生成AIの実践的導入に役立つ「7つの基準」「6つの展開パターン」を解説 PwC:「フライホイール」で生成AIの導入を効果的に
PwCは、企業が生成AIによって生産性を向上させる方法について知見を発表した。「フライホイール」方式を生かすことで、生成AIアプリケーションの規模を素早く効果的に拡張できるとしている。
PwCは2024年10月10日、生成AI(人工知能)によって生産性を向上させる方法についての知見を発表した。それによると「フライホイール」(はずみ車)の考え方を取り入れ、注力することで「最も生産的な成果につながる」という。
フライホイールとは、慣性モーメントを利用して回転系の回転速度を安定化させる機構のこと。静止状態から回転の勢いをつけるためにはそれなりの力が必要だが、回転に勢いがついて好循環が始まれば、そこからは新しいエネルギーを加えるたびに勢いが増していき、小さな労力でも加速させられるという特徴がある。同社の発表は、この仕組みをビジネスに適応することで生産性を向上させられるというものだ。
生成AIを導入するなら覚えておきたい「7つの基準」と「6つの展開パターン」
フライホイールのコンセプトを取り込むことで、ビジネスでの知識や経験、能力の保存と伝達の両方が促進され、時間の経過とともに勢いが増していく。このため、PwCは「価値の創造コストを低減させられる可能性がある」としている。これは生成AIの導入に当たっても同様だ。フライホイールのコンセプトに従って導入の優先順位を決めていけば、時間の経過とともに価値創造を加速させる活動に専念できるという。
企業のリーダーが生成AI導入を進める際に、フライホイール方式の各段階を指針として生かすには幾つかの取り組みが必要になる。ここでは「価値仮説の設計」「主要ユースケースの優先順位付け」「規模拡大のためのパターン探索」という3つを取り上げる。
価値仮説の設定
ここでいう価値仮説とは、特定の生成AIアプリケーションを導入する際に、潜在的なビジネス価値と予想される困難について、最初に戦略的な視点から評価しておく作業のことだ。
初期段階にある生成AIのユースケースは、現行のソリューションや仕事の進め方をどう効率化するかという点を重視しがちだ。だがPwCは「わずかな改善に躍起になるのではなく、新たに現れた選択肢を踏まえて、最良のソリューションとは何かを白紙の状態から考え直すことの方が大切だ」と指摘する。将来の価値を見定め、初期の生成AI戦略を策定する際には、重要な破壊的創造や再創造をもたらす長期的な可能性をしっかり見据えておく必要があるという。
主要ユースケースの優先順位付け
生成AIにはさまざまなユースケースがあるため、自社に最適なものを探すのは骨が折れる。だが、価値仮説を指針にできれば、バリューチェーン全体で最大の利益をもたらす可能性が特に大きいユースケースを特定しやすくなるとPwCは言う。生成AIのユースケースは数百種類以上あるが、PwCの分析によると「トップ5のユースケースだけで、生成AIがもたらす価値全体の50〜80%を占めることが分かった」という。
ただ、同じ業界内であっても企業ごとに最も価値のあるユースケースは異なる。同社は、生成AIの自社に対する潜在的な価値を評価する際に重要なポイントを7つ挙げる。
- 利幅(収益とコスト)
- ビジネスモデルの破壊的創造
- 経営モデルの破壊的創造
- 競争の破壊的創造
- モデルの実現性
- 変革の推進要因
- 責任あるAI
規模拡大のためのパターン探索
生成AIツールは、初期のモデル改良段階が完了すれば、多くの場合、同様の用途に素早く転用できる。既存の生成AI導入環境にわずかな作業を加えるだけで転用できる分野はあり、こうした分野に関して、技術戦略責任者などの水平思考を後押しするのが「パターン」だ。PwCは、生成AIのユースケースに共通するパターンとして「白紙からの創造」「拡張」「返還」「対話」「深層検索」「要約」という6つを挙げた。同社は「どこに注力すれば価値を最大限に引き出せるのか判断する上で、パターンを特定することが有効だ」としている。
PwCは「フライホイールは、どこに価値があるのかを特定し、これを最大化する一助となるものの、価値の源泉によって実現しやすいかどうかには差がある」と指摘している。
フライホイール方式がどの企業にも共通してもたらす最大の利点は、生成AIを活用して新たな業務体制に全社的に移行する際、継続的な学びと累積的な価値創造の好循環を確立できる点にある。同社の分析によると、生成AIが最大の価値を生む可能性は業界ごとや事業ごとに異なり、生成AI導入の難易度とそれがもたらす破壊的創造の可能性の組み合わせに依存する。
「企業がフライホイール方式を生かせば、自社に最も効果的に価値をもたらす生成AIアプリケーションを迅速に特定し、導入成功事例の勢いに乗って、こうしたアプリケーションの規模を素早く効果的に拡張できるだろう」(PwC)
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