいうべき時期が来たときにAIで何をするかだと思います。

 Amazonが良い例ですよね。Amazonはeコマース(電子商取引)の企業だったのに、いつの間にかAmazon Web Services(AWS)のようなITサービスの提供をしています。それができたのは、Amazonの根幹はテクノロジーだったからです。AIをビジネスのために用いれば、全く新しい方法で企業を成長させていくことが可能です。何も全てのワークフローを変えろといっているわけではなく、主要なものに付加価値を付ければいいのですから。

夢は「カンパニーニューロンシステム」の実現

阿部川 次にマルキンさんの夢を教えていただけますでしょうか。

マルキン氏 私の夢はいつも、私自身に関係しているというより「私が創造する未来」に関係するものです。例えば全ての企業が「頭脳」を持っていて、それが企業の日々の運営を効率的にサポートする、といった未来のイメージを持っています。それは例えばデータベースの検索かもしれませんし、カスタマーサポートかもしれません。法律的な契約書のチェックやリアルタイムでの企業監査、サプライチェーンの最適化、IoT(モノのインターネット)デバイスのモニタリングなども含まれるでしょうね。

阿部川 既に幾つか実現している技術はありますね。

マルキン氏 そうですね、ただ今はそれぞれが独立しています。これらをどうやって1つに統合するか、それをどうやって運営させるか。そしてデータのプライバシーをしっかり安全に保った状態で、どうやってアクセスするか。そうした問題を解決することが私の夢であり、チャレンジだと思っています。遅い歩みだとしても、近い将来必ず解決できると思っています。

 この問題が解決できればカンパニーニューロンシステム(Company Neuron System:企業の業務を統合する、企業内に行き渡った神経網のようなシステム)ができます。配送用のトラックが事故を起こしたら、即座にそれを補修するメカニックが手配され、同時に顧客に連絡が行き、「遅配による20%ディスカウントの価格変更を実行する」といったことが可能になるのです。

阿部川 そのような時代が来たら、人々の暮らしはどうなるのでしょうか。

マルキン氏 産業革命のときのように経済的な意味での効率化は進んでいくと思います。生活水準や生活の質が向上する、という点においても産業革命時と同様です。ですがその先は、ある特定の分野においてその質が下がる可能性があると思います。もちろん全体で見れば進化は間違いないです。しかし、短期的にはある特定の分野にインパクトがあることは否めません。

阿部川 マルキンさんのようにAIのエンジニアの方からそのような意見をお聞きするのは貴重だと思います。「AIがありさえすれば社会の問題が解決できる」といった話も聞きますが、現実は簡単ではありません。将来がいつもバラ色であるとは限らないと思うからです。

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