ユーザーの信義則違反で訴えてやる!――ベンダーの不自然な行動:コンサルは見た! 情シスの逆襲(7)(2/3 ページ)
開発は進んでいるのに、契約はまだ締結できない。そんな状態が2カ月もたったある日、オンラインショップ「スマホ・デ・マルシェ」開発ベンダーから、1通の内容証明郵便が送られてきた。
ベンダーの不自然な行動
「契約をする気もないのに、あたかも契約するように信じ込ませて作業だけさせた。これはユーザーの信義則違反だから作業は止めるし、これまでにかかった費用は損害として請求する――ってことね」
その日の夕方、小塚は美咲と白瀬を訪ねて「A&Dコンサルティング」を訪問した。本来なら「ラ・マルシェ」の顧問弁護士に相談すべきところだが、彼らはITについては素人でいまひとつ頼りにならない。また、契約手続きを故意に遅らせていた村上に、誰かに相談していることを知られたくない、という気持ちもあった。
「契約する気はあったんです。ただ、社内手続きに時間がかかって……」
美咲は小さく首を振った。
「相手は、ラ・マルシェの契約担当部門に何度となく足を運んで早期の締結を依頼したって言ってるわね。『このままなら開発は中止する』と警告したのに、相手は言を左右していたずらに時間だけを浪費したって」
「そんなこと、知りません。私は本田支社長から『そろそろ契約を』と言われただけで。それも、たった一度ですよ。ところで、わが社の連中は『契約がないのなら債権も債務もない。ならば1億円以上も払う必要なんかないのでは』と言うんですが、本当のところどうなんでしょう?」
「残念ながら、そんな簡単な問題ではありません。契約する気もないのに作業をさせたとなれば、民事上の不法行為に問われるかもしれませんよ。動機はともかく、働かされた分の対価はもらう、という相手の主張はある意味シンプルです」
「そんな……」と、小塚は下を向いた。
同席していた白瀬が口を開いた。
「しかし、『ルッツ』って会社も随分と冷たくないか? あるべき姿はともかくとして、プロジェクトスタートから2カ月ちょっとだぜ? 普通のベンダーなら、いきなり辞めたなんて言わないだろう。しかも内容証明郵便だなんて」
白瀬の疑問を聞いて、美咲の目が光った。
「確かに、ちょっと不自然ね」
2人の会話が聞こえなかったのか、小塚は不安そうだ。「私は、これからどうしたら……」と、気弱な声で美咲に尋ねた。
「『社内をとりまとめて契約するから、作業は続けてくれ』ってルッツにお願いするしかないわね。それでもダメだってつっぱねられたら、『契約がないので金は払えない』と言ってみたら?」
「そんなことをしたら、本当に訴えられちゃいませんか?」
「ちょっと相手の出方をうかがってみましょう。その間にこちらでも調べてみます。いろいろね」
「いろいろ?」
首を傾げる小塚に、美咲は小さく微笑んだ。理由は分からないが、小塚はその笑顔に少しだけ救われたような気がした。
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