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SI系企業で働くエンジニアが年収を上げるためにすべきこと受け身でいては幸せになれない(1/3 ページ)

複雑怪奇なIT“業界”を解説する本連載。今回のテーマも年収です。構造的に、人をリスクと捉え、育てる環境がないIT業界。では、その中でエンジニアはどうやってキャリアを切り開いていけばいいのでしょうか。

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 YouTubeを見る人が増えると、YouTuberの人気が出て高い収入を得る人が出てくる。そしてYouTuberが子供たちの憧れる職業になる――というのは自然な流れです。しかし、AI、クラウド、SaaS、DX(デジタルトランスフォーメーション)などの話題が経済ニュースで盛り上がっても、それを現場で支えるITエンジニアは高い年収を手にできる憧れの職業となっているかというと、若干雲行きが怪しくなってきます。

 みずほ情報総研が経済産業省の委託事業として実施した、平成30年度の「IT人材需給に関する調査」によると、「2030年には約79万人ものIT人材が不足する」とされており、ITエンジニアは需要が高い職種として好待遇が期待されてもいいはずです。確かに、システムエンジニア全体の平均年収は550万円で、全職種の平均年収455万円よりも高いことは間違いありません(「令和2年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)」)。しかし同時に、「新3K」(キツい、帰れない、給料が安い)といわれ、労働集約的なイメージがあるのもまた現実です。

 私は、フリーランスエンジニアとして10年にわたりスタートアップ企業の技術責任者や役員を経験し、そして今日までの10年はIT企業の経営者としてシステム開発プロジェクトを行ってきました。その間にはテレビや雑誌などのメディアに多く取り上げられた「漫画カメラ」というアプリをリリースしたり、C言語で画像処理を行い、Ruby on RailsやLaravelでWebアプリケーションを作り、Pythonで機械学習や分析サーバを立て、AWS(Amazon Web Services)でインフラ構築したりと、実際に手を動かしてプログラミングも行いながらさまざまなプロジェクトを経験してきました。

 これまでのエンジニアとして評価を受ける立場、そして現在の多くのエンジニアを評価する立場、両方の経験を踏まえ、経営とエンジニアの両サイドから「エンジニアは今後どのような視点と考え方を持っていれば、やりがいのある仕事と、それに見合う高い年収を得られるのか」を考えていきます。

IT業界は「人を育てる環境」がない

 エンジニアの年収が上がらないのは、「IT業界の多重請負構造が原因であり、中抜き企業が増えるために取り分が少ない」という意見がありますが、ことはそんな単純な話だけではありません。

 誰もはっきりとはいいませんが、この構造の原因は、「解雇規制のある日本において、エンジニアを定常的に多数雇用しておくことを、ベンダーや発注元企業が『経営リスク』と考えている」ことです。外部企業のエンジニアをプロジェクトで必要になったときに必要な分だけ調達し、プロジェクトが保守フェーズに入ってエンジニアの数が必要なくなれば減らす、景気が悪くなってくれば減らす、といった雇用の調整弁としての役割を、多重請負構造に担わせているわけです。

 その結果として、人員数が必要になる製造フェーズだけしか携わらないエンジニアが多く生まれました。スキルや年収を伸ばせるチャンスの多い上流工程を経験する機会が少なく、実力が伸びないままのエンジニアもかなりの数に上ります。ある年齢がくると年収が高止まりし、定年に向けて下降していきます。そうしたエンジニアは、納期と工数の間に挟まれて、ハードな労働を繰り返し要求され、疲弊していきます。

 多重請負によって携われるフェーズが限られ、まともにスキルや能力のあるエンジニアの絶対数が増えないことが問題であり、スキルを伸ばせる環境、スキルを学べる環境を業界として用意できていない、個人の努力次第のようになっている状況は、最先端の未来を作る業界としてあまりに頼りないといわざるを得ません。

 当然ながら、本来は実力があるのに、所属している会社が多重請負の下層にあるので十分な報酬を得られない、という人は、より上流など幅広い工程を経験できる企業にすぐに転職すべきです。20〜30代前半でこれから実力を付けていく段階のエンジニアは、「スキルを伸ばせる環境はどこか」に強くこだわって身を置く場所を選ぶことが大切です。

コロナ禍によって「エンジニアの競争率が上がる」

 最近、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によってテレワークを導入する企業が増えています。IT業界は他業種よりもテレワークへの抵抗が少なく、アフターコロナにおいてもテレワークを継続する企業も多いと思います。開発現場ではチャットやGit、Zoom、Google Meetがあれば業務ができるため、成果さえ上がっていれば物理的な出社をする必要性がかなり少なくなったといえるでしょう。しかし、これは良いことばかりではありません。エンジニアの携わる仕事において、地理的な要因が急激に無意味になっていくということでもあります。

 これまでは、東京・恵比寿の開発プロジェクトであれば恵比寿へ通える範囲に居住しているエンジニアが対応していました。ある程度の限られた商圏で活動しているエンジニアが競合だったといえます。しかし、テレワークになった現在では、都内にいても北海道や沖縄にいても業務は遂行できます。言語の問題さえなければ日本に住んでいる必要さえありません。遠隔地に住んでいる優秀なエンジニアが、東京に住んでいるエンジニアの仕事を奪うということも発生しています。

 時代の流れとしても、戦えるスキルを持つことがより重要になってきました。

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