Azure仮想マシンを“お安く”利用できる「Azureスポット仮想マシン」とは:Microsoft Azure最新機能フォローアップ(139)
2020年5月から一般提供が開始されている「Azure Spot Virtual Machines(Azureスポット仮想マシン)」は、SLAが提供されない代わりに、通常の従量課金制よりも大幅に割引されたコンピューティング料金でデプロイ、実行できるAzure仮想マシンの支払い方法の一つです。
お得な価格設定の理由、それは「余剰リソースを利用する」から
「Azure Spot Virtual Machines(Azureスポット仮想マシン)」(以下、スポットVM)は、Microsoft Azureでその時点で利用されていない“余剰リソース”を使用して実行されるAzure仮想マシンで、以前にプレビュー提供されていた「Azure低優先度VM(Low-priority VMs)」(2020年2月に廃止)を置き換えるものです。
Azureで利用可能なコンピューティングリソースが足りなくなり、通常のAzure仮想マシン(他のテナントを含む)にリソースを再割り当てする必要があると、スポットVMは停止されて割り当てを解除されるか(既定)、削除されます。
SLA(サービス品質保証)が提供されない代わりに、通常の従量課金制のコンピューティング料金(OS料金やストレージ、ネットワークの使用量は含まない)と比較して最大で90%引きのスポット料金で提供されます。実際の価格は、提供デプロイ先のリージョン、仮想マシンのサイズ、Azureのコンピューティングリソースの使用状況によって変動します。
現在、スポットVMを利用可能なAzureのプランは以下に限定されます。30日間の無料試用版(Free Trial)や「Visual Studio」(旧称、MSDN)サブスクリプションなどではスポットVMは利用できません(デプロイを試みても、リソースの検証エラーが発生します) 。
- エンタープライズ契約サポート(Enterprise Agreement Support Plan Offer)
- 従量課金制(Pay-As-You-Go)
- スポンサー(Microsoft Azure EA Sponsorship)
- クラウドサービスプロバイダー(CSP)……パートナーへの問い合わせが必要
従量課金料金とスポット料金の比較例
Azureポータルを使用してAzure仮想マシンをデプロイする場合、「仮想マシンの作成」ページで「Azureスポットインスタンス」のオプションをチェックすることで、スポットVMとしてデプロイすることができます。
例えば、「東日本」リージョンで仮想マシンのサイズ「D4s v3(4 vCPU、16 GB RAM)」を選択した場合、SLAが提供される通常のコンピューティング料金は「2万1094円/月、49.504円/時間」(188.34ドル/月、0.442ドル/時間)ですが、スポットVMは約80%割引のスポット料金で「0.05565ドル/時間」から利用できます(画面1)。
スポットVMの価格とAzureのコンピューティングリソース不足による削除の可能性(削除率)については、「すべてのサイズを表示」をクリックすることで、他のサイズを含めて確認できます(画面2)。
また、「価格履歴を表示し、近くのリージョンの価格と比較する」をクリックすると、過去3カ月の最大価格の変動と削除率を、近隣のリージョンと比較できます(画面3)。
スポットVMとしてデプロイする場合、「削除の種類」として「容量のみ」または「価格または容量」のいずれかを選択します。
「容量のみ」を選択した場合、Azureのコンピューティングリソースの余剰がなくなったときにのみ、スポットVMが削除ポリシーに従って削除されます。「価格または容量」を選択すると、容量に加えて、スポットVMの最大価格が指定した価格以上になった場合にもスポットVMが削除されます。
「削除ポリシー」では、「停止/割り当て解除」と「削除」のいずれかを選択します。「停止/割り当て解除」を選択した場合、仮想マシンの割り当てが解除されるとコンピューティング料金の課金はなくなりますが、ストレージ使用に対しては引き続き課金されます。「削除」を選択すると、それを回避できます。
Azureでコンピューティングリソースが不足し、リソースの回収が必要になると、30秒前に通知後、Azureによってスポットインスタンスが削除されます。
スポットVMの利用シナリオは?
スポットVMは、仮想マシンの中断や削除を許容できる場合、コスト削減のために活用できます。例えば、バッチ処理、開発/テスト環境、大規模なワークロードのスケール拡大用インスタンスなどです。スポットVMの突然の削除により、ワークロードにどのような影響があるのかをテストするには、以下のドキュメントに従って削除をシミュレートできます。
- Azure portalを使用してAzure Spot Virtual Machinesをデプロイする(Microsoft Docs)
筆者紹介
山市 良(やまいち りょう)
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(2020-2021)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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