コロナ禍で1日4万件の電話を9割減らしたサービスを1週間で内製――神戸市に入庁した元エンジニアが、書けるコードをあえて書かなかった理由:特集:“コーディングのプロに嫌われない”ローコード開発(3)
コロナ禍の神戸市が情報公開を中心とした新しいサービスを次々と内製、リリースした。いずれのサービスも開発期間は約1週間。担当したのは、情報化戦略部の職員である元エンジニアだが、あえてコードを書かずに開発したという。その理由は何なのか――ローコード開発の利点と課題、生かし方などについて聞いた。
元エンジニア、ローコードで新サービスを次々と開発
必要最低限のコーディングで素早く成果物を生み出すことができる「ローコード開発」。エンジニア不足が深刻化し、ビジネス環境も激しく変化する中、限られたリソースでスピード感を持った開発を推進できるとあって現場での活用が広がり始めている。
ローコード開発の効果を知るために今回紹介するのが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大する兆しを見せる中で、急増する市民のニーズをいち早く察知し、情報公開を中心とした新しいサービスを次々と内製、リリースした神戸市だ。
2020年4月7日に緊急事態宣言が発令されると、5月20日には「新型コロナの健康相談チャットボット」をリリース。WebサイトにPCやスマートフォンからアクセスすると「感染者と濃厚接触がありますか?」「渡航歴はありますか?」といった定型の質問が投げ掛けられるので、それに「はい」「いいえ」と答えるだけで、適切な相談先や受診先を知ることができるようにした。
5月14日に政令指定都市としていち早く特別定額給付⾦の申請書の郵送を開始すると、約2週間後の5月29日には「特別定額給付金の申請状況等確認サービス」(以下、検索サービス)をリリース。Webサイト上で10桁の申請者番号を入力すれば、「審査中」「振込⼿続き中」「振込済み」「保留中」といった受け付け状況をすぐに確認できるようにした。その後、専用番号に電話をかけて10桁の申請者番号を入力すれば音声通話によって申請状況を自動案内する機能も追加した。
さらに、全国的に感染が広がってくると、6月1日にCOVID-19発生状況のデータを解析、公開するサイト「神戸市:市内での患者の発生状況について」(以下、データ解析/公開サイト)をリリース。COVID-19に関する情報が複数のWebサイトに分散し、データの整合性が取れないケースが増える中、1つのサイトに統合し、更新も自動化した。
いずれのサービスも開発期間は約1週間。担当したのは、情報化戦略部の職員である伊藤豪氏だ。
2017年に社会人採用枠(システム採用枠)で入庁した伊藤氏は、外資系SIerに勤務した経験を持つ元アプリケーションエンジニアだ。「元」と付けたのは、入庁後は、システム以外の幅広い仕事を経験し知見を広めたいという思いもあり、開発業務からは距離をとっていたためだ。
伊藤氏は入庁後、基幹系システム(行政システム)の情報連携の仕組みや、自治体間でのマイナンバー情報連携システムの保守などを担当。2020年4月からは情報戦略担当として、市のICTガバナンスに関連する業務に従事していた。COVID-19が発生すると、対策のための特命チーム(データ解析班)に任命、そのタイミングで入庁後初めてとなるサービス開発に取り組むことになった。
だが、元エンジニアにもかかわらず、あえてコードを書かずに開発したという。その理由は何なのか――ローコード開発の利点と課題、生かし方などについて伊藤氏に聞いた。
切迫する現場で、特命チームが客観的に業務を分析し手を動かした
──3つのサービスを開発したいきさつを教えてください。
緊急事態宣言発令の翌日である4月8日に3つの特命チームが作られました。保健所支援、広報、データ解析に特化した3つの班で、私はデータ解析班に配属されました。ただ、データを解析しようにもシステム的に準備されているものがほとんど何もない。
健康相談のコールセンターには連日1000件規模の電話がかかってきて、人を補充してなんとか対応している状況でした。相談内容は「Microsoft Excel」にまとめられ、件数や内容のまとめなどを画像でキャプチャーしてWebサイトで公開していましたが、システムに頼らずマンパワーでなんとかしている状態でした。
そこで、まず人が対応しなくてもいいものを機械的に処理しようと考えました。コールセンターの相談内容を見ていると、専門的な知識を持つ保健師などが対応すべき相談だけではなく、簡易な相談が6〜7割あることが分かりました。その6〜7割を機械的に対応できれば、丁寧に対応すべき相談に注力できるようになります。そこで、チャットbotでコールセンター業務の効率化と質の向上を目指しました。
──当時、データはどのように管理していたのでしょうか?
当初Excelでデータを管理しており、保健師がデータを確認、共有する手間を、「kintone」を活用することで減らしていました。チャットbotを作るきっかけになったのも、このデータの分析です。
──チャットbotはどのように開発されたのでしょうか?
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