企業ネットワークの安定運用に貢献するWindows 10の「配信の最適化」機能、最新情報:企業ユーザーに贈るWindows 10への乗り換え案内(80)
Windows 10は、初めての機能更新プログラムである「Windows 10 November Update(バージョン1511)」のときから、「配信の最適化」機能をサポートしています。その後のWindows 10の新バージョンで、この機能の拡張が継続して行われています。「Windows 10 May 2020 Update(バージョン2004)」で追加された新機能を含め、最新情報をまとめました。
あらためて、Windows 10の「配信の最適化」とは?
「配信の最適化(Delivery Optimization)」機能は、「Windows 10」の更新プログラムや「Microsoft Store」(旧称、Windowsストア)アプリのダウンロードをピアツーピア(P2P)技術で最適化する機能として、Windows 10 バージョン1511で搭載されました。本連載では、Windows 10 バージョン1709までのこの機能について説明しました。
- 目に見えるようになったWindows 10の「配信の最適化」の効果(本連載 第43回)
社内ネットワークやインターネット接続帯域を最適化したいと考える企業は、「Windows Server Update Services(WSUS)」や「Microsoft Endpoint Configuration Manager(旧称、System Center Configuration Manager)」「Office展開ツール(Office Deployment Tool、ODT)」、その他のサードパーティーの更新管理ソリューションを導入しているでしょう。
これらの最適化機能を利用できない場合、Windows 10自身が備える「配信の最適化」機能は既定で有効であるため、ネットワークトラフィックの課題を緩和するのに、知らないうちに陰ながら寄与しているはずです。
例えば、ネットワークアドレス変換(NAT)の背後にあるプライベートネットワーク内に、同一バージョン、同一アーキテクチャのWindows 10コンピュータが複数台ある場合、タイミングさえ合えば、毎月の品質更新プログラムや半期に一度の機能更新プログラムのダウンロード時のネットワーク使用帯域の抑制に貢献してくれるものと期待できます。
“タイミングさえ合えば”と断ったのは、「配信の最適化」でピアにキャッシュされるデータは数日で期限切れとなり、利用できなくなるからです。また、ほとんど同時に更新プログラムのダウンロードを開始した場合、まだ近く(同じネットワーク上の別のコンピュータ)にキャッシュされていないため、全くキャッシュが利用されることのないままダウンロードが完了してしまうこともあります。
本連載第43回で紹介したように、Windows 10 バージョン1703からは「Get-DeliveryOptimizationStatus」や「Get-DeliveryOptimizationPerfSnapThisMonth」など、PowerShell用の「DeliveryOptimization」モジュールのコマンドレットが利用できるようになり、「配信の最適化」機能が実際に利用されているかどうかを数値で確認できます。
以下の画面1は、64bit(x64)版のWindows 10 バージョン2004とOfficeアプリ(大企業向け「Microsoft 365」または「Office Professional Plus 2019」)がインストールされている3台のコンピュータで、2020年6月10日の月例のセキュリティ更新をほぼ同じ時間に開始し、更新した翌日にGet-DeliveryOptimizationStatusコマンドレットを実行した結果です。
OSのエディションは上からPro、Pro、Homeで、Officeアプリは上からMicrosoft 365アプリの「半期チャネルエンタープライズ(プレビュー版)」(旧称、半期チャネル《対象指定》)、Microsoft 365アプリの「最新チャネル」(旧称、月次チャネル)Windows 10 Pro、Office Professional Plus 2019(最新チャネル相当)です。
一番上の1台は全てオリジナルソースからダウンロード(BytesFromHTTP)していますが、2台目、3台目は一部をピアキャッシュからダウンロード(BytesFromPeers)していることが分かります。
「DownloadMode:Lan」は同じネットワーク上でピア共有が有効となっている既定の構成で動いていることを示しています。「WU Client Download」はWindows Updateの更新プログラムのダウンロード、「Microsoft Office Click-to-Run」はOfficeアプリの更新プログラムのダウンロードを示しています。Officeアプリの最新チャネルの同じバージョンを実行している下の2台は、サブスクリプション版と永続版のライセンス形態に影響されることなく、ピアキャッシュを利用できています(2台目のキャッシュから2台目がダウンロード)。
Get-DeliveryOptimizationPerfSnapThisMonthコマンドレットを使用すると、その月の1日から現在までの「配信の最適化」の統計情報を取得することができます。同じ3台でその実行結果を簡単にまとめると表1のようになります。
コンピュータ | MYDESKTOP | DELLNOTE | MYNOTE | 合計 |
---|---|---|---|---|
オリジナルソースからのダウンロード(BytesFromHTTP) | 556.5MB | 919.5MB | 871.5MB | 2347.4MB |
ピアキャッシュからのダウンロード(BytesFromPeers) | 13.0MB | 137.6MB | 182.6MB | 333.2MB |
合計 | 569.5MB | 1057.0MB | 1054.1MB | 2680.6MB |
表1 6月1日〜11日までの「Get-DeliveryOptimizationPerfSnapThisMonth」の実行結果(*1) |
【*1】 システムの情報と更新情報
・MYDESKTOP:Windows 10 Pro(x64)バージョン2004(2020年6月10日に更新)、Microsoft 365アプリ「半期エンタープライズチャネル(プレビュー版)バージョン2002(2020年6月10日に更新)
