若者が今、経験していることは私たちが経験したものとは違っている:Go AbekawaのGo Global!〜アンドリューさんFrom米国(後)(2/3 ページ)
グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回も前回に引き続き、Clarisでプロダクトマーケティングとエバンジェリズム担当ディレクターとして活躍するAndrew LeCates(アンドリュー・ルケイツ)さんにお話を伺う。引退を考える年齢になった現在においても、アンドリューさんは学びを止めない。その力の源は何なのか。
“はやり廃り”には慎重、しかしAIの研究は続ける
阿部川 FileMakerの話に戻りましょう。FileMakerはデータベースからプラットフォームへとその位置付けを変えてきました。では、このプラットフォームは将来どのようになっていく(どうしていく)と考えていますか。
アンドリューさん 2024年の今、プラットフォームの将来について考えようと思ったら、AI(人工知能)を抜きにしては語れないでしょう。多くの人がさまざまなレベルでそれぞれの考えを語っていますよね。ユーザーにとっては「いかにしてデータを活用するか」が目的ですが、それをセキュリティ面と倫理面も考慮した形で的確に実現するには、AIやLLM(Large Language Model)などのテクノロジーが欠かせません。これは、ユーザーだけでなく、デベロッパーにとっても有益なことです。
ただ、それらのテクノロジーには現在まだ不確実な部分があります。Clarisとしては1年程度の時間をかけて解明していくことになると思っています。恐らくデベロッパーの多くも、そういった解明作業に着手しているのではないでしょうか。このプロセスは大変興味深く、魅力的なものですよね。
阿部川 AIと一言で言っても、単体のハードウェアやソフトウェアで実現するものではなく、多くのテクノロジーを統合する必要があると思います。FileMakerがAIを搭載する、あるいは使うといった場合、具体的にどのようなことを想定されていますか。
アンドリューさん Clarisは伝統的に、テクノロジーの“はやり廃り”に対しては保守的な姿勢を保っています。Clarisは時代の先頭を走るかどうかではなく、そのテクノロジーをどうすれば顧客の価値にできるかを第一に考えているからです。デベロッパーは、われわれのプラットフォームの上で自身のキャリアを積み上げていきますし、多くの顧客のビジネスも支えています。その環境をリスクにさらすわけにはいきません。
現在は「顧客のベストプラクティスとは何か、何が役に立つのか」といったテーマに注力しています。それを基に顧客のデータを最適にインテグレート(統合)します。顧客は最適に統合されたデータを、AIを通してアウトプットしたいと考えていますから。
デベロッパーの視点では、LLMをGSLM(Generative Speaking Language Model)などのモデルに入れ、それをさらにコード化して、より効率的なアプリケーションにする、といった例があります。組み込まれたデータについて、データセットを全部見るのではなく、AIを用いて確認するといった使い方もできますね。
阿部川 FileMakerで使うAIは外部のものを取り入れる形になるのか、専用のAIを開発するのかといったらどちらでしょうか。
アンドリューさん ここ数年、われわれはAppleの「Core ML」モデルを使っていますが、FileMakerはオープンなプラットフォームですので、デベロッパーそれぞれに合ったAIモデルを選んでもらえればと考えています。顧客が“選べること”が大切であり、われわれが「これを使え」と強制するものではないと思っています。
正しいメンターを探してください
阿部川 エンジニアやデベロッパーに、何かアドバイスをいただけますか。
アンドリューさん たくさんありますが、デベロッパーをしていたときに学んだことは「メンターと呼べる人の存在がとても重要だ」ということです。私が若いときはメンターがいなくても大抵のことは自分で考えて解決できていました。ただ、時がたつに連れてその価値に気付きました。私がやるよりも前に、私と同様のことを試している人がいる。その人がやったことを安心して踏襲(とうしゅう)すればいいのだ、と。現在でもメンターと毎日話をして多くのことを学んでいます。私は非常に活動的なデベロッパーコミュニティーに属していますから、その助けも借りて、物事に早く確実な決断が下せるようになったと思います。
「自分はシャイで内気だ」という人にはしっくりこないかもしれませんが、世の中には社交的でお話が好きな方がたくさんいます。また自分が持っていない情報を持っている人もいますから、私たちは常に周りの人を頼りにしてよいと思っています。どうぞ正しいメンターを探してください、ということです。同じことは私の子どもたちにも常に話しています。
阿部川 現在はアンドリューさんこそメンターの役割なのではないですか?
アンドリューさん そうですね、有能なメンターでありたいと思っています。このキャリアで40年近くやってきましたから、これまで先輩たちから受け継いだものを、次の世代に移していかなければなりません。子どもたちを見ていると「私の経験を、情熱を持って継承していかなければ」と強く思います。今、IT業界にいる若い人がキャリアの中で経験していることは、私たちが経験したものとは違っています。多くはよりシンプルになってきているようにも見えますが、情報が多過ぎることは、むしろ選択や実行を困難にしている面もあると思います。
すでに“超ベテラン”の域にいるアンドリューさんが、今も学びを続けているなんて驚きです。メンターの価値も自身の経験から学んだことなのでしょう。自分の力で進めることはもちろん大切ですが、変化が素早い現代においては「巨人の肩に立つ」ことも意識しないといけませんね。
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