英語が難しい? エンジニアはもっと難しい言語を知っているじゃないか:Go AbekawaのGo Global!〜Vipul Mishra(後)(2/3 ページ)
グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回も八楽のVipul Mishra(ビプル・ミシュラ)さんにお話を伺う。翻訳という定量的な解釈が難しい領域で苦労しつつ、「面白い」と笑顔をのぞかせるビプルさんの知的探究心の原動力は何か。
複数拠点を行き来する働き方にも憧れる
阿部川 ビブルさんはもうネパールに戻らず、日本に定住するという方針なんですか。
ビプルさん そうですね、ホームは日本にしようかな。兄弟がいるのですが、兄弟もネパールから出て働きたいと言っています。真面目な若い人たちがあまりネパールにいたがらないんですね。英語で「ブレインドレイン」って言いますけれど、この20年、優等生が国を出ていっちゃうという現象がネパールで起きています。
阿部川 それはなぜでしょうか。ネパールには就職先が少ないんですか。
ビプルさん 多くはありません。そして賄賂(わいろ)などの悪い文化がいまだに残っていて、血縁や賄賂などでいい役職につく人がいて、優秀な人がその役職に就けないという事実が結構あります。ネパールの1番大きい問題は、そこにあると思います。
阿部川 それは若い人にとっては面白くないですよね。
日本でもありますよね。どちらかといえば国を出るというより「優秀な人はすぐに辞めてしまう」の方が多いかもしれませんが。笑い話ですが、退職する人が多い企業があって、従業員は「何事をするにも会議しないと決められない文化が問題」と気付いているのに経営層は「なぜ人が流出するのかを検討する会議」ばかりして、より状況が悪化する、という話があります。閉塞(へいそく)感に悩むくらいなら環境を変えるという決断は大切ですね。
ビプルさん はい。あと、ホームは日本でいいのですが、別の場所にも行ってみたいと思っています。八楽代表の坂西はオランダに住んでいて、数カ月単位で日本とオランダを行ったり来たりしているので、そういうふうにいろいろな国や文化に触れながら生きるのも憧れです。将来的にはそういう立場になりたいと思います。かなり頑張らないと、そこまではなれませんが。
阿部川 できますよ! 奈良とカトマンズとオランダっていうのはどうでしょう。社長が2拠点だったら、俺は3拠点だって。
ビプルさん 社長には勝てますねえ(笑)。
やりたいことが多過ぎる
阿部川 今後どういう仕事をしたいと思っていますか? 機械言語はもっといろいろやりたいですか。
ビプルさん 1番好きな言語と音声や音楽の技術的なところを詳しくできるようになりたいですね。クリエイティブなもの、例えば、話を書いて、ホラー調にしたりコメディー調にしたりとか。それらを機械学習で実装してもいいかもしれない。
ああ、もう1個考えているのが音楽の新しいレコメンド機能です。音楽を勧めるアプリケーションはたくさんありますよね。「Spotify」とか。「Youtube Music」も独自のアルゴリズムを持っているんですけど、結構同じような曲を推薦するんですよね。でも人によって音楽の聞き方は全然違う。例えば僕の場合は、2年前に聴いていた曲は1年前には聞いてないし、1年前に聴いていた曲は今聴いていない。そういう人それぞれの差を考慮したシステムがあまりない気がするので、そういうのを作りたいと思っています。
集中したいときだけ聞いた1曲を基に、普段聞かない曲をずーっと薦めてくるのって嫌ですよね。ビプルさんのレコメンド機能、早くできないかな(笑)。
心理学的な解釈も必要です。性格には5つの次元があって内交的か外交的か、開放特性が高いか低いかなど、いろいろな次元があります(ビッグファイブ理論)。例えば解放特性が高い人は新しい音楽を聞きたがるという性格になる。そういうふうにいろいろな人たちのいろいろな要素を考慮したシステムを作りたいですね。
そのためにはレコメンデーションシステムを勉強しないといけないし、音声処理などの勉強もしないといけない。言語学や機械学習にもさらに詳しくならないといけない。だから、それをさらに磨いていって自分でも作れるようになりたい。もちろん、周囲が協力してくれれば、もっと簡単に楽しく作れますけど。
「適当にやります」って言ったら変な顔された
ビプルさん 言語学習にもすごく興味があります。常に言語を何か1つは勉強するようにしています。今はドイツ語です。でも勉強していると実感しますが、効率よく言語習得できるアルゴリズムやサービスはまだできていない気がします。言語学習をどうやったら効率良くできるか、データをどう生かせるのかという課題にものすごく興味があります。八楽が解決しようとしている課題にも関係するので、将来的な可能性はあると思っています。
阿部川 ビプルさんは日本語や英語をどうやって勉強したのですか。
ビプルさん うーん、例えばリスニングとリーディングは日本教育センターで毎日3時間勉強して身に付けました。テストもたくさんあって文法も学んで。それでも大阪大学の講義を受けた初日は何にも理解できなかった。
勉強したときのテープは女の人のきれいな声だったんですけど、講義では男の先生が強めの大阪弁で、もう全然ついていけなかったんですね。話も飛ぶし、文脈がばらばらだなって。でも、面白いことに、2学期になると初日から何を話しているのかほとんど分かりました。日本語学校のときは周りがほとんど留学生だったけれど、大学ではほとんど日本人だったので、すごいスピードで身に付いた気がします。部活にも入って、友達もたくさん増えて、ずっと聞いているとやっぱり聞けるようになったんです。
これを聞くと、怠け者の私は「使わないといけない環境なら英語もすぐに身に付くのでは」と思ってしまうのですが、後述されているように「学ぶ意志がなければ続かない」んですよね……。
リーディングに関しては、やっぱり本。教科書を読んだりしてリーディングの能力が上がった気がします。スピーキングは部活とかで友達と会話しながらうまくなった気がします。たくさんの間違いをしないと、勉強できませんから。
阿部川 なるほど、そういう活動をしないとしゃべれるようにはならないですよね。「できるか、できないか」じゃなくて、「やるか、やらないか」の問題で。「どうやったらいいですか」ってよく聞かれるんですけど、何でもいいからまずはやってみることが大事ですね。
ビプルさん そうですね。間違いを恐れず。あ、間違いといえば、すごい恥ずかしい間違いをしたことを思い出しました。「適当」っていう言葉があるじゃないですか。「適切」っていう意味もあるけど、その真逆の意味もある。で、辞書の通りに意味を覚えて使っていたら、全然通じなくて、みんな変な目で見てきて。
自分は何を言っているのか、何を間違えているのか全く分からなかったので、後で調べたら「あーっ!」てなるとか、そういうことが結構ありましたね。
阿部川 なるほど。「これやっといて」と言われて「適当にやります」って答えたら「適当にじゃなくてちゃんとやって」と言われる。そういうのは辞書を見ただけでは分かりませんもんね。そういうのこそ機械翻訳が文脈から判断してくれると助かりますね。今のお話から、機械翻訳のお仕事がピブルさんにぴったりで、そして大変お好きなのだなということがよく分かりました。
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