国内従業員12万人が「お客さま」 NTTデータグループに聞く「運用変革の舞台裏」:“求められる運用部門”の要件、役割とは
デジタル主体の働き方が進む中、システム運用を支える情報システム部門にも提供価値の変革が迫られている。効率化やコスト削減だけではなく「事業に貢献する」ためには何が必要なのか。今求められるシステム運用の在り方をNTTデータグループの変革事例に探る。
国内従業員12万人が「お客さま」 満足度向上に向けた変革の中身とは
「情報技術で、新しい『しくみ』や『価値』を創造し、より豊かで調和のとれた社会の実現に貢献する」を企業理念に掲げ、2023年7月1日から持株会社、国内事業会社、海外事業会社のグローバル経営体制に移行したNTTデータグループ。総合ITソリューション、コンサルティング、SI/ソフトウェア開発、メンテナンスサポートを提供し、事業展開地域は50カ国に及ぶ。
そんなNTTデータグループの情報システム部門として、国内従業員約12万人(ビジネスパートナー含む)のITをサポートしているのがITマネジメント室(以下、ITM)だ。約900人で構成し、システム基盤/ITサービスの開発、運用、ヘルプデスク業務、ITサービスマネジメント業務、内部統制/SOX法対応業務などを担っている。NTTデータグループの井林真吾氏(コーポレート統括本部 ITマネジメント室 DX推進部 システム管理担当 部長)はこう話す。
「ITMにとってエンドユーザーである従業員は“お客さま”です。業務のデジタル化が進む中、事業貢献する上ではサービス提供のスピード、品質など、顧客に対してどう価値向上を図っていくかが重要と考え、運用変革に取り組み続けています」(井林氏)
だが、2018年までは十分なサービス提供ができているとは言いがたい状況だったという。例えば問い合わせ管理や故障チケット管理、FAQなどのツールはあったが、チケット登録が手動で使い勝手が悪いなど、素早く適切に対応できていない状態が続いていた。省力化などには取り組んでいたが、効果は限定的だったという。NTTデータグループの杉山英輔氏(コーポレート統括本部 ITマネジメント室 DX推進部システム管理担当 課長代理)はこう話す。
「問い合わせ内容は業務アプリケーションに関するものが年間5000件、社内インフラに関するものが年間6万件ほどあります。ただ、長年にわたって形作られてきた運用体制だったため、問い合わせ対応にしてもツール同士の連携がなかった他、人に依存しがちなプロセスとなっていました」(杉山氏)
実際、「ヘルプデスクで適切な対応ができたかどうか」を示す回答順守率は、2018年時点で61%だったという。だが、その後は変革の取り組みにより、回答順守率は2021年時点で95.5%に上昇。問い合わせ対応に限らず、運用業務の効率化、高度化が進み、2023年12月現在、従業員満足度は向上し続けているという。
運用業務の属人化、ツールのサイロ化など課題が山積していた2018年からの5年間で、一体何に取り組んできたのか。今も続く変革の背景にあるのは、「顧客を見据えてITMの在り方そのものを見直す」という抜本的なアプローチだった(記事下リンク参照)。本稿では、変革の具体的な経緯を紹介する。
4つの価値提供を目指す「ITMNow」を推進
ITMが取り組みをスタートしたのは2018年12月。まずは「ツールの混在」「人への依存」「取り組みに向けた費用捻出」といった課題にフォーカスして大きく分けて3つの方針を立てた。
運用管理情報の一元化や見える化による「運用状況、課題把握の迅速化」、単一のツールを使った業務自動化による「運用作業、運用管理作業の省力化」、業務アプリケーション刷新やシステム基盤更改に合わせて運用業務を削減する「次期システム更改における運用改革」の3つだ。これと同時に「運用業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)」に向けたビジョンを描いたという。NTTデータグループの三輪慶文氏(コーポレート統括本部 ITマネジメント室 DX推進部 システム管理担当 課長代理)はこう話す。
