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「ライセンスが英語で分からない!」「ソースコード提供ってどういう方法でやればいい?」解決! OSSコンプライアンス(3)

OSSコンプライアンスに関するお悩みポイントと解決策を具体的に紹介する連載「解決! OSSコンプライアンス」。3回目は、「ライセンスが英語で分からない!」「ソースコード提供ってどういう方法でやればいい?」という2つのエピソードと解決策を紹介する。

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 本連載では、オープンソースソフトウェア(OSS)の利活用に伴う「ライセンスリスク」と、それをマネジメントするための活動である「OSSコンプライアンス」について取り上げ、エンジニアの方がOSSをスムーズに利用するための実務上の勘所や、これから戦略的にOSSを活用していきたいと考えている企業の方へのヒントとなる情報を紹介しています。

 今回も前回に引き続き、ソフトウェア開発企業X社の新人開発者である新城くんが経験したOSSコンプライアンス問題とその解決策を解説していきます。思わぬ落とし穴や難しい問題に直面しながらOSSコンプライアンスに対応していく新城くんのエピソードを通して、皆さんも理解を深めていってください。

 なお、本連載では、特に記載がない限り日本国内でOSSを活用する場合を前提としており、本連載の執筆チームの経験に基づいて説明を記載しています。厳密な法解釈や海外での利用など、判断に迷う場合は専門家にご相談ください。

今回の登場人物

新城くん 日本のソフトウェア開発企業X社の新人開発者。OSSは今回のプロジェクトで初めて利用する。

佳美先輩 X社の先輩エンジニアで、新城くんの指導担当。OSSを活用した開発の経験が豊富。

エピソード3 ライセンスが英語で分からない!

 佳美先輩に手伝ってもらって見つけたライセンスファイルを開いてみると、中身は英語の文章だった。学生時代から英語は大の苦手の新城くん、何が書いてあるのかさっぱり分からない。ライセンス調査の結果を報告しなければならない定例会が明日に迫り、焦ってインターネットで検索したところ、日本語で解説してくれているページを発見。「これはいい! なんと親切なページだろう」

 解説ページに書かれている内容をまとめて、新城くんは定例会に臨むことにした。


新城くん、ライセンス調査の結果を報告してくれる?


はい、バッチリ調べてきたので報告します! 今回、当社が使おうとしているOSSのライセンスは、MITライセンスです。まず、MITライセンスについては、著作権表示とライセンス全文を掲載する必要があるので、「Copyright © 2022 X Corp.」という一文と、OSSをダウンロードしたサイトに掲載されていたMITライセンスのURLをマニュアルに記載しようと思います。


ええ? 表示しなければならないのは、OSSの著作者の著作権であって、うちの会社の著作権ではないよ。それに、WebサイトのURLはサイトの管理者が変更することもあるから、リンク切れになったら何のライセンスか分からなくなるよ。ちょっと新城くん、ライセンスはちゃんと読んでみたの?


実は、英語は苦手でライセンスの内容が理解できなかったので、インターネットに書いてある情報を参考にしたんです……。


インターネットの情報を参考にするのもいいけど、自分できちんとライセンスを読まないとね。MITライセンスの読み方を教えてあげるから、一緒に読んでみよう。


解説:MITライセンスで、ライセンスの読み方を知る

 OSSのライセンスはほとんどが英語なので、英語が苦手な人にとっては、解釈が難しいかもしれませんが、必ずライセンスを読み、内容を理解してから利用してください。ここでは、Open Source Group Japanの日本語の参考訳(注1)を使ってMITライセンスを解説していきます。

 MITライセンスは、以下の4つに区分できます。

(1)著作権表示

 まず、1行目に以下のように著作権表示が記載されています。

Copyright (c) <year> <copyright holders>

 (c)は©マークがプログラムで表示できないため、代わりに形を似せて記載したものです(注2)。“year”は著作権の保護期間の開始年(最初の発行年)になります。"copyright holders"というのは、著作権者のことです。自社以外で開発されたOSSを使用する場合は、そのOSSの著作権者の名前が記載されているはずですので、それをそのまま利用します。新城くんは間違って自社の名前を入れていましたが、OSSを単に使用するだけの人は著作権者ではありませんので、新城くんの会社名を記載することはできません。

(2)許諾する利用行為

 前回、著作権は、複製、改変、配布などの行為をコントロールできる権利だと説明しました。MITライセンスの最初の段落には、著作権者がどのような行為を許諾するかを記載しています。

Permission is hereby granted, free of charge, to any person obtaining a copy of this software and associated documentation files (the "Software"), to deal in the Software without restriction, including without limitation the rights to use, copy, modify, merge, publish, distribute, sublicense, and/or sell copies of the Software, and to permit persons to whom the Software is furnished to do so, subject to the following conditions:

以下に定める条件に従い、本ソフトウェアおよび関連文書のファイル(以下「ソフトウェア」)の複製を取得するすべての人に対し、ソフトウェアを無制限に扱うことを無償で許可します。これには、ソフトウェアの複製を使用、複写、変更、結合、掲載、頒布、サブライセンス、および/または販売する権利、およびソフトウェアを提供する相手に同じことを許可する権利も無制限に含まれます。

 日本の著作権法では、著作権者が占有する権利(複製権、公衆送信権、譲渡権、翻案権など)を第21条から第28条に記載していて、OSSの利用者は著作権者の許諾がなければ、これらの行為をすることはできません。

 MITライセンスでは、「ソフトウェアを無制限に扱うことを無償で許可」する旨と、その中に「使用、複写、変更、結合、掲載、頒布、サブライセンス、および/または販売する権利、およびソフトウェアを提供する相手に同じことを許可する権利」が含まれることを明記しています

 今回、新城くんのプロジェクトは、ソフトウェア製品にOSSを組み込んで利用します。すなわち、OSSを複製(copy)したり、改変(modify)したり、製品の顧客へ譲渡(distribute)したりすることが考えられ、これらの行為はMITライセンスで許諾されていることが分かります。ただし、「以下に定める条件に従い」とのことですので、条件を順守する必要があります。

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