Dockerが生成AI競争に参戦 有識者が「可能性を感じるが拡張は必要」と指摘する要素とは?:「コンテナに対応した仮想アシスタントは実は少ない」
TechTargetは、Dockerの生成AIに関する記事を公開した。Dockerは、LLMと「Docker AI」を使用するアプリケーション開発に役立つ“事前構築済みのツールセット”を携えて、生成AIという時流に乗り込もうとしているという。
2023年10月上旬、Dockerは事前構築済みの開発者ツールのセットと新しい「Docker AI(人工知能)」を携えて、生成AI競争に参入した。
Dockerが頼りにするのは、生成AIモデルメーカーやHugging Face、OpenAIなどのホスティングプロバイダー、そして数百万人のアクティブな開発者ユーザーによってDockerのコンテナが広く使用されているという事実だ。DockerのCEOスコット・ジョンストン氏は生成AIの現状について次のように語る。
「開発者コミュニティーは『生成AIには興奮させられる。見逃せないトピックだ』と言う。だが、不安の声は繰り返し聞こえてくる。『どこから手を付ければいいのか。安全面はどうなのか。そもそもわれわれは社外のサービスを使いたいのではなく、ノートPCのローカル環境で生成AIを試したいのだ』と」
2023年10月上旬に「Docker Desktop」の「Learning Center」でリリースされた「GenAI Stack」はこうした声に応えるものだ。生成AIのアプリケーション開発者向けに一連のツールを「Docker Compose」でパッケージ化したもので、「GitHub」リポジトリで利用できる。Ollamaがサポートする事前構成済みのLLM(大規模言語モデル)、Neo4jのグラフデータベース、LangChainのGenAI開発フレームワークなどが含まれている。さらに、事前構築済みのレファレンスアプリケーションのセット(生成AIアシスタントと検索拡張生成<RAG:Retrieval Augmented Generation>アプリケーション)なども利用可能だ。
「GenAI Stackの目的は、開発者になるべく速く『なるほど!』と納得する瞬間をもたらし、自信を持って開発を進められるようにすることだ」とジョンストン氏は話す。
Dockerは、Docker AIを備えた開発者の生産性を向上させるツール群に独自の“仮想アシスタント”を追加した。開発者がコンテナベースのアプリケーションを構成、デバッグする際に、仮想アシスタントはベストプラクティスとレコメンデーションを自動的に生成するという。このツールには、2023年10月初旬にリリースされた新しい「Docker Debug」へのリンクも含まれている。Docker Debugは、コンテナやアプリケーションのデバッグに必要なさまざまなツールを一元管理できるツールだ。
市場には多くの仮想アシスタントが存在するが、アプリケーションの外部にあるコンテナファイルやコンテナライブラリにも対応するアシスタントは少ないとジョンストン氏は認識している。「Docker AIはこうしたギャップを埋め、約2000万人のアクティブなDocker開発者ユーザーから収集されたデータを利用してベストプラクティスを推奨する」と同氏は語る。
GenAI Stackには可能性がある。ただし、拡張は必要だ
Enterprise Strategy Group(ESG)の調査では、生成AIの開発と企業への導入はまだ初期段階にあるが、その試験的導入は広がっており、技術への関心は高いことが分かった。
生成AIの導入状況。「導入済み」(In production)はまだ少数派だが、「検討している(Consideration)」「試験的に導入している(In pilot)」など技術そのものに対する関心は高い(提供:TechTarget)
「MLSecOps」(機械学習とDevSecOpsの融合)という新たな分野での競争はまだ広がっていないが、少なくともJFrogは自社の既存DevSecOpsツールにLLMと生成AIを導入する取り組みを進めている。DockerはDocker ScoutでJFrogとも提携しているが、「両社のツールには幾つか重複する部分がある」と指摘するのはIDCでアナリストとして働くケイティ・ノートン氏だ。
「JFrogが力を入れているのは、もう少しDevOpsプロセスに近いところにモデル開発とセキュリティを持ち込むことだ。JFrogの機能は、バイナリを同社の『Artifactory』に組み込み、他のバイナリと同じDevSecOpsプロセスを実行できるようにする。一方、Dockerはそれよりも前の“ビルド前の開発段階”に力を入れている」(ノートン氏)
Constellation Researchでアナリストを務めるアンディ・トゥライ氏によると、2023年10月上旬にDockerがリリースした他の製品と同様、GenAI Stackは開発者の時間を節約する可能性があり、自社独自の生成AIアプリケーションの開発を希望する企業には貴重な製品になる可能性があるという。
「データサイエンティストはこうしたツールには精通していないと考えられる。そのため、全ての設定を機械学習エンジニアの手に委ねなければならず、多くの時間が必要だ。GenAI Stackによって、(データサイエンティストは)迅速にモデルを生成する機会が得られるだろう」(トゥライ氏)
ただし、トゥライ氏もストレチャイ氏も、GenAI StackがベクトルデータベースとしてNeo4jしかサポートしないことは、一部の早期導入者にとって制限事項になる可能性があると指摘している。「データベースやOllamaがサポートするLLMを他のデータベースやLLMに簡単に切り替えられるようになれば、GenAI Stackの魅力はさらに広がる」と両氏は述べている。
今のところ、DockerはGenAI Stackをどのような方向に進め、同社の長期的成長を確保するというニーズにどのように対応するのかは定かではないとストレチャイ氏は語る。
「マーケティングツールとしては素晴らしいと思う。だが、概念実証からどこまで到達できるかは未知数だ。Docker単独でCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)サイクルのどこまで到達できるのか、それとも他のツールチェーンのいずれかに移行するのかも現状では予想が難しい」(ストレチャイ氏)
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