・DELLNOTE:Windows 10 Pro(x64)バージョン2004(2020年6月10日に更新)、Microsoft 365アプリ「最新チャネル(プレビュー版)バージョン2005(2020年6月3日と10日に2回更新)
・MYNOTE:Windows 10 Home(x64)バージョン2004、Office 2019アプリのバージョン2005(2020年6月3日と10日に2回更新)
ほぼ同時に更新を開始しましたが、合計約2681MBのダウンロードのうち、約14%に当たる333MBをピアキャッシュで節約できたことになります。この結果は、筆者の小規模な環境のものですが、より大規模で、タイミングがうまく合えばより大きな節約効果を期待できるでしょう。もし、ネットワークの最適化のために、WSUSやその他の更新管理ソリューションを導入した方がよいものかどうかと悩んでいるのなら、月末にGet-DeliveryOptimizationPerfSnapThisMonthコマンドレットを使用して調査してみるとよいでしょう。
「配信の最適化」の継続的な機能拡張
2020年5月末の「Windows 10 May 2020 Update(バージョン2004)」のリリースに合わせて、以下のドキュメントの内容が大幅にアップデートされています。Windows 10バージョン2004の新機能を含め、再確認しておくことをお勧めします。
- Windows 10更新プログラムの配信の最適化(Microsoft Docs)
「配信の最適化」がサポートされるのは、Windows 10 バージョン1511からですが、アップデートされたドキュメントによると、バージョン1709以降の「Windows ServerのServer Coreインストールを実行しているコンピュータ」もサポートされると書いてあります。Windows Serverの半期チャネル(SAC)はServer Coreインストールオプションのみで提供されますが、Server Coreインストールが条件というわけではないようです。
筆者が確認したところ、「Windows Server, version 1809」と同じバージョン、ビルドである長期サービスチャネル(LTSC)のデスクトップエクスペリエンスインストール環境でも「配信の最適化」は機能していました(画面2)。「配信の最適化」のサポート要件は、Windows 10とWindows Serverについては表2が適切だと考えます。
OS | SAC | LTSC |
---|---|---|
Windows 10 | バージョン1511以降 | 2016/2019 |
Windows Server | バージョン1709以降 | 2019 |
表2 「配信の最適化」がサポートされるWindows 10およびWindows Serverのバージョン要件 |
アップデートされたドキュメントでサポートされるダウンロードパッケージにも注目してください(表3)。
ダウンロードパッケージの種類 | 1511 以降 |
1709 以降 |
2004 以降 |
---|---|---|---|
Windows 10の更新プログラム(機能更新プログラム、品質更新プログラム、ドライバ) | ○ | ○ | ○ |
Microsoft StoreおよびMicrosoft Store for ビジネスのアプリ | ○ | ○ | ○ |
Windows Defenderの定義更新(セキュリティインテリジェンス更新プログラム) | ○ | ○ | ○ |
クイック実行版Officeアプリの更新プログラム | × | ○ | ○ |
クイック実行版Officeアプリのインストールを更新プログラム | × | × | ○ |
MSIXアプリ(MSIXはMicrosoftの新しいアプリパッケージング形式) | × | × | ○ |
表3 「配信の最適化」でサポートされるダウンロードパッケージ |
初期のころはWindows 10の更新プログラム(これには機能更新プログラム、品質更新プログラム、ドライバが含まれます)やMicrosoft Storeのアプリ(APPXパッケージ)、Windows Defenderの定義の更新(現在の名称は「Microsoft Defender Antivirusのセキュリティインテリジェンス更新プログラム」)が対象でしたが、Windows 10バージョン1709以降はクリック実行(Click-to-Run、C2R)版のOfficeアプリの更新プログラムがサポートされました。当然のことながら、バージョン1709以降はWindows Serverの更新プログラムもサポートされます。
Windows 10 バージョン2004では、クイック実行版Officeアプリの新規インストールについてもキャッシュがサポートされました。また、APPXパッケージに代わる次世代の新しいアプリパッケージ形式として開発中のMSIXアプリパッケージのサポートも追加されました。
また、Windows 10 バージョン2004では、新しいグループポリシー設定およびMDM(モバイルデバイス管理)ポリシーの追加と、新しいポリシーに対応するクライアント側GUIも提供されます。グループポリシー設定は「コンピューターの管理\管理用テンプレート\Windows コンポーネント\配信の最適化」にある「最大バックグラウンド ダウンロード帯域幅(KB/秒)」と「最大フォアグラウンド ダウンロード帯域幅(KB/秒)」にあります。
このポリシーに対応するクライアント側GUIは、「設定」アプリの「Windows Update」の「詳細オプション」にある「配信の最適化」を開き、さらに「詳細設定」を開くことで見つかります。Windows 10 バージョン1909以前はバックグラウンドおよびフォアグラウンドのダウンロードに使用される帯域幅をパーセンテージで制御できましたが、新たなポリシーでは「絶対帯域幅」としてMbps上限を設定できるようになりました(画面3)。
筆者紹介
山市 良(やまいち りょう)
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(2020-2021)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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