「運用をリデザインすることで労働集約型作業形態から脱却することを目指しました。目標はAI(人工知能)や自動化で人手による作業、対応をなくし、お客さまに満足いただける『世界一イケてる運用』にすること。そこに向けて2019年から5年間のロードマップを描いたのです」(三輪氏)
これによってITM全体の目線を合わせた上で、「運用状況、課題把握の迅速化」「運用作業、運用管理作業の省力化」に取り組んでいった。その手段として選んだのがServiceNowだった。
ServiceNowはITワークフローをはじめ、従業員ワークフロー、個別業務ワークフローなど、各種ワークフローを管理するSaaS群と、それらを一元管理する「Nowプラットフォーム」で構成されるクラウドサービスだ。各種業務のプロセス/データを単一のプラットフォーム上で統合管理できる他、必要な機能をローコード開発できる特徴を持ち、各種業務の可視化、標準化、自動化を組織全体で効率的に実現できる。
ITMは2018年からServiceNowの初期実装と検証を開始。2019年からプロジェクトを本格始動した。ヘルプデスク業務をはじめ、複数存在していた各種運用管理ツールを統合するツールとして「ServiceNow IT Service Management」を採用。運用情報の一元化、見える化、作業管理ワークフローのシステム化、運用管理ツール間と業務システム基盤との連携を図った。さらに「ServiceNow IT Operations Management」「Security Operations」も採用し、構成管理、イベント管理、作業自動化、脆弱(ぜいじゃく)性管理などに取り組んでいった。
NTTデータグループの長谷川秀之氏(コーポレート統括本部 ITマネジメント室 DX推進部 システム管理担当 課長)は「ServiceNowはグローバルに利用されているデファクトスタンダードである他、ITILに準拠したITSM(ITサービスマネジメント)を実現できること、機能と実績が豊富だったことなどを考慮しました。『Nowプラットフォーム』でデータを集約、一元管理できること、運用者でも簡単に、ローコード開発機能により自ら必要な機能を迅速に開発できることなども要件にマッチしていました」と振り返る。
ServiceNowを軸としたITMの変革プロジェクトおよびシステムは「ITMNow」と名付けられた。2020年からはNTTデータグループ全体でも「デジタル主体の働き方」を目指し、ServiceNow活用を推進し始めたことも受けて、ビジョン実現に向けたITMNowのコンセプトも年々アップデートしていった。
「2023年には国内従業員のデジタル主体の働き方を促進するために、『利用者満足度向上』『素早い対応、安定的な業務遂行』『サービスレベルの向上』『運用ノウハウによる事業貢献』という4つの価値提供を掲げました。これらを達成するための具体的なアクションも定め、その手段としてServiceNowを適用することで、運用のデジタル成熟度向上を図っていったのです」(井林氏)
5年間の運用変革、その成果と成功要因
ITMNowで改善された領域は非常に多岐にわたり、その経緯をまとめると、以下のようになる。まず2019年には12万の従業員に向けてITSMサービスの提供を開始。手作業で対応していた業務アプリ/インフラに対する問い合わせや各種申請をデジタル化したことで迅速に対応できるようになった。
2021年にはインシデント管理、問題管理、変更管理、ナレッジ管理、イベント管理などの統合管理と、構成管理やダッシュボードを使用した稼働状態のリアルタイム可視化も実現した。2022年には構成情報/稼働状態の自動取得、脆弱性管理なども実現し、取得データを生かしたAI分析やSecOpsにも乗り出した。
「2023年に入ってからはモバイルからでもITMNowにアクセスして問い合わせ可能とするなど、さらなるユーザー体験の向上に取り組んでいます。運用改善は継続することが重要です。目前の課題解決によって成果を積み重ねながら、3〜5年先を見据えた開発も並行して粛々と実施することを心掛けています」(杉山氏)
