炎上・失敗しないデザイン制作のために依頼者が知るべきポイント:デザイナーの取扱説明書(終)(1/2 ページ)
デザインが関わるプロジェクトで「少し気になるけどこんなものでいいか」とされがちなコスト、専門分野、多様性の問題について紹介します。
デザイン制作は幅広く、優秀なデザイナーが1人いればどうにかなるような案件はありません。グラフィックデザイナー、Webデザイナー、UI/UXデザイナーとさまざま専門分野があります。普段仕事を一緒にしているデザイナーの専門分野はどこか知っていますか? デザインの素材を制作するのに、カメラマンやコピーライター、イラストレーターなどの専門家にお願いする場面も少なくありません。
今回はデザイン制作の費用、デザインの専門性に対する理解、そして多様性という放置されがちな部分について対策を解説します。
誤解されがち? デザイン制作における「制作費」の内訳
皆さんはデザインの制作費を高いと感じることはありませんか? 筆者はよく「高い」と言われます。もちろんその値段になる理由はあります。制作費が高い理由を簡単に言ってしまうと「完全オーダーメイド」だからです。服の既製品と自分サイズのオーダーメイドだと、後者が高価格になるのは想像しやすいと思います。案件の内容によっては外注を利用するなど、デザイナーがより専門性の高い人の手を借りることもあります。
なぜ制作費が高くなるのか、制作費用の内、どの部分が高くなるのかをきちんと把握し、適切な部分に費用が割けるようにしましょう。例えば、デザイン制作では以下のような見積もり項目があります。
- デザイン制作費
- コピーライティング費
- イラスト作成費
- 図版作成費
- 撮影費
- レンタルフォト(イラスト)使用料
これらには取材やロケハン(*)の交通費、資料の図書費、小物のレンタル費なども含まれます。営業にかかる「進行管理費」や「企画アイデア費」など、依頼主にとってよく分からない費用を請求することもあります。制作物により依頼主が受ける利益や恩恵分も含めた額になるケース、Webサイトやアプリケーションのデザインでは「実装費」が含まれることもあります。
(*)ロケハン:ロケーションハンティング。どこをどう撮影するか決める下見のこと
先述した見積もり項目を解説していきます。
デザイン制作費
デザインはクリエイティブディレクター(制作総指揮/企画/進行管理)、アートディレクター(ビジュアル制作総指揮)、デザイナー(実制作)、アシスタントデザイナー(制作補佐/見習い)と多い場合は分担して制作します。依頼主に内容をヒアリングし、その要望に添って資料や類似案件を探し、アイデアを出し合い、企画を練ります。撮影、イラスト作成、コピーライティングなどの外注があればそれらのスケジューリングやディレクションを行います。制作以外のさまざまな業務が発生します。
コピーライティング、イラスト、図版作成費、撮影費
コピーライティングやイラスト、図版を作成する場合、制作資料は欠かせません。好き勝手にできないため、アートディレクターやデザイナーと何度もやりとりをします。撮影は外出してロケハンをするもの、スタジオ内で撮影するものがありますが、スタイリスト、スタイリングに必要な小物の用意など前準備も必要です。
レンタルフォト(イラスト)使用料
レンタルフォトはWebで公開されている写真のライセンスを購入するものです。1枚数千円〜数万円で販売されているため、新たに撮影するより安く済むことがあります。しかし、使用許可のライセンスを購入する形になるため、競合他社も同じ写真を使用している可能性が高くなります。オリジナリティーを出そうと複数の写真を合成するケースもありますが、時間がかかり、費用対効果が高いとはいえません。オリジナリティーが必要ないもの、宇宙や海外など撮影が難しい素材で使用するケースが多い印象です。
レンタルフォトでかかる経費は「探す時間」です。膨大な写真の中からデザインのトーンに合い、必要な情報を得られる最適な1枚の写真を調べます。購入費+探す手数料といったところでしょうか。
発注者から見えているのは完成品、成果物です。その裏側では、幾つもの行程を経て、何人も動き、結構な経費がかかっています。
デザインには仕入れなどの分かりやすい出費がなく「制作費は100万円です」と突然言われると、その金額を気にしてしまうかもしれません。しかし、デザイナーもぼったくりをしようとは全く考えておらず、良いものを制作したいと考えた結果どうしても上記のような経費がかかってしまうのです。「高い」と絶望したり怒ったりせず、まずは「予算は○○円なのですが、□□のような課題を解決するにはどうしたらいいでしょうか」と相談してみてください。
Webと印刷物のデザイン制作の違い
普段、Webデザインだけを手掛けているデザイナーに、印刷物の制作を依頼するのはお互い幸せになれません。なぜなら、必要とする知識が違うためです。逆もしかりです。印刷物の実績しかないデザイナーにWebデザインを依頼するのも幸せになれません。
いつもデザイン制作を依頼しているデザイナーがいれば、発注者の業種の特性なども理解しているし、そもそも気心が知れた関係になっていて、とても安心できる存在だと思います。しかし、Webと印刷物は別物です。
典型的な例として以下のようなケースがあります。
- RGBでデータを作り、仕上がりの色味が想定と違う
- ページネーションを生かせない
- 文字組みが美しくない
- 紙の特性を意識していない
それぞれ解説していきます。ここでは、印刷物を主に手掛けるデザイナーをグラフィックデザイナーと呼びます。
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