AI駆動のテスト自動化ベンダーLaunchableを買収して川口耕介氏を復帰させるCloudBeesの意図:テストやQAを取り巻く現状の課題はCrowdStrike障害の原因?
TechTargetは、「CloudBeesによるLaunchable買収とAI駆動のテスト自動化ツールの現況」に関する記事を公開した。Jenkinsの生みの親でLaunchableの共同CEOを務める川口耕介氏がCloudBeesに復帰する。LaunchableはAI駆動のテストを最適化して、AIが生成するコードの流れを食い止めることを目指していた。
TechTargetは2024年8月7日(米国時間)、「CloudBeesによるLaunchable買収とAI駆動のテスト自動化ツールの現況」に関する記事を公開した。
2024年8月初旬、DevSecOpsプラットフォームベンダーのCloudBeesは同社の共同設立者が復帰することを発表した。そこには、ソフトウェア開発にAI(人工知能)が大きな影響を与える次の分野はテスト自動化ツールになるという意図がある。
CloudBeesによるLaunchable買収、狙いは?
DevSecOpsプラットフォームベンダーのCloudBeesがLaunchableを買収した。Launchableは、オープンソースのCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)プロジェクト「Jenkins」の生みの親である川口耕介氏が共同創設したスタートアップ企業で、川口氏はCloudBees創設時に同社の最高技術責任者(CTO)を務めていた。Launchableの共同創設者には、CloudBeesの元製品管理担当バイスプレジデントのハープリート・シン氏も名を連ねている。今回の買収金額は明らかにされていないが、買収によって川口氏、シン氏をはじめとするLaunchableのエンジニア11人がCloudBeesに加わり、CloudBeesのプラットフォームにLaunchableのAIテスト自動化ツールを組み込むことを予定している。
2019年設立のLaunchableがまず注目したのは、不合格になるソフトウェアQAテストを機械学習アルゴリズムを用いて事前に予測することだった。開発者は不合格になると予測されるテストのみに注目することで、実行するテスト数の削減、ソフトウェアデリバリーやビルドの時間の短縮、テストの実行に必要なコンピューティングリソースの削減が可能になる。
2024年8月初旬、川口氏はTechTarget編集部の取材に答え、「設立時以降、AI分野全体が爆発的に拡大した。そのため、AIを採用し、インテリジェント性を高めた自己調整型のデリバリーパイプラインを構築した」と話している。
2023年、Launchableは自社のテスト自動化ツールに「Intelligent Test Failure Diagnostics」(ITFD)というトリアージ機能を追加している。これはAIOps(AIを活用した運用管理)ツールに含まれるアラート数削減機能と同様に、テストに不合格となる関連機能をグループ化する。Launchableのソフトウェアは、不合格の根本原因を提示し、OpenAIの「ChatGPT」をベースとする同社のAIアシスタント「Copilot」によって長いエラーログを要約する。
川口氏は語る。「当社が特に注目するのはQAだ。QAは魅力的な仕事ではないことは明らかだ。だが、QAチームによれば、品質を保証するのが仕事であり、それには時間がかかるという。QAチームは自社の足を引っ張ることに時間を費やしている」
QAとテストの最適化:生成AIによる次の大きな動き
LaunchableのWebサイトにはUKG、BMW、Sony、Vitess、Delphix、Infosysなど、多数の顧客企業が掲載されているが、川口氏は顧客企業の総数を明らかにしなかった。同社は、共同創設者以外にもCloudBeesの血脈を受け継いでいる。同社のアドバイザーや投資家として、共同創設者で取締役兼最高戦略責任者のサシャ・レイブリー氏など、CloudBeesの3人の幹部も名を連ねている。
また、Atlassianの幹部2人も名を連ねる。シン氏は、Launchableの共同設立者となる前に、Atlassianが運営するBitbucket Cloudでゼネラルマネジャーとして1年間働いている。LaunchableがJenkinsを基盤に設立されたことを考えると、CloudBeesへの復帰は運命づけられていたようにも思えるとする業界アナリストもいる。