しかし、なぜここまで迅速、着実にプロジェクトを推進できたのか。要因は大きく分けて4つあるという。
1つはServiceNowをカスタマイズしない方針を貫き、デファクトスタンダードな運用プラクティスを極力取り入れたこと。独自ノウハウが生きる領域と標準化領域を切り分け、業務の属人化、サイロ化を防ぎながら変革を推進した。2つ目は運用メンバーが全員、ITMNowに関わる環境を用意したこと。運用メンバーも機能を開発し、効果を分析し、主体的に改善していける体制を整備した。3つ目は小さく始めてやめる勇気も持ったこと。PDCAではなくDCAPのように、目的に基づいて検証してから要件定義していくプロセスによって、真に必要な機能のみ開発するよう心掛けたという。
「しかし何より重視したのはお客さまである従業員の視点を持つことです。エンドユーザー視点を持つと、あらゆる課題に気付きやすくなり改善を継続することにつながります。また、効率化や従業員満足度など成果が可視化されることで、改善するための予算も確保しやすくなるのです」(長谷川氏)
チーム一丸となって「プラスアルファの価値」を創出
ITMNowの効果はさまざまなシーンで表れている。一つは冒頭でも述べたヘルプデスクの回答順守率だ。
「ITMNowにヘルプデスクのSLA管理を実装し、PDCAを回すことにより2021年時点で回答順守率95.5%を実現しました。現在はTier2への対応についても受付状況や進捗(しんちょく)を示すダッシュボードを公開することで満足度向上を図っています」(井林氏)
前述のように故障対応のチケットも自動登録されるようになり、登録の手作業が大幅に減った。構成管理、資産管理、セキュリティ管理などとも連携させたことで、現在のシステム構成と稼働状況がダッシュボードを通じて大幅に可視化された。重大インシデンントは自動的に通知され、優先度に応じた対応も素早く実施できるようになったという。こうしたシステム面での変革は従業員の心理にも大きな変化をもたらした。
「ダッシュボードで状況が可視化されたことで、あらゆる課題意識をITM全体で共有し、効率的に取り組みを進められるようになりました。よくある問い合わせを基にFAQを追加する、ユーザーアンケートを取りITMNow各種機能の満足度を確認するなど、先回りした対応も可能になりました。よりプロアクティブな運用に向けて、現在は集約されたデータ、ナレッジを基に機械学習や生成AIを活用した取り組みを進めようといった機運も生まれています」(杉山氏)
NTTデータ先端技術の三木壮馬氏(基盤ソリューション事業本部 マネージドサービス事業部 サービスデリバリー担当)はこう話す。
「あるべき姿と現状を見定めてチームで議論ができることは非常に大きいと思います。NTTデータグループはチャレンジに寛容です。進んで失敗できる環境を生かして今後も取り組みを続けていきたいと思います」(三木氏)
こうしたマインドはITMの若手人材にも浸透している。「運用チームにいながら、開発者や利用者の目線でサービスを開発できることは大きな強みです」(NTTデータSMS 法人第一事業部 ITMサービス部 第一ITM運用担当 根本良美氏)、また「チャレンジする文化を受け継ぎながら、利用者にとって最適なサービスを作っていきたいです」(NTTデータグループ コーポレート統括本部 ITマネジメント室 DX推進部 システム開発担当 若杉亜以氏)といったように、“サービス提供者としての視点”がITM全体をドライブしている格好だ。
一般に、運用効率化というと効率化自体が目的化しがちなものだが、これも「顧客」を見据え、ビジョンありきで進めているゆえの成果だろう。井林氏は今後をこう展望する。
「運用の本質は安定性、安全性という品質担保にあります。これは絶対に外せない前提条件です。しかしそれだけに終わらず、お客さまのためにプラスαで何ができるのか。常に一歩前に踏み出すこと、何をすべきかを運用組織全体で考え続けることが大切です。イノベーション組織になることを目指し、今後も変革を継続していきたいと考えています」
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