「Kubernetes」やクラウドネイティブ技術の利用調査レポートをCanonicalが発表:なぜ不安を感じるのか
Canonicalは「Kubernetes」やクラウドネイティブ技術について、利用状況を調査したレポートを発表した。クラウドネイティブ技術をどのように活用し、何に不安を感じているのかが分かる。
オープンソースのLinuxディストリビューション「Ubuntu」の開発支援を行うCanonicalは2021年6月29日(英国時間)、「Kubernetes」やベアメタル、仮想マシン(VM)、コンテナ、サーバレスアプリケーションといったクラウドネイティブ技術の利用状況をまとめた調査レポート「Kubernetes and Cloud Native Operations Report」を発表した。
Canonicalは、クラウドネイティブアプリケーションの開発・運用関連のオープンソースプロジェクトをホストするなどの活動を行っているCloud Native Computing Foundation(CNCF)のメンバー企業であり、CNCFエコシステムに含まれるさまざまな技術の商用サポートも提供している。
この調査では、Kubernetesやクラウドネイティブ技術を利用している世界のIT担当者1166人が回答した。レポートには、Amazon Web Services(AWS)やGoogle Cloud、CNCF、WeaveWorks、Cloudbees、HCL Technologiesに所属する専門家が内容を評価したコメントも盛り込まれている。
Canonicalは調査結果を基に、「近年ではクラウドネイティブ技術が広く導入されてきたが、企業はまだ、本格導入へのキャズムを越えていない。それでも、本格導入に向けた動きが急速に進んでいる」と述べている。キャズムとはハイテク業界において新製品や新技術を市場に浸透させていく際に見られる、初期市場からメインストリーム市場への移行を阻害する「深い溝」のことだ。
全アプリケーションをKubernetesで実行している企業が15.7%に及んだ
レポートによると、企業はさまざまなクラウドネイティブ技術を組み合わせて利用している場合が多いという。回答者全体の45.6%が、オープンソースのコンテナオーケストレーションシステムであるKubernetes上で本番アプリケーションを実行している。全てのアプリケーションをKubernetes上で実行していると答えた回答者は全体の15.7%に及んだ。
Kubernetesクラスタの数については、回答者の21.4%が500台以上を管理していた。
アプリケーションプラットフォームはどうなっているのだろうか。回答者全体の29.9%はベアメタル、VM、Kubernetesを組み合わせてアプリケーションを実行していると答えている。また、15.3%は主にVMでアプリケーションを実行しており、Kubernetesに完全に移行する計画だ。13.1%はVMでアプリケーションを実行しており、Kubernetesの導入を評価している。
「これは、われわれがインフラを適切にモダナイズするまでには、まだ長い道のりがあることを明確に示している」と、Cloudbeesのディスティングイッシュトエンジニア、ジェームズ・ストローン氏はレポートで述べている。
また、回答者の77.8%が、所属組織がハイブリッドまたはマルチクラウドを本番環境で利用していると答えている。
レポートによると、これらの導入が進む中、新しい課題が出てきていることも分かった。特に、ベアメタル、VM、Kubernetes技術のスプロール(無秩序な増殖)の管理が大きなテーマとなっている。
さらに企業は、構成管理よりもアプリケーションによる運用自動化に注目しており、今後はオペレーションも大きな課題になるとみられている。重要技術と位置付けられている「Kubernetes Operator」については、回答者の29.8%が試用を予定し、16.8%が既に試しており、13.7%が本番アプリケーションのために利用している。
Canonicalは、調査結果のハイライトを次のようにまとめている。
回答者の属性
回答者を職種別に見ると、SRE(サイト信頼性エンジニアリング)/DevOpsエンジニア(回答者全体の23.7%)が最も多かった。
次いでインフラアーキテクト(同11.5%)、バックエンド開発者(同9.8%)、フルスタック開発者(同8.7%)が多かった。これらは、Kubernetesやクラウドネイティブ技術のユーザーが多い職種といえる。
技術を利用する目的
Kubernetesやクラウドネイティブ技術を使用する最も重要な目的はメンテナンス、自動化、モニタリングの改善だった(回答率64.6%)。
次いでインフラのモダナイゼーション(同46.4%)、市場投入の迅速化(同26.5%)などが挙がった(2項目回答可)。
クラウドネイティブ技術の価値
Kubernetesやクラウドネイティブ技術の最も価値ある特徴として回答に挙がったのは上位から、最先端技術、開発生産性、弾力性とアジリティ、グローバルな展開、オープンソースソフトウェア、ポータビリティー、設備投資と運用経費の低減、リソースの最適化、運用の簡素化だった。
クラウドのユースケース
ハイブリッドやマルチクラウドの最も一般的なユースケースは、開発のスピードアップとDevOpsの自動化(回答率20.7%)だった。
次いでクラウドバックアップオプションの拡大によるコスト削減(同13.3%)、ディザスタリカバリー(同12.6%)、ミッションクリティカルデータベースのクラスタリング(同6.2%)であることが分かった。
Kubernetesの課題
Kubernetes/コンテナへの移行やこれらの利用における最大の課題は、社内のスキル不足/限られた人員(回答率54.5%)だった。
次いで自社のIT構造(同37.3%)、レガシーシステムとの非互換(同32.6%)、ユーザートレーニングの難しさ(同29.7%)、セキュリティとコンプライアンス問題(同24.7%)、クラウドネイティブアプリケーションの統合(同19.0%)が挙がった(複数回答可)。
Googleのデベロッパーアドボケートを務めるケルシー・ハイタワー氏は、社内のスキル不足の問題について、「人々は、必要なスキルの多くを既に持っていることを理解していない。例えばKubernetesは、古い概念について使われる新しい用語だ。しかし多くの人は、基盤部分が変わったと考えているため、自信がない」と指摘している。
また、Weaveworksの創業者でCEOのアレクシス・リチャードソン氏は、「セキュリティやコスト、リソース、可観測性、構成といった基本的な事項について人々が不安を感じているのは、まだ本格導入へのキャズムを越えていないことを示している」と述べている。
なお、今回の調査に協力した回答者の属性は次の通り。35.7%が開発者、37.5%が運用担当者、7.5%が管理職、4.4%が経営層、5.5%が教職、9.3%がコンサルタントやマーケティング担当者などだった。
所属する業界で最も多かったのがITの40.5%、次いで金融(9.3%)、教育(8.1%)、コンサルティング(7.2%)、通信(6.4%)、行政(3.5%)、ヘルスケア(3.4%)、専門サービス(2.7%)、製造(1.9%)だった。
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