Constellation Researchでアナリストを務めるアンディ・トゥライ氏は語る。「DevOpsチームにさらなる価値をもたらすとして、両社が再び合併するのは時間の問題だった。AIベースのコーディングによってDevOpsにおけるコード作成の速度が上がっているのに、テスト、QA、検証は取り残されてきた」
そのため、コードへの変更のテストが間に合わないまま、急いで運用環境に導入されている。その顕著な例がCrowdStrikeの障害だとトゥライ氏は語る。
AIによるコード生成には、テストコードの自動生成も含まれるが、全てのテストコードの管理を容易にするため、Launchableはさらに一歩踏み込んでいる、と語るのは、Intellyxでアナリストとして働くジェイソン・イングリッシュ氏だ。
「QAエンジニアだけを見ても、今や手に負えないことが山ほどある。テストコードの80%を自動生成しなければ、恐らくバグの80%が見逃されることになる。開発とテストの言語に対するそのような体系的な思考や対話にはAIが非常に長けている」(イングリッシュ氏)
AIによる最適化をテスト自動化ツールに導入する機会を狙っているのはLaunchableだけではない。最近SeaLightsを買収したTricentis、LambdaTest、Diffblue、Testaify、SmartBearなどのスタートアップ企業が競争相手になる。
CloudBeesが計画するのは自己調整の拡大
CloudBeesで最高製品責任者(CPO)を務めるショーン・アーメッド氏によると、LaunchableのJenkins統合は既に実現しているため、CloudBeesはLaunchableの自動化機能を自社のDevSecOpsプラットフォームの残りの部分に拡張することに注力するという。
「テストのトリアージという考え方を、QAだけでなく、ビルドや段階的デプロイメントでも使用可能にしたい。当社が本当に目指すのは、DevSecOpsプラットフォームの自律性を高めることだ」(アーメッド氏)
こうした考え方はCloudBeesの競争相手も追求している。中でも顕著なのがGitLabだ。同社の「GitLab Duo AI」では、CI/CDパイプラインで発生した障害の根本原因を分析できる。
Atlassianのパートナー企業は、Atlassian Marketplaceを通じてAIテスト自動化アドオンを販売している。同社のBitbucket Cloud向け「Atlassian Intelligence」は、説明やコメントの生成、要約、変換など、プルリクエストを自動作成できる。
DatadogやDynatraceなどの可観測性ベンダーも、DevOpsパイプラインの自動化とソースコード分析向けのAI駆動機能を追加しており、DatadogによるGitLabの買収交渉も進んでいると報じられている。
LaunchableはバックエンドでOpenAIと提携しているため、CloudBeesとLaunchableはAIガバナンスに関する問題に直面する可能性がある。LaunchableはSOC 2認証も取得しており、ユーザーがデータの使用方法を制御できると川口氏は語る。
「当社は、堅牢(けんろう)な暗号化とセキュリティ監査によって、顧客データのセキュリティと機密性を最優先している。データに対する当社プラクティスの透明性を確保し、明確なプライバシーポリシーと同意メカニズムによってユーザーが自身の情報を完全に制御できるようにしている」(川口氏)
それでも、生成AIのリスクは企業のIT部門に重くのしかかるとConstellation Researchのトゥライ氏は語る。
「コード作成、テスト計画の作成、テスト、コードの運用環境への移行をAIが支援できる段階に到達しつつある。こうした全ての段階で適切な手動監視、ガバナンス、セキュリティを真剣に考える必要がある。ソフトウェアサプライチェーン全体にAIを追加し続けると、意識も理解もしていない問題(これまで遭遇したことのない問題や人間の関与が限られる問題)が発生する可能性がある。根本原因の分析は複雑さを増し、プロセス全体の自動化と効率向上という目的を達成できない可能性がある」(トゥライ氏)
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