「つなぐ」を自動化するIPaaS、在宅勤務のチーム連携業務を効率化しよう!:羽ばたけ!ネットワークエンジニア(38)
コロナ禍で長引く在宅勤務。プロジェクトチームのメンバーが目の前にいるオフィスワークと違い、在宅勤務ではいかにメンバー間の連携を効率的にするかが課題だ。今回は分散環境で仕事をするプロジェクトの生産性向上に役立つIPaaSについて述べる。
分散環境での仕事の効率化について考えていて思い出したのがアプリケーション開発に取り組む企業ageetの仕事のやり方だ。コロナ禍などは関係なく、会社創立時から分散ワークなのだ。ageetは「AGEphone」というソフトフォン(スマートフォンなどで使う電話アプリケーション)を主力製品とする会社だ。本社は京都にあるものの、営業や開発のメンバーは東京、シアトル、スイスにも分散している。
2019年1月の当連載、「価値創造時代のプロジェクトマネジメントは『自在な発想』で楽しもう」では、当時のageetが「Slack」や「Jira」など幾つものサービスを活用して効率的な分散ワークをしていることを紹介した。あれから2年、現在の分散ワークがどうなっているか岡崎昌人代表に確認したところ、IPaaS(Integration Platform as a Service)を使ってさらに効率化が図られていた。
IPaaS適用前とその後の違いは?
2019年1月時点のageetの業務フローは図1の通りだ。
見慣れないサービスもあるので各サービスの機能を書いておく。
- AGEphone ageetのソフトフォン。スマートフォンやPCなどで利用でき、世界のどこにいても内線電話や電話会議ができる。外線への発信も可能
- Slack チャネルと呼ばれるテーマ別のチャットルームでプロジェクトメンバーがあたかも対面しているように会話したり、さまざまな情報を共有したりできる。botを使った作業の自動化を組み込むこともできるビジネスチャット
- Trello トヨタ自動車のカンバン方式を参考に作られたタスク管理ツール。掲示板にタスクが付箋のように表示され、タスクをドラッグ&ドロップすることで担当者への割り当てができ、タスクの進捗(しんちょく)も分かる
- Jira バグトラッキングや課題管理に用いられるタスク管理ツール
図1の業務フローでは、サービスとサービスの間の連携は人手で行っていた。電話の問い合わせ内容をチャットでグループに共有したり、タスク管理の情報をコピー&ペーストして別のサービスに渡したり、などだ。
業務フローにIPaaSを導入して効率化を図ったのが図2だ。
手入力やコピー&ペーストで進めていたサービスから次のサービスへの情報の受け渡しやサービスの起動を、IPaaSではAPIで自動化して効率化を図る。APIといっても後述するようにプログラミングの必要はなく、簡単に使うことができる。
RPA(Robotic Process Automation)と似ていると思われる方もいるだろう。RPAはあるシステムからのアウトプットを人間が別のシステムへPC画面から入力する、という原始的なシステム連携をbotによるPC操作の記録と再生によって自動化するものだ。システム連携はPC画面をインタフェースとする。IPaaSではPC画面は無関係であり、APIによるリアルタイムで効率的な連携ができる。
図2で新たに追加されたサービスは次の通りだ。
- JotForm(ジョットフォーム) 受け付け、注文などのフォームを簡単に作れるサービス
- Zapier(ザピアー) Slackや「Microsoft Teams」「Trello」など数1000種類のサービスに対応する代表的なIPaaS
- Backlog Jiraと同じタスク管理ツール。国産で使いやすいことが特徴
IPaaSの利用イメージとは
顧客から電話で問い合わせが入り、AGEphoneで受けると図3中央のようにJotFormのフォームがポップアップする。図3右の画面で要件の種別をチェックし、通話メモを追記して登録ボタンを押すとフォームがZapierに送られる。
JotFormの受信をトリガーとしてZapierが起動し、自動フィルターで担当者をアサイン、Slackが担当者にチャットを送る(図4)。
自動フィルターは連携元(ここではJotForm)から送られてきたパラメーター値に基づいて値が一致(部分一致、完全一致)するかどうかで条件分岐する機能だ。その結果によって次に連携するクラウドサービスを決める。
図4の下にあるのがAPIを使うためのZapierの設定画面だ。プログラミングの知識がなくてもアンケートに回答するような要領で簡単に設定できる。
JotFormからの情報は図2で示したようにZapierからTrelloに連携され、会議の予定はGoogleカレンダーに自動登録される。
TrelloとJira/Backlogの間は自動連係させることができるが、ageetではあえて人手で連携している。Jira/Backlogは顧客と情報共有するため、きめ細かさと正確さが求められるためだ。
IPaaS活用のコツとは
ageetの事例を研究して分かったIPaaS活用のコツは「まず使ってみること」「使いながら適用範囲や使い方を修正すること」の2つだ。専門的なプログラミング知識がなくても手間や時間をかけずに使い始めることができるのがIPaaSのいいところだ。
使えそうなところにまず使ってみる。適用範囲を広げてみて、自動ではきめ細かさや正確さが足りないと思えば範囲を絞る。
あなたのプロジェクトもコロナ禍で分散ワークを強いられているなら、IPaaSの活用を検討してみてはいかがだろう。
筆者紹介
松田次博(まつだ つぐひろ)
情報化研究会主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。
IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。企画、提案、設計・構築、運用までプロジェクト責任者として自ら前面に立つのが仕事のスタイル。本コラムを加筆再構成した『新視点で設計する 企業ネットワーク高度化教本』(2020年7月、技術評論社刊)、『自分主義 営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(2015年、日経BP社刊)はじめ多数の著書がある。
東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)を経て、現在、NECデジタルネットワーク事業部エグゼクティブエキスパート。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「在宅」ファーストの企業ネットワーク設計、3つのポイントとは?
新型コロナウイルスの感染予防対策として、在宅勤務が一気に広がった。今や企業のネットワークユーザーは社内ではなく自宅からアクセスしている場合が少なくない。「アフターコロナ」となっても、働き方改革の定着と相まって在宅ファーストは続くだろう。このような状況を前提とした企業ネットワーク設計のポイントについて述べる。 - 「Microsoft Teams+FMC」で、PCは電話を飲み込んでしまうのか?
携帯大手3社はMicrosoft TeamsとFMCを連携させたクラウド電話サービスに注力している。TeamsがあればPBXが不要になり、固定電話機がなくてもPCが電話機代わりになる。今後、PCは電話を飲み込んでしまうのだろうか? - Windows Updateで大渋滞のフレッツ網、自衛策は?
2019年8月29日午前、Windows Updateに起因するフレッツ網の輻輳で、企業ネットワークは端末のタイムアウトなど大きな被害に遭った。このような場合、輻輳が収まるのを待ち続ける以外に対策はないのだろうか。