「パワハラされてリストラされたので、転職サイトに書き込んでやりました」の追い解説:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(104)(2/2 ページ)
パワハラにより退職に追い込まれた元社員vs.あることないことWebに書かれた企業。真実はどこにあるのか――。
他方、別の争点ではパワハラが認められた
ただし、私がこの判決で中心的に取り上げたのは、そことは別の「争点2」である。判決文もこの部分は微妙な書き方をしているが、争点2では被告である元社員が、「上司(Bとは別の人間)からパワハラを受けた」などを主張しており、裁判所も結果的にはこれを認めている。少し詳しく見てよう。
「争点2」では、会社が元社員について以下のように主張している。
1. 元社員は自身のサイトで会社の信用などを棄損(きそん)する虚偽の内容(パワハラや元社員の実質整理解雇したことなど)を掲載した
2. 元社員は自身のブログで「1」と同じ虚偽の内容などを掲載した。
(会社の主張は他にもあるが、ここでは割愛する)
裁判所はこの点について、「被告が投稿、掲載した記事の内容を見る限り、原告において、上司によるパワハラ、退職勧奨の名目での解雇、解雇予告手当や退職金の不支給といった指摘は、曖昧な点があるとしても、一応、事実を摘示したものといえ」とこれを肯定している。
具体的な上司のパワハラを判決文から要約する。
- 毎日のように厳しく怒鳴られる
- 酒の席、お祝いの席、毎週のミーティングや泊まり込みのときも怒鳴られる
- 上司が被告(元社員)に対して「発言しないこと」と言った
- 上司が部員に対して「私(元社員)の発言に気を取られないよう」と発表した
これらが続いていたことを「一応」ではあるが認めていると思われる(なお文脈からして、この「上司」は争点4の代表取締役Bとは別の人間のようである)。
裁判所はこの争点2についてはパワハラを事実と認定しつつ、「(書き込みは)多数の取引先を抱える企業の信用を損なう悪質な表現であることに照らせば,その信用棄損による損害は50万円とみるのが相当である」と結論付けている。
私はこの争点2について、「事実と認められるパワハラについて記載したのに、それが損害賠償の対象となるのか」と「首をかしげた」というわけである。もっとも、パワハラ自体は事実だったとしても、その書き方によっては会社の信用を不相当におとしめることにもなり、裁判所も恐らくそうした点を考慮して損害賠償を命じたと考えられる。
いずれにせよ、悪口は居酒屋程度に
あらためて読んでも分かりにくい判決文ではあるが、結局のところ辞めた会社の悪口なぞSNSやWebサイトなどで書き込むものではない、というのがこれを書いた当時の私の感想だったし、今もそれは変わらない。
そんなことをしても、こうして訴えられるか、心がすさむだけであろう。悪口は居酒屋で愚痴る程度にして、それでも収まらなければ、労働関係の当局など正しい悪口の受け手もあるわけだから、そちらに行かれてはどうかというのが率直なところである。
なお、本判決については、残念ながら公刊物未掲載のうえ、裁判所のWebサイトでも検索できないようである。ご興味のある方は、ウェストロー・ジャパンなどの判例データベースからダウンロードしてほしい。ウェストロー・ジャパンは有償サービスだが、無料トライアルもあるようだ。
細川義洋
ITプロセスコンサルタント。元・政府CIO補佐官、東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員
NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。
独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまでかかわったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。
2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わった
個人サイト:CNI IT Advisory LLC
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