最前線の知見を高専でのセキュリティ教育に反映、高知高専で副業先生が”しびれる”特別講義:こんなに刺激的でいいんですか!(1/2 ページ)
高専の学生たちにサイバーセキュリティのリアルを体感してもらうために、現場で活躍中の副業先生による“かなり刺激的な”講義が行われた。
「セキュリティ人材が足りない」――この10年余りというもの、耳にたこができるほどあちらでもこちらでも言われ続けてきた問題だ。
だが、サイバー攻撃による被害が増加し、対策の重要性が認識されるにつれて少しずつ変化の兆しが見えている。企業や政府、官公庁がセキュリティ人材の育成に力を入れ始めている上に、サイバーセキュリティに興味を抱いて深く学びたいと考える学生が増え、CTF(Capture The Flag)をはじめ、手を動かして学ぶさまざまな機会に参加する姿も増えてきた。
ただ、育成してもそれを上回る勢いでニーズが高まっている上に、一口に「セキュリティ人材」といっても求められる実像はさまざまだ。高度なマルウェア解析などを行うスキルを持つトップ人材はもちろんだが、マネジメントと橋渡しをしながら組織的な対策を進める層、IT業界の中で自社や顧客システムのセキュリティを支える層、そしてモノ作りの現場で製品のセキュリティを支える層に至るまで、さまざまなレイヤーでの育成が引き続き求められている。
人材育成に取り組む高専、最新動向を踏まえた専門的な教育にもチャレンジ
こうしたニーズを踏まえ、全国各地に51校存在する高等専門学校(高専)はここ数年、セキュリティも含めたデジタル社会を支える人材育成に向け、さまざまな取り組みを進めてきた。
そもそも高専は、5年間のカリキュラムを通して技術者としての専門的な知識を学べることが特徴だが、国立高等専門学校機構(高専機構)はセキュリティ人材不足の声を踏まえ、2016年4月から「情報セキュリティ人材育成プログラム」(K-SEC)を展開している。中核拠点校として高知工業高等専門学校(高知高専)を、そして一関、木更津、石川、佐世保の各高専を拠点校としてさまざまなカリキュラムを実施してきた。
一例として、「KOSENセキュリティ・コンテスト」のようなセキュリティコンテストやワークショップを開催したり、民間企業のノウハウも取り入れながらさまざまな教材を作成し、「K-SEC教材サイト」に集約、活用したりするなど、知恵を絞りながら情報セキュリティ人材育成を展開。飛び抜けたスキルを持つ「トップ人材」と、機械や電気・電子などさまざまな工学分野で押さえておくべきセキュリティ意識や技術を身に付けた「プラス・セキュリティ人材」、両面の育成を進めてきた。
ただ、サイバーセキュリティの世界は日進月歩。クラウド、コンテナといった新たなIT環境が広がり、脅威も変化する中、首都圏だけでなく全国各地に存在する高専で、いかに最新動向や技術を踏まえた専門的な授業を行うかは課題の一つでもある。
そんな状況を打開しようとする取り組みの1つが、ビズリーチと協力して開始した「副業先生」という制度だ。サイバーセキュリティ業界の経験を持つエンジニアが、本業の傍ら高専で教鞭(きょうべん)を執り、現場ならではの体験を生かした講義や演習を行うことで、学生たちの関心を一層高めてもらう取り組みだ。
その第1号となったのが高知高専だ。高知高専は、全国の高専の中でも唯一の「情報セキュリティコース」を設け、3年生から情報工学やネットワーク、システムに関する知識を学んだ上で情報セキュリティについて学ぶカリキュラムを実施してきた。そこに副業先生を通して最新の知見と刺激をもたらし、学生たちの一層の成長につなげてもらう狙いだ。2021年7月に募集を開始し、首都圏などに在住するITプロ人材4人が同年10月に着任した。
高専機構ではこの取り組みをモデルケースに、サイバーセキュリティに限らず、AIやIoT、ロボットといった他の分野でも、業界で活躍しているエンジニアを「副業先生」として展開していく方針だ。
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