緊急! Windows 10 May 2020 Updateのアップグレードにちょっと待った!:山市良のうぃんどうず日記(181:緊急特別編)
Windows 10 May 2020 Update(バージョン2004)は、未解決の既知の問題を多数抱えたまま一般向けにリリースされました。2020年6月18日(米国時間)に新たに公開されたサポート情報は、対応を間違えるとユーザーデータを失うことになる重大な問題を伝えるものでした。アップグレードを開始する前に、使用中のPCが既知の問題の影響を受けないこと、既知の問題が許容できるものであることを確認することを強くお勧めします。
Windows 10 バージョン2004の未解決の既知の問題
2020年5月末、正式リリースとなった「Windows 10 May 2020 Update(バージョン2004)」のWindows Updateを通じた段階的なロールアウトが開始されました。お使いのPCがロールアウト対象として選択され、デバイスの準備(アプリやハードウェアの互換性に関して)が整っていて、そしてWindows Updateを既定の設定のまま使用しているのであれば、「設定」アプリの「Windows Update」で「更新プログラムのチェック」ボタンをクリックすると、「Windows 10、バージョン2004の機能更新プログラム」が利用可能になったという案内とともに、「ダウンロードしてインストール」のオプションが提示されるはずです(画面1)。
サポート期限が迫った古いバージョンのWindows 10を実行していない限り、リリース間もない今は自動的にダウンロードとインストールが始まることはありません。
すぐにWindows 10 バージョン2004にアップグレードしたいという場合は、以下のサイトからダウンロードとインストールを手動で開始する、あるいは後でインストールするためにインストールメディアを作成して使用することもできます。この他、利用可能な場合は、ボリュームライセンスや「Visual Studioサブスクリプション」から入手できるインストールメディア(ISOイメージ)を使用してアップグレードする方法もあります。
- Windows 10のダウンロード(Microsoft ソフトウェアのダウンロード)
今すぐにでもWindows 10 バージョン2004にアップグレードしたいという場合でも、ちょっと待ってください。Windows 10 バージョン2004は、一般公開時に既に10個以上の既知の問題を抱えながらリリースされました。2020年6月の品質更新プログラムまでに修正された問題は、そのうち2つだけです(うち1件は他社のアプリのアップデートによる解決)。
- Windows 10, version 2004 and Windows Server, version 2004(既知の問題とお知らせ)[英語](Microsoft Docs)
上記の問題を含め、Microsoftが認識している重大な問題の影響を受ける可能性があるPCに対しては、機能更新プログラムの提供はブロックされ、「設定」アプリの「Windows Update」には次のようなメッセージが表示される場合があります。その場合は、「まだ準備が完了していません」というメッセージを信じて、「Windows 10のダウンロード」からなど、別の方法によるアップグレードは行わないことをお勧めします。
まもなく、Windows 10 May 2020 Updateがリリースされます。今更新プログラムは互換性のあるデバイス用に提供されますが、お使いのデバイスでは、まだ準備が完了していません。……
データを読み取れなくなる新しい既知の問題
他のメディア記事でも既に情報を得ているかもしれませんが、Microsoftが2020年6月18日(米国時間)に公開した以下のサポート情報には、その時点ではまた「既知の問題とお知らせ」には追加されていない、ユーザーデータの消失リスクのある重大な問題を、Microsoftが調査中であることが記されていました。
- Issue with some Parity Storage Spaces after updating to Windows 10, version 2004 and Windows Server, version 2004[英語](Windows support)
新たな問題とは「記憶域スペース」を利用している場合、Windows 10 バージョン2004(またはWindows Server, version 2004)にアップグレードすると、記憶域プール内のディスクが「RAW(未フォーマット)」となり、マウントできなくなる場合があるという問題です。
Windows 10ユーザーの場合、「Storage Spaces(記憶域スペース)」と聞いても使っていないから関係ないと思うかもしれません。この機能は、種類やサイズの異なる複数のディスクを「記憶域プール」として1つに束ね、冗長性(パリティ、ミラー)や領域と性能(シンプル)を備えた1つ以上の「ディスク(仮想マシンの仮想ハードディスクとは異なる、仮想的なディスク)」を作成する機能です(画面2)。Windows 10のGUI(コントロールパネルの「記憶域の管理」)で作成する限り、「Storage Spaces(記憶域スペース)」という名称を目にすることはないでしょう。
サポート情報に記されている回避策を講じることで、読み取り専用でマウントしてデータを読み取ることは可能ですが、対応を間違えるとデータを消失してしまう可能性もあります。サポート情報では、この問題の影響を受けた場合に「CHKDSK」(ドライブのエラーチェック)を実行することは推奨しないとしています。
試しに、Windows 10 バージョン1909の仮想マシンで「パリティ」の構成で記憶域プール内にディスクを作成し、データを保存後、Windows 10 バージョン2004にアップグレードしてみましたが、この問題を再現することはできませんでした。
「パリティ」のディスクを試したのは、回避策のコマンドラインが「WriteCasheSize」(ライトバックキャッシュのサイズ)を条件にしていたからです(※サポート情報公開時は「パリティ」構成について記されていませんでしたが、その後、内容が更新されました)。同じ種類のディスクの場合、シンプルやミラーは0MB、パリティは32MBのライトバックキャッシュが自動構成されます。まだ明らかにされていない、別の発生条件が関係しているようです(画面3)。
問題の影響を受けた場合、サポート情報の回避策に従って、読み取り専用でマウントさせることでデータの読み取りを可能にできます。少なくとも、データを消失することはありません。問題が解決されれば書き込みもできるようになると思いますが、データを読み出せる間に念のためバックアップとしてコピーを作成しておくことをお勧めします。
不安の残る記憶域スペースはダイナミックディスクを置き換える予定
筆者が問題を再現することはできませんでしたが、既存の記憶域スペースに新たにディスクを追加(記憶域の作成)したり、記憶域スペースとディスクを削除後に記憶域スペースを再作成したりしたとき、「パラメーターが間違っています。(0x00000057)」という別のエラーが発生し、作成できないことに気付きました。
この問題は、記憶域スペースのアップグレード実施の有無に関係なく発生しました。また、Windows 10 バージョン2004を新規インストールした環境でも確認できました(画面4)。同じエラーが発生する問題は、Windows Insiderプログラムにおいても2019年から繰り返し議論されているようです。
「Windows 8」および「Windows Server 2012」で登場した「記憶域スペース(Storage Spaces)」の機能は、古くからある「ダイナミックディスク(Dynamic Disks)」と同様にソフトウェアRAIDを可能にする機能です。そして、以下の公式ドキュメントが示すように「ダイナミックディスク」はWindows 10 バージョン2004で開発が終了した機能の一覧に追加されました。
将来のリリースでは、ソフトウェアRAIDの機能は「記憶域スペース」に完全に置き換えられ、「ダイナミックディスク」の機能はWindowsから削除される予定です。今回指摘した2つの問題だけを見ても、大きな不安が残るのは筆者だけではないと思います。「Windows 2000」からの20年という長い実績のある機能は、今後も残しておくべきではないでしょうか。
- Windows 10 features we’re no longer developing[英語](Microsoft Docs)
ローカルメディアからのアップグレードでもネット接続が重要な理由
今回なぜこの問題を緊急で取り上げたかというと、Windows 10のアップグレード開始時にインターネット接続があるのと、ないとでは、大きな違いがあることを知ってもらいたかったからです。
以下の次の2つの画面はどちらも、今回の問題を検証するために用意した同じ仮想マシン(記憶域プールにディスクを作成済み)で、以前に作成済みのWindows 10 バージョン2004のインストールメディアを使用してアップグレードを開始したものです(画面5、画面6)。
画面6 ローカルのインストールメディアからインターネット接続なしの状態でアップグレードを開始すると、今回の問題の評価は行われず、そのまま続行できる(前出の画面3と画面4はこの方法でアップグレードした)
手動でオンラインまたはオフラインメディアから開始した「Windowsセットアップ」は、インストールやアップグレードを開始する前段階で何かしら更新プログラムをダウンロードしようとします。インストールメディアから開始した場合には「更新プログラム、ドライバ、オプション機能を入手するために、Windowsセットアップがオンラインになります」と説明されています。
インターネット接続がある場合は、前出の画面5のように、今回の問題の影響を受ける可能性があるため(実際には影響のない記憶域スペースの構成の場合でも)、「このPCをWindows 10にアップグレードすることはできません」と表示され、アップグレードを続行することはできませんでした。
「詳細情報」のリンクをクリックすると、記憶域スペースの問題に関するサポート情報(4568129)のページが表示されました。インターネット接続がある場合、このようにブロック機能が働き、問題の影響を受ける前にアップグレードを中止することができます。
一方、インターネット接続がない状態で、完全にオフラインでアップグレードを開始した場合、更新プログラムのダウンロードができなくても中断することなく、既知の問題の影響を受ける可能性があるとは評価されずに、前出の画面6のようにアップグレードを続行することができました。
つまり、オフラインでアップグレードを行う場合は、既知の問題の影響を受けるリスクがあるということです。既知の問題の影響が評価されるかどうかは、インストールメディアを作成したタイミングでも違ってくるかもしれません。
「Windows 10のダウンロード」サイトから直接アップグレードを開始した場合も同様に既知の問題(今回の記憶域スペースの問題だけでなく、Microsoftが把握している問題)の影響を受ける可能性を検出し、ブロックしてくれるはずです。
オフラインでブロック機能が働かないことは、事前にインストールメディアをダウンロードしていた場合に注意が必要です。また、企業が「Windows Server Update Services(WSUS)」やその他の更新管理ツールで配布する場合も、事前に標準的な企業クライアントPCでアップグレードして、業務の遂行に影響するような問題が発生しないことを検証した上で、全社的に展開することが重要です。
最新情報(2020年7月7日追記)
記憶域スペースの問題に関する新たな回避策が公開されています。また、OneDriveに関連する別の問題と回避策も公開されています。
- Workaround and recovery steps for issue with some Parity Storage Spaces after updating to Windows 10, version 2004 and Windows Server, version 2004[英語](Windows support)
- Issues using OneDrive Files On-Demand on some devices after updating to Windows 10, version 2004[英語](Windows support)
筆者紹介
山市 良(やまいち りょう)
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(2019-2020)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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