AIは蜃気楼か、ディープラーニングの功罪から新型コロナまで、白熱した議論の中身:丸山宏氏×森正弥氏×石山洸氏×佐藤聡氏(1/6 ページ)
ディープラーニングの社会実装で最前線に立つ、丸山宏氏、森正弥氏、石山洸氏、佐藤聡氏の4人の論客が2020年5月、AI/ディープラーニングの現在と新型コロナの関係について戦わせた議論をお届けする。
マシンは人間の知能にどこまで近づいたのか、創造性を発揮できるのか。ディープラーニングはどこが画期的だったのか。これからの課題とは。新型コロナとデータサイエンティストの関係とは。日本ディープラーニング協会の産業活用促進委員会が2020年5月19日にオンライン開催した「JDLA内部勉強会」で、丸山宏氏、森正弥氏、石山洸氏、佐藤聡氏の4人の論客が、AI/ディープラーニングの現在と新型コロナの関係について、白熱した議論を戦わせた。
丸山宏氏
Preferred Networks PFNフェロー。日本アイ・ビー・エム、キヤノンを経て、情報・システム研究機構統計数理研究所の教授に就任。その後Preferred Networksに最高戦略責任者として移籍。2018年4月より、PFNフェロー。ソフトウェア科学会の理事長も務める。
森正弥氏
元楽天の執行役員で、現在はデロイトトーマツコンサルティングの執行役員としてデジタル、ビッグデータ、AI領域を担当する。東北大学特任教授、メルカリの研究開発機関R4D顧問、APECデータアナリティクス人材育成プロジェクトのアドバイザーも務める。
石山洸氏
エクサウィザーズ代表取締役社長。同社は「ディープイシュー(地球規模の課題)」をAIで解決することを目的としているという。静岡大学客員教授、東京大学未来ビジョン研究センター客員准教授も務める。元リクルートAI研究所所長。
佐藤聡氏
connectome.design代表取締役社長。人工知能技術開発に特化したAIベンチャーを経て、AI活用戦略コンサルティングなどを手掛ける同社を設立。日本ディープラーニング協会理事、産業活用促進委員会委員長。内閣府未来技術×地方創生検討会検討委員。
AIは技術者にとって蜃気楼のようなもの?
佐藤 皆さんはディープラーニングに関わってきて、社会実装やその他のチャレンジで数多くの案件をこなしてきています。視聴者の方々は、「ディープラーニングで何ができるだろう、自分の業務で使えないか」ということを知りたいのではないかと思います。イケているディープラーニングの活用方法があれば、ご紹介いただきたいと思います。
森 個人的に注目しているトレンドとして、「クリエイティブAI」と総称できるようなAIアプリケーションのトレンドがあります。大量のデータを学習して予測や分類をしたり、法則性を発見したりという形でのAI活用ではなく、そこで学んだことを創造的なことに生かしていこうというアプリケーションです。絵を描く、小説を書く、作曲をするなど、アーティスト的なものが多かったですが、最近は記事を書く、広告のクリエイティブを作るなど、実際のビジネスへの応用が始まってきました。こうした動きに注目しています。
(注目する理由は、)経済的な価値のある、創造的なコンテンツをAIができるようになると、「人は何をやるんだ」という議論になります。人間のポテンシャルや、やるべきことを見出す意味でも注目しています。
佐藤 「AI」「人工知能」という言葉は独り歩きしていると思います。「創造性、知能があるのが人間だ」という考え方がありますが、皆さんの考える知能とは何なのでしょうか。
石山 創薬の事例もあり、AIは化学一般に使えます。味覚については「こういう味にしたかったらこういう配合にしてください」といった提案ができます。そういった商品企画は、芸術のレベルではないものの創造力があるといえるし、思ったより現場で活用されています。比較的クリエイティブなものへのAI活用が始まっているイメージです。料理でも、松嶋(啓介)さんのようなミシュランクラスの人が、「AIを活用したら何かできるのではないか」と活動を始めています。
佐藤 日本ディープラーニング協会が、あえて「ディープラーニング」という名前を使って(活動を)始めたのには、「AI」「人工知能」というと広くなってしまうのでやめよう、ディープラーニングにフォーカスしようという意図があります。諸説あるとは思いますが、知能の定義の1つは「複雑な目標を達成できる能力」です。絵画、音楽、創薬などは非常に複雑な目標ですが、これを解決したら知能といえるのでしょうか。
例えば今(、AIは)かなりの精度で物体認識ができます。これはちょっと前までは複雑な目標で、「これが人工知能なんです」と言えたかもしれません。だが、今となっては疑問です。「StarCraft」という戦略ゲームがあり、非常に複雑な目標を達成する能力がないと勝者になれませんが、(勝利できれば)これは「知能」と言えるのでしょうか。今は「知能」というかもしれないけれど、(後になれば)「いやいやそうじゃなくて」ということが、繰り返されている気がします。私は「AI」「人工知能」というものがあるのかというと、技術者にとっては蜃気楼(しんきろう)のようなものではないかと常々思っています。
何か新しいものが出てきて、知能的に見えると、「人工知能だ」と思ってそこに歩んでいくが、たどり着いてみると、違うものがある。今回は、「ディープラーニング」というものがあり、とても有効で、今は「人工知能」とも言われる。(だが、そのうち)これが普通になってしまって、次にまた新しい人工知能っぽいものが見えてくるのではないか。
私はこれを「AI蜃気楼説」と呼んでいます。追いかけていくが、逃げていくというようなものなのかなと思っています。
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