「競合分析」と「スパイ行為」の境目とは PegasystemsとAppianを巡るソフトウェア裁判に進展:20億ドルの賠償金支払を命じた判決が覆される
TechTargetは「Pegasystemsのスパイ行為に関する判決」に関する記事を公開した。IT業界における競合企業へのスパイ行為について一度出された判決が覆った。その理由は「ソフトウェアを証拠として取り扱わなかった」ことだ。
TechTargetは2024年7月30日(米国時間)、IT企業のスパイ行為についての判決に関する記事を公開した。
2022年5月、陪審員は、Pegasystems(以下、Pega)が企業秘密を「故意かつ悪意を持って」不正流用したと認め、20億3600万ドルの損害賠償をAppianに支払うようPegaに命じた。だが、2024年7月下旬、バージニア州控訴裁判所はこの判決を覆した。
「企業スパイ」を巡る最初の判決
Appianは、政府との契約で同社のソフトウェア開発に携わっていた開発者に対し、「Appianの企業秘密をPegaに流出させた」として告発した。同社によるとその開発者は2012年から2014年にかけてスパイ行為を働いており、「開発環境のビデオを撮影するなどしてAppianソフトウェアの詳細情報を漏えいさせた」と主張した。
事の発端は、Pegaの元従業員によって「Project Crush」という同社プロジェクトの存在が暴露されたことだ。このプロジェクトは競合他社(特にAppian)の製品や技術を分析することを目的としている。Pegaはそのために従業員を雇ってAppianに勤務させ、開発環境など重要な情報を提供させていた。Appianはこれを「企業秘密の不正取得」に当たるとして訴訟を起こし、バージニア州裁判制度史上最高額の賠償金支払を勝ち取った。それが最初の判決だ。
Pegaは「その開発者はAppianソフトウェアを使う数千人のユーザーと同様、一般的なユーザーにすぎない」(一般的なユーザーによる、単なる競合分析だ)と反論している。
2022年にAppianが判決について公表したプレスリリースによると、Pegaは社内でこの開発者を「スパイ」と呼んでいたという。調査会社Forresterでアナリストとして働くウィル・マッケオン・ホワイト氏は「その愚かさは衝撃的だ。他社をスパイするのはもちろん、社内文書で『スパイ』という言葉を使うなんてあり得ない」とPegaの行動に否定的な意見を出している。
Appianによると、Pegaの従業員たちはスパイ行為に加え、偽のIDを使って同社ソフトウェア(アプリケーションやワークフローの構築に使用するローコード開発システム)の試用版にアクセスしたという。また、PegasのCEOアラン・トレフラー氏が「Albert Skii」(アルバート・スキル)という偽名を使ってシステムにアクセスしたとも主張した。
覆された判決、その理由は「裁量権の乱用」
Pegaは、同社が企業秘密を不正流用したという証拠は不十分だとしてバージニア州控訴裁判所に再審を請求し、陪審員判決を覆すよう求めた。2024年7月30日、フランク・K・フリードマン判事は「第一審裁判所が一連の誤りを犯したため、Appianの営業秘密の主張に関する判決を覆す必要がある」と認めた。
控訴裁判所の見解をまとめると以下のようになる。
- Pegaが証拠としてソフトウェアを提示しようとしたが、第一審裁判所は認めなかった
- 証拠を認証する機会を与えないことは“裁量権の乱用”に当たる
- そのソフトウェアはPegaが機密を盗んでいないことを証明する重要な証拠だった
- ソフトウェアの証拠を除外した理由が「証拠開示で提示されたものとは別のノートPCに搭載されていた」ということだった
つまり、「第一審裁判所がPegaの重要な証拠を不当に排除しており、公平な裁判を妨げた可能性がある」ということだ。フリードマン判事は「控訴裁判所はAppianの主張に関する判決を覆し、この見解に沿って新たな裁判を実施するよう差し戻す」と述べている。
Pegaは、この判決を称賛する声明を発表した。声明の中でPegaの広報担当者は次のように述べている。
「今回の判決は『初審評決は多くの点で欠陥があった』という当社の見解を裏付けるものだ。この事件でAppianが取った『訴訟の重要な事実を陪審員が耳にしないようにする』という戦術を、控訴裁判所が見抜いたことを称賛する」
なお、新たな裁判の詳細はまだ決まっていない。
裁判はまだ続く
一方のAppianは、バージニア州最高裁判所に上訴し、評決の復活を求める意向を示している。同社の広報担当者は「不正流用の証拠とそれに応じた損害賠償を求める当社の権利が、バージニア州の裁判所によって適切に対処されると当社は確信している」と語る。
AppianのCEOマシュー・カルキンス氏は、2022年のTechTargetの取材に対し、スパイ活動が始まってから約10年後の2020年の春、元従業員の告発を受け、“Project Crush”の規模を知ったとして「その規模だけでなく、スパイ活動の長さについても衝撃を受けた」と語っている。
当時、カルキンス氏は、Pegaの不適切な行為について陪審員がいかに強く厳しい姿勢を見せたかを指摘した。
「当時の判決で最も強く感じたのは、陪審員の確信と非難だ」とカルキンス氏は語る。陪審員の評決では、数十億ドルの損害賠償の支払いが命じられただけでなく、Pegaが企業秘密を故意かつ悪意を持って不正流用したことも認定された。
プレスリリースによると、控訴審が終結するまでPegaは賠償金を支払う必要はないとしている。
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