ユーザーの信義則違反で訴えてやる!――ベンダーの不自然な行動:コンサルは見た! 情シスの逆襲(7)(3/3 ページ)
開発は進んでいるのに、契約はまだ締結できない。そんな状態が2カ月もたったある日、オンラインショップ「スマホ・デ・マルシェ」開発ベンダーから、1通の内容証明郵便が送られてきた。
屈辱の敗戦処理
小塚の戦いの日々が始まった。
社内では「今からでもルッツとの契約を」と、村上はもちろん高橋にも頼み込み、一方ではルッツの本田のところに通い、開発の継続を依頼した。しかし、いずれの交渉の結果も芳しくなく、今やルッツの作業継続は絶望的となった。
結果として小塚に残された仕事は、敗戦処理だけとなった。「とにかく契約がない以上、金は払えない」という会社の方針をルッツに伝えるが、ルッツは「それなら訴える」という姿勢を崩さない。そうやってまた1カ月が過ぎた。
ここまでのことを思い出しながら、小塚は役員会議で取締役たちからの叱責(しっせき)に耐えていた。しかし村上の「羽生君の足を引っ張らないでくれないか?」という言葉には、さすがに感情を抑えきれなかった。
「しかし村上常務。この事態は、元はといえば常務が契約に慎重過ぎたからではないですか。契約がもっと早く、もしダメならダメで、早期に結論を出していただいていれば……」
小塚の反論に村上が逆上した。
「何だ君は! 自分の甘さを棚に上げて、責任を転嫁するつもりか!」
そのけんまくに会議室は一瞬で静まり返った。高橋が口を開く。
「ここは責任論より、どう対処するかです。小塚さん、この後社長室へ来てください」
会議は、ギクシャクした雰囲気を解消することなく終わった。
つづく
「コンサルは見た! 情シスの逆襲」第8話は11月21日掲載です。
書籍
細川義洋著 ダイヤモンド社 2138円(税込み)
システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」が、大小70以上のトラブルプロジェクトを解決に導いた経験を総動員し、失敗の本質と原因を網羅した7つのストーリーから成功のポイントを導き出す。
※「コンサルは見た!」は、本書のWeb限定スピンアウトストーリーです
細川義洋
政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員
NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる
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