ローコード開発ツールの進化が示す、エンジニアの役割再定義とデータ駆動型オーケストレーション:AIとローコードが開くソフトウェア開発の未来(1/2 ページ)
AIの進化がソフトウェア開発者の役割とスキルを大きく変革する。エンジニアよ、データ理解と協調するマインドセットを武器に、未来の開発を切り開け。
情報技術の進化は、常に社会の在り方を変えてきた。その中でも、ローコード開発とAI(人工知能)の融合は、ソフトウェア開発の未来を大きく変える可能性を秘めている。
「Claris FileMaker 2025」のリリースに合わせて来日したClaris International(以降、Claris)新CEOのRyan McCann(ライアン・マッキャン)氏は、Clarisが長年掲げてきた「making advanced technology accessible to more people(パワフルなテクノロジーを誰もが活用できるようにする)」が、まさにAI革命と合致していると語る。
AIの導入により、これまで以上に多くの人々が、より簡単にビジネス課題の解決に関与できるようになる時代が到来しつつあるのだ。

Claris CEO Ryan McCann(ライアン・マッキャン)氏
Roambi、Oracle、Host Analytics、Infor、Cognos(現在はIBMに合併)で戦略担当および経営幹部を歴任後、2013年にClarisに入社。米州セールス担当シニアディレクターを経て、2025年3月より同社CEO
AI機能強化で、ローコード開発ツール「FileMaker」はどう変わる?
Clarisの「FileMaker」は、長年にわたり強力な開発プラットフォームとして利用されてきた。そのFileMakerが、AIの波を取り込み、大きく進化を遂げようとしている。特にFileMaker 2025では、AI機能が大幅に強化されたとマッキャン氏は述べる。
最も注目すべきは、ビジネスユーザーが自然言語でデータに語り掛け、必要な情報や分析結果(インサイト)を即座に得られるようになる機能だ。これは、これまでになかった形でデータにアクセスし、より簡単に、よりスピーディーに内容を調べられるようになることを意味する。
例えば、FileMakerアプリに対し「xxさんが関わっているこのプロジェクトの作業のサマリーを作ってください」と質問を投げると、「ChatGPT」のようにテキストでサマリー結果が返ってくる。また、ヒヤリハット報告や人事評価など、長文が入力された際に、AIがその文章を分類、要約、スコアリングすることも可能となる。これにより、膨大な文章を全て読む手間を省き、データを扱いやすくするのだ。
FileMakerは、OpenAIやCohere、Anthropicなどが提供するAIモデル、またはローカルのオープンソースモデルを利用できるため、モデルの選択によってその性能は異なるが、柔軟なAI活用が可能である。
Clarisは、本番システムとして利用するには一定のスキルレベルが必要としながらも、強力な開発プラットフォームであるFileMakerを、できるだけ多くの人に使ってもらえるようハードルを下げる努力を続けている。
「Claris Studio」のような製品を通じて気軽に開発を始められるようにしており、今後半年から1年間でAIをさらに活用し、市民開発者たちがもっと簡便に開発プラットフォームを利用できる方向に大きく進めていきたいと考えている。
AIの進化がソフトウェア開発者にもたらす変化
AIがソフトウェア開発にもたらす影響は多岐にわたる。マッキャン氏は、AIの最大のインパクトはソフトウェア開発の改善に表れると考えている。
ビジネスユーザーは、課題解決に携わる開発者へ
「AI革命」は、多くの人々がより簡単にビジネス課題の解決に関われるようになる点で、これまでの技術革新と大きく異なる。
マッキャン氏は将来的な話として、AIによってデータからアプリケーションを動的に生成できるようになる可能性もあると語る。これが実現すると、アプリケーションの作り方や考え方が変わるかもしれない。
表示形式(グラフ、リストなど)を含め、AIが自動でパーソナライズされたUI(ユーザーインタフェース)を作成してユーザーが見たい結果を表示できるようになれば、FileMakerは、単なる受け身のツールから、「こんな方法もあります」と提案できる頼れるパートナーへと進化していくだろう。
開発者の役割は、全体オーケストレーションへ
AIはビジネスユーザーだけでなく、開発者の働き方にも変革をもたらす。
AI機能によって開発者の生産性を上げることはもちろん期待されており、既に「ソフトウェア開発、それから、いわゆるタイム トゥ マーケット(製品やサービスの市場投入までの期間短縮)で、量的な恩恵が出てきています」とマッキャン氏は述べる。
開発者の役割も変化する。今後は、アプリケーション構築だけでなく、セキュリティを含む全体的なオーケストレーションや展開も重要になってくるだろう。
AIはデータ収集、保存、保管、データ抽出においてかなりの部分を担うようになるため、開発者はより高次の視点からシステム全体を設計、管理する必要が出てくる。また、ビジネスユーザーがデータにアクセスする機会が増大することから、開発者はよりユーザーの視点に立った設計が求められるようになる。
AIの進化でソフトウェア開発は、どう変わる?
マッキャン氏は、AIの進化はソフトウェア開発の可能性を無限に広げる、と強調する。具体的には、以下のような変化が起きると考えている。
データ分析駆動のアプリケーション開発
AIはデータ分析を飛躍的に進化させ、アプリケーション開発の在り方そのものを変え得る。人間が想定しなかったような傾向や提案がAIによって導き出され、アプリケーションの作り方や考え方が変わるかもしれない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「カスタムアプリは企業の優位性を築く“核”になる」 “FileMaker”のCEOが語るローコード/ノーコード開発ツールの活用法
DXの重要性が指摘される中、企業が競争力を得るためには、自社に最適なアプリケーションを自ら開発することが重要だ。ローコード開発ツールとして広く利用されている「FileMaker」を提供するClaris。そのCEOにカスタムアプリケーション開発への取り組み方について話を聞いた。なぜ日本航空のパイロットは、ローコードでアプリを開発したのか
2011年、1人のパイロットがローコード開発ツールでアプリの開発を始めた。客室乗務員もその後に続き、現在はさまざまなアプリが内製されているという。彼らはなぜ、アプリを自ら作ろうと思ったのか。その根底には、航空業界の人間の責任と誇りがあった。「Apple II」に「Lisa」、そして「Macintosh」 私の青春はAppleとともにあった
グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回はClarisでプロダクトマーケティングとエバンジェリズム担当ディレクターとして活躍するAndrew LeCates(アンドリュー・ルケイツ)さんにお話を伺う。昔からオタク気質で、朝から晩までコンピュータをいじっていたアンドリューさんが「データベース」に魅了されたきっかけとは。若者が今、経験していることは私たちが経験したものとは違っている
グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回も前回に引き続き、Clarisでプロダクトマーケティングとエバンジェリズム担当ディレクターとして活躍するAndrew LeCates(アンドリュー・ルケイツ)さんにお話を伺う。引退を考える年齢になった現在においても、アンドリューさんは学びを止めない。その力の源は何なのか。