自営PHSの後継技術が気になる、「sXGP」に死角はないのか:羽ばたけ!ネットワークエンジニア(34)
PHSは2021年1月末に公衆サービスを終える。病院や工場などで自営PHSとしていまだに広く使われているものの、PHS端末やその親機であるPBXは機能的に陳腐化している。そこでPHSに代わるものとして候補にあがっているのが、sXGPだ。
かつて「ピッチ」という愛称で親しまれたPHSも携帯電話との競争に勝つことはできなかった。携帯電話が3G、4Gと高速化し、さらにスマートフォンが普及したことで公衆サービス終了に追い込まれた。しかし、病院や工場、オフィスなどで移動可能な内線電話としていまだにPHSユーザーは多い。
ここで課題になるのはPHS端末やPBX(Private Branch eXchange、構内電話交換機)の老朽化が進んでいるだけでなく、SNSやビデオ会議などコミュニケーション手段の高度化が進み、自営PHSの「陳腐化」が際立ってきたことだ。そこで、自営PHSの後継規格として開発されたのが「sXGP」(shared eXtended Global Platform)だ。
sXGPはTD-LTE(Time Division duplex Long Term Evolution)互換であるため、「プライベートLTE」と呼ばれることもある。TD(時分割多重)と呼ばれるのは、sXGPの場合、5MHzの周波数帯域を上りの通信と下りの通信で時間を分けて共有するからだ。帯域幅が狭い上に上りと下りで共有するため、スピードは下り12Mbps程度、上り4Mbps程度しか出ない。
対して携帯電話事業者のLTE(4G)はFD-LTEが主流だ。FDはFrequency Division multiplexing(周波数分割多重)の略で、上りの通信と下りの通信で別々の周波数帯域を使用する。帯域幅はバンド(Band)によって異なるがBand18とBand19は15MHzだ。帯域幅が広い上に上り通信と下り通信でそれぞれ15MHzを利用できるため、下り100Mbps超、上り50Mbps超といった速度を実現している。
sXGPを「プライベートLTE」と呼ぶと、携帯電話事業者のLTEと同等の速度が出るかのような印象を与える。sXGPはsXGPと呼ぶべきだ。
Band39を使う自営PHSとsXGPの関係は?
自営PHSの構成を図1に示す。PBXにPHS用基地局を接続するシンプルな構成だ。PBXと基地局間はキロ単位の距離をカバーできる。
PHS端末にはスプリアス規格がある。スプリアスとは必要周波数帯の外側に発射される電波のことで、電波利用環境に悪影響を与えないためなるべく少ないことが望ましい。スプリアス規格は2005年に改正され厳しくなったが、古い規格の端末が残っている。これらの端末は2022年11月末までしか使えない。旧規格の端末が残っていることやPBXの老朽化が、自営PHSからsXGPへ移行する動機になっている。
自営PHSやsXGPが使用する周波数帯はBand39と呼ばれる1.9GHz帯だ(図2)。無線LANと同様、免許不要で使えるのが特徴だ。コードレス電話機で使われるDECT(Digital Enhanced Cordless Telecommunications)方式も同じ周波数帯を使用する。sXGPに「shared」という単語が入るのは、このように同じ周波数帯を他の無線方式と共有するところから来ている。
sXGPの周波数帯はF0しかなかったが、2020年12月にF1とF2が追加される。F0は自営PHSと周波数が重なるため、近隣に自営PHSがあるとsXGPを導入できなかった。F1とF2の追加でこの問題を解決できる。
Band39はLTEの国際バンドであり、中国では大手携帯通信事業者がLTEサービスで使っている。そのため、iPhoneをはじめ多くのスマートフォンがBand39をサポートしている。sXGPでもそれらのスマートフォンをそのまま使えることが期待されている。
sXGPの弱点は端末の種類と通信速度
sXGPの構成は図3の通りだ。HSS(Home Subscriber Server)は、スマートフォンが内蔵するSIMがsXGPに接続できるものであるか否かを認証する。そのため、HSSにはあらかじめsXGPを利用可能なSIMの情報を登録する必要がある